真相_Ⅵ

『…オクタ氏?』

どうした、という彼の声にオクタは安心感を覚えつつ、正直に電話の向こうの相手へ自らの行いを語る。

「──…俺、殺しちゃった」

乾いた笑い声が漏れる。






『──え?殺したって、…まさか本当に『青年』を?』

冗談だと思ってた、とでも言いたそうな声音がレシーバの向こうから聞こえてくる。

信じられないとまでは言わないが、単なる友人同士の悪ノリの一環だったと本気で思っていたであろう、炉景ロケイの様子がひしひしと伝わってくる。


「うん。俺ね、殺しちゃったの。『青年』君のこと」

『いやほんとに……。…そうか、そうか』

何かしらの感情を察したのか、一つ深呼吸。

それからすぐに『…とりあえずオクタ氏、お疲れさん』と彼を労う言葉が最初に出る。




『話は聞くよ。大丈夫か?』

炉景の言葉に更にほっと安堵したのか、

「…一応ね。シュシュちゃんと計画した通りの、一通りの少ない所でさ。呼んで、計画通り口論になって、俺とシュシュちゃんとでね、んで後は刺すタイミング窺って俺かシュシュちゃんのどちらかが殺すだけだったんよ。けど俺達ももうそういう状態になっちゃってさ、俺もすげー腹立って、……とうとう、『ぶっ殺してやりてえ』って気持ちでいっぱいになってさ、…そしたら、衝動的に思いっ切り刺したのよ。心臓を」

『これまた思い切ったな』

以外にも炉景は特に驚きも引きもせず聞き入っていた。




『──で、オクタ氏、今どんな気持ち?』

炉景が一息入れて改めて彼の心境を訊ねる。

「…ああ、すっごく気味がいいし、夜だけど天気のいい朝みたいに晴れ渡った気分だよ。




個人の逆恨み等を含め『青年』への憎しみを持っている彼等からすれば、『青年』の殺害と死は都合の良いもので、喜ばしい情報なのは確かだ。

自分達のしてきた罪を『彼』に着せてこの世から消し去ってしまえば、最初から自分達は被害者だと主張出来る。

死んだ『青年』を加害者に仕立て上げられる。

ざまあみろ、と死体に蹴りを永遠に入れ続けられるのだ。自分達に子供が生まれ、その子孫の代に至っても。



小憎らしい存在を、自分達にとって邪魔な存在を、この世から排除した上に『自分達の罪の清算』の為に都合良く利用してやったのだ。

最初こそ動揺はしたが、まるで原罪から解き放たれた人類の気持ちを今なら理解出来そうだと、──焼却炉に放り込んだその時は思った。











「──そう思えたんだ。けど、今、ちょっとね」

『?どうしたんだ』

「一応殺しちゃったのは事実なワケで。…人殺しちゃったから、人殺しのレッテルみたいなのがさ、」

途端、オクタの声が震え始める。

『……大丈夫だって、こう考えりゃいい。『アイツは生きる価値の無いゴミだったんだ』って考えろオクタ氏。『頭の沸いた奴だから』って』


『そういう奴を殺したって事は、正しい事なんだ。世の中の為にやった事なんだ。だからオクタ氏は正義だ』

炉景は震えるオクタをフォローする。






──彼の言葉に、以前シュシュが言っていた「わたしたちのする事は全部正しいことなんですから♪」という言葉が過ぎった。

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