真相_Ⅴ

「…、ミヌちゃん」

急いで水狗ミイヌの元へ駆け付け、少し肩で息をしながら声を落ち着かせて彼女の名を呼ぶ。

「あ、おっくん…」

その場にへたり込んでいた水狗は愛するオクタの姿を一目認識した途端、なよやかな乙女の様に彼へ抱き着いた。


最早その姿は、何時もの明るく分け隔ての無い元気な女性ではない。夢見て恋する女詩人の様な言葉を綴りながら、愛し合う姿を世俗に晒す蕩けた色情に自らやつすメスの姿だ。



「怖かったよね、ミヌちゃん、大丈夫」

、とは敢えて言わなかった。どうせ言わなくったって分かってるはずだ、とオクタは確信している。

何より、何時も分け隔ての無い明るい自分の女が突如として男に依存するメスの姿を曝け出した事が、目の前のメスを徹底的に支配したがるこのオスには酷く喜ばしく、そして日常では有り得ない光景に直面しているからこそ、オスの本能が下腹部で蠢き出しかけていた。

(あー…、いけない、こんな状況なのに、ミヌちゃんが可愛くてエロくてエロくて、俺のチンコ勃起してきやがった……)

こんな状況にも関わらず、オクタは淫猥な妄想故に目の前の女ミイヌを犯したい衝動に駆られる。倫理的潔癖がなんだ、可愛すぎて俺のものにしたい、種蒔きして、孕ませたい。





──そんな雄の欲求と本能に駆られながら、節操無く雌としてオクタと絡み合おうとする水狗を僅かな理性で突き放して、辺りの血の海はどうなったかを確認する。


「…なあミヌちゃん、もしかして全部片した?」

「え?……うん。残してたら、わたし達が疑われちゃうかもしれないでしょ」

水狗は当たり前の様にそう言い放った。

「…そうだね」

オクタは水狗の意外としっかりとした部分に自身の脳内で恋人の様に甘い交わりをし始めてから何百回目の一目惚れをその場で執拗に繰り返しながら、予め巻いた煙草を取り出そうとする。

「…あ、そうだ煙草吸ってくるね。……ミヌちゃん、シュシュちゃん戻ってくるまでここで待ってよっか。」

誰かに電話してもいいからね、と付け足してから、オクタも少し離れた所で煙草を吸いながらスマートフォンを取り出して電話を掛ける。



──トゥルルル、











『──はいどうも、炉景ロケイです』

「もしもし、ロキ君?」

オクタが掛けた電話の先には、炉景がいた。

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