2 僕の事情

 この世界にはごくまれに『特異能力』を持つ者が存在する。


ある者は手を使わずに物を動かすことが出来たり、またある者は水を操ったり火を操れる者もいる。

そんな彼らは『希少人物』とされ、国の監視下に置かれてしまう。だから彼らはあまり自分の力を誇示しないで、目立たないように生きているのだ。


そして、僕の能力が先程の『先読み』の能力だった。

この能力はある人物を見ることで、突然前触れもなく頭に少し先の未来が浮かんでくる。これは別に自分の意思とは関係なく現れるのだ。


いわゆる予知能力的なものなのかもしれないが、今みたいにポンプにひびが入って水漏れが起きてしまう……といった些細な未来しかみえないのだけれど。


しかも何故か自分の未来のことについては少しも頭に浮かんでこない。

自分の未来がもし見えれば、競馬場に行って当たり馬券を買って家計を楽にすることが出来るのに……中々思うようにはいかない。


「はぁ~……お金さえあれば、こんな仕事、とっくに辞めているのに……」


僕の主、ジュリオは最低な男だった。我儘で、傍若無人で他人の意見など聞こうともしない。そのため常にトラブルが絶えず、僕はいつも彼の不始末の後処理をさせられていた。


あげくに僕は彼と同じ学校に強制的に通わされているため、学校内でも彼のお守をさせられているのだからたまったものではない。


歩きながら何度目かのため息をついた時、背後から声を掛けられた。


「おはよう、クリフ。背筋が曲がっているぞ」


その声は……


「おはよう、父さん」


振り返ると挨拶をした。


「こら、父さんでは無いだろう? 屋敷内では執事長と呼びなさい」


僕と同じシルバーの髪に青い瞳の父が険しい目で僕を見る。


「あ、申し訳ございません。おはようございます、執事長」


背筋を正し、改めて挨拶をする。


「うむ、それで良い。これからジュリオ様のお部屋へ行くのだろう? 今朝は昨日よりも気温が高いので、洗顔桶には水を入れて用意するようにな」


「はい、承知致しました」


全く、親子なのにそっけない会話だ。


「よし、なら行っていいぞ」


「では失礼致します」


僕は背を向けると、バスルームに洗顔桶を取りに向かった――




****


「ふぅ……今朝はちゃんと起きてくれるだろうか?」


水の入った洗顔桶、タオルを乗せたワゴンを前に深呼吸する。ジュリオはいつも寝起きが悪い。一度の声掛けで起きることなど滅多に無い。


コンコン


扉をノックし、少し待つ。


「……」


更にノック。これを三回繰り返してもやはり無反応だ。


「仕方ないな‥‥…」


こうなると、もう勝手に部屋の中に入るしかない。僕は信頼? されているので彼の部屋の合い鍵を手渡されているのだ。

ポケットから鍵を取り出すと、早速ガチャガチャと開ける。


「おはようございます。ジュリオ様。入りますよ」


扉を開けながら室内に入ると……室内は分厚いカーテンが引かれて薄暗く、アルコールの匂いが充満していた。


「全く……またお酒を飲まれたのですか?」


ジュリオは酒癖が悪くて困る。

僕はそのまま窓に向かうとカーテンを開け、ついでに窓も大きく開いた。途端に室内は明るい太陽の日差しに包まれる。


すると……


「うわ! ま、眩しいじゃないか! クリフ! お前……一体何するんだよ!」


ベッドの上から怒鳴り声が聞こえてきた――

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