4 降って湧いた見合い話
「そう言えば、クリフ。ちょっと聞いてくれよ。あ、コーヒーもう一杯入れてくれ」
ジュリオの部屋で二人テーブルに向かい合わせで朝食を食べていると、彼が話しかけてきた。
「はい、コーヒーですね? それでお話とは何でしょうか。ジュリオ様」
カップにコーヒーを注ぎながら相槌を打つ。
全く……朝食の時間くらい、ジュリオとは離れていたいのに。彼は僕に給仕の仕事までさせるので、必然的に二人で一緒に朝食を食べることになっている。
「ああ、実はな……急遽、今度の休日に見合いをさせられることが決定してしまったんだよ」
口をとがらせながら、ジュリオがオムレツを切り分けている。
「へ〜……そうなのですか。お見合い……ええ⁉ お、お見合い‼」
驚きのあまり、思わず席を立ってしまった。
「な、何だよ。立ち上がるほど、驚くことか?」
ジュリオが驚いた様子で僕を見上げる。
「それは驚きますよ! 何故、こんな突然にお見合いの話が出てくるんですか‼」
今朝見た夢を思い出し、背筋に冷たいものが走る。
「そうだよな? 俺もそう思うよ。全く……まだ俺は18歳なのに……色々な女の子たちと遊びたい盛りなのに仮に婚約なんかしようものなら、もう堂々と他の女の子たちに手を出せなくなるじゃないか」
どこまでもクズ発言をするジュリオはさておき……。
「あ、あの……ジュリオ様」
再び着席すると、恐る恐る声を掛けた。
「何だよ? 随分顔色が悪いじゃないか?」
スープを飲みながらジュリオが怪訝そうな顔で僕を見る。
「い、いえ……。そ、それでお相手の女性の名前は聞かされていますか……?」
駄目だ、ショックで声が震えてしまう。
「名前? う〜ん……名前ねぇ……分からん」
「ええ⁉ そんな! 自分のお見合い相手の名前くらい覚えていくださいよ!」
「そんなこといちいち覚えていられるかよ! 父親の命令だから渋々見合いはするけど、どうせ断るつもりだからな」
「え……断る……? そうなのですか?」
「当然じゃないか。さっきも言っただろう。婚約でもしようものなら、もう他の女の子たちと正々堂々遊べないって言ったよな。俺みたいな美貌の持ち主がたった1人の女に縛られるなんて勿体ないと思わないか?」
髪をかきあげ、フッと笑うジュリオ。
「あー……はいはい、そうですね」
「なんだよ、その冷めた目は……まぁ、とりあえず三日後が見合いだからお前、予定開けておけよ?」
「え? 冗談ですよね。休日は僕も仕事休みなのですけど?」
休日くらいジュリオのお守りから開放されたい。その権利は十分すぎるほど僕にはある。
「駄目だ、これは主の絶対命令だ! いいか、お前も見合いの席に同席するんだよ!」
「はぁ⁉ 何故僕がジュリオ様の見合いの席に同席しなくちゃならないんです⁉」
めちゃくちゃだ。特権乱用だ。
「当然だろう⁉ 俺は見合いなんかしたくないんだ。だからお前がその場を盛り上げるんだよ! それくらいのこと出来るだろう⁉」
「いやですよ! どうせお見合いしても断るなら、いっそ失敗させたほうがいいじゃないですか!」
「ばっかやろう! わざと見合いを失敗させるような真似したら、父にどんな罰を与えられるか分かったものじゃないだろう⁉」
「いいじゃないですか、たまには罰を受けたって! そのほうがジュリオ様だって人間的に成長できますよ!」
「お、おま……おまえ! なんてこと言うんだよ!」
こうして僕とジュリオは朝食の時間、ずっと議論を交わし続けた――
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