第3話〜ぼくのドッペルゲンガー③

…………。


(……あれ、もう、終わったのかな?)


意識が覚醒してきた。


そうだ、ここはいつもの病院の検査室。


いつもなら声をかけられて、すっきりとした目覚めのはずなのに、今は妙に頭がぼーっとしてる。


上体を起こして、躊躇いつつも検査の為の機器を頭から外しても声はかからず、それどころか部屋がいつの間にか暗い。


電灯が消えて、非常灯の灯りだけがうっすらと室内を照らしていた。


停電だろうか?


遠くの方から慌ただしく人が動く雰囲気が伝わって来た。


病院だし、非常用の電源はあるだろうけれど、停電は何かと不具合が多いのだろう。


いや、もしかしたら寝ている間に地震や、火事でもあったのかもしれない。


このまま待っているだけだと、万が一があるかもしれない。


とにかく、現状を把握しないと。


あいにく検査室には呼び出し用のボタンはない。


待っていても誰も来ないから、壁に取り付けられた手すりに体重をかけながら立ち上がる。


短い距離なら、掴まりながらであればなんとか移動できた。


入り口に立て掛けてある杖を手に取って一安心する。


バランスを取りながら扉を開けて、廊下に出た。


廊下も非常灯の灯りしかなくて、薄暗い。


とりあえず、待合室に…


ーーーピッピッピ……ピッピッピ……


隣の部屋から警告音みたいな音が漏れているのが聞こえてきた。


なんだろう?


入ったことのない部屋だ。


曇りガラスのせいで、というか灯りが付いてないから中の様子は分からない。


「…………。」


妙に気になって、僕は吸い寄せられるようにその部屋へと近づいていった。


それはほんの好奇心だったのかもしれない。


屋敷では、自分の部屋の外では常に誰か一緒にいて、好きに歩き回ったりなんてできなかったから。


ほんの少しだけ、中を覗いてみようか。


もしかしたら僕が寝ている間にアナウンスがあって、中にいる人が聞いているかもしれないし。


そんなことを考えながら扉を少しだけ開く。


どうやら中は個室のようだった。


様々な機器が置かれていて、たくさんのチューブに繋がれた誰かがベッドに横になっている。


薄暗い室内だったが、その膨らみの大きさから僕と同じくらいだろうか。


たくさんのモニターと、見たことのあるものと見たことのない機器がたくさんあった。


そう、見たことがあると言えば、横になっている人は僕がさっきまで被っていたものと同じ機器を付けていた。


妙に緊張してきた。


不思議な感覚が僕の中にあった。


気がつけば部屋の中に入って、一歩、また一歩と踏み出していた。


薄暗くて、非常灯のうっすらとした灯りしかないけれど。


けれど。


横になっているのが誰か、なぜだか分かる気がした。


そう、彼は、¨彼¨は…


「⬜︎⬜︎…!」


不意に背後で扉が開き、誰かが入ってきた。


記憶にあるものよりやや低く、焦ったような声だったけれど、それが誰だかはすぐに分かった。


「父さん…?」

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