5 主の為に
学校へ行くために、いつものようにジュリオと馬車に乗り込んだ。
扉を閉じると、早速馬車は音を立てて走り出す。
「は〜全く、今朝はお前とのくだらない議論のせいで食事をした気分になれないぜ」
窓の外を眺めながらため息をつくジュリオ。その言葉、そっくりそのまま返してやりたいが……ここは我慢だ。ぐっと言葉を飲み込む。
その矢先、突然前触れもなく頭の中にある光景が浮かぶ。
「ジュリオ様、何となくですけど……今日の歴史の授業で抜き打ちテストが行われる気がします」
「何だって⁉ どうしてこんな間際になってそんな話するんだよ!」
ジュリオが真っ青になって文句を言ってくる。そんなこと言われてもこちらだって困る。
「ええ、今何となくそんな予感がしたので。ほら、前回丁度ステラ歴の範囲が終わったばかりじゃないですか」
「そ、それじゃステラ歴の範囲がテストに出るってことか?」
「ええ、多分ですけどね」
多分……と言うか、絶対だ。僕の『先読み』の能力は過去外したことがない。
「分かった! よ、よし……クリフ! お前のいつもの直感を信じよう! テストの山を張ってくれ!」
「はい、分かりました。それでは教科書を出して下さい」
僕の言葉に急いで教科書を開くジュリオ。
彼の父親は全てにおいてとにかく厳しい。そして僕にも厳しい(理不尽だ)。ジュリオの成績が落ちれば連帯責任として、僕の給料が減給されてしまうのだ。けれど、彼の成績が上がれば、別途手当を貰える。だからジュリオには頑張ってもらわないと。
「いいですか? まずは……」
そして僕は頭に浮かんだテスト問題を教科書から拾い上げながら、いつものごとく彼に説明を始めた――
****
馬車が学校に着いた頃には、ジュリオに試験内容の問題を全て教え終わっていた。
「よし、今回も何とかなりそうだぜ」
教室に向かいながら鼻歌を歌うジュリオ。
「ええ、そうですね……」
返事をしながら、既に僕は疲れ切っていた。突発的に『先読み』の能力が発動するのは別に構わないけれど、非常に体力が消耗されるのが欠点だった。
今朝は既に一度、能力を使っているし……
「は〜……」
ため息をついた頃に僕達の教室に到着した。
「それじゃな、クリフ」
ジュリオは僕に声をかけると、さっさと教室の中に入っていく。
やれやれ……
心の中で安堵のため息をつく。ここからようやくジュリオから僕が開放される時間が始まるからだ。
僕とジュリオは同じクラスメイトでありながら、校内ではあまり一緒に行動することはない。理由は互いの爵位の違い……といったところだろうか?
ただ、始終校内で離れて行動しているわけではない。
彼にちょっとしたトラブルが発生した場合に緊急出動要請がかかるのだ。だが、それ以外は彼から離れていられるので、ある意味学校生活は僕の息抜きの時間となっていた。
僕も教室へ入ると、早速教室の一番うしろの席に座っていた友人のマイクとニールが挨拶してきた。彼らも僕と同じ、男爵家だ。
「おはよう、クリフ」
「おはよう」
「うん、おはよう」
挨拶しながら着席するとマイクが声を掛けてきた。
「どうしたんだよ、今朝はいつにもまして疲れ切った顔してるぞ?」
「また我儘な主に振り回されたのか?」
ニールが窓際の席に座って女子生徒たちに囲まれているジュリオをチラリと見た。
「う〜ん……まぁ、それもあるけどね……あ! それより2人とも。多分今日は歴史の抜き打ちテストがあるよ」
「何⁉ 本当か!」
「どこだ! 教えてくれよ!」
焦る二人の友人。
「うん、いいよ。多分範囲は……」
友人思い? の僕はマイクとニールにも試験範囲を教えてあげることにした――
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