3 手の焼ける主

「おはようございます、ジュリオ様。今朝はすんなり起きてくださいましたね?」


アルコール臭たっぷりの匂いをまとわりつかせているジュリオに笑顔で朝の挨拶をする。


「お前がいきなりカーテンと窓を開けたからだろう? 日差しがモロに俺の顔に直撃して眩しくて目が覚めてしまったじゃないか!」


「それよりもジュリオ様。昨夜はかなりお酒を召し上がられたようですね? 今日も学校があるのに、そのようにアルコール臭を充満させて登校されますと教授に注意されますよ?」


ジュリオのクローゼットから衣類を出しながら考えた。それにしてもアルコール臭いな……この分だとシャワーを浴びさせたほうが良さそうだ。


「おい! 今、さり気なく俺の話を無視しただろう⁉ お前は俺の下僕のくせに本当に生意気なやつだな」


「では別の下僕に変えますか? 僕は少しも構いませんけど?」


ジュリオがどれだけ、僕を頼りにしているか分かりきっている。僕を手放せば困るのは彼の方なのだ。


「う……そ、それは……い、今のは言葉の綾だ! 分かった、起きればいいんだろう? 起きれば!」


案の定、ジュリオは苛立たしげに上掛けをはぐと、ベッドから降りてきた。


「はい、これをどうぞ。ジュリオ様」


そこで早速、ジュリオに着替えを手渡した。


「いつでもシャワーを使えますので、すぐに浴びてきて下さい。学校へ行く準備は僕がしておきますから」


彼の機嫌を損ねないために、笑顔を向ける。


「チッ……全く……分かったよ。浴びてくればいいんだろう」


ジュリオが自室に備え付けのバスルームへ姿を消すと同時に、直ちに学校へ行く準備を始めた。


「え……と、1時限目は歴史だったな。そして2時限目は経済学……うわ、レポートまとめていないじゃないか。全く……今日が提出日なのに……仕方ないな……」


こんなことは本人の為にはならないのは分かっているけれども、ジュリオの成績が下がれば何故か僕の給料が減額されてしまう。


「全く……」


ため息をつきながら、僕はレポートをまとめた――



「……よし、こんなものでいいだろう」


レポートを三枚にまとめたところで、カチャリと扉が開かれてバスルームからジュリオが出てきた。


「……浴びてきたぞ」


バスローブ姿で金色の髪をクシャクシャとバスタオルで拭いながらジュリオが僕の手元を見て指さした。


「あ! そのレポート……」


「はい。まとめておきましたので、登校する前にまとめておいてくださいよ。流石に僕の字では提出するのはまずいですから」


「ああ、それくらいはやるよ。よくやった!」


ニヤリと笑うジュリオ。きっと、この笑顔に世の女性は騙されるのだろうと思いながら返事をした。


「それでは、朝食をお持ちしますのでレポートを書き写しておいてくださいね。提出日は今日ですから」


「分かってるって。それより早く食事を取りに行ってこいよ」


シッシと僕を手で追い払うような素振りをするジュリオ。


「はい、それでは行ってきます」



一礼すると僕は部屋を出てため息をついた。


「ふ〜……まさかレポートまでやる羽目になるなんて……」


決めた、旦那様に報告して今月分の給料を割増してもらえないか直談判してみよう。


そして僕は朝食を取りに、厨房へと足を向けた――



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