真相_Ⅳ

「ミヌちゃん!?」

愛する方じぶんを無視して真っ先に青年の方へ駆け寄る彼女に、一度裏切られた感覚を覚える。

そして同時に彼の中で愛する彼女へ対し、へ対する弁明を必死に繕った。

「違うんだミヌちゃん俺は殺してない殺してない殺してない殺してない殺してない」

弁明の言葉を紡ぎ、繰り返す。──然し次に彼女が発した言葉で、彼自身は未だ彼女から愛されている事を深く深く実感した。




「何とかしなきゃ、見つからないようにしなきゃ、っ…何とかしなきゃ、見つからないように…見つからないように……!」






──水狗ミイヌは、状況を瞬時に理解し「隠蔽」を望んだ。オクタとシュシュの犯行を、無かった事に、と。


結局の所彼女もまた、根底はオクタやシュシュと同じ『人間バケモノ』だったのだ。






「…でも、にしてしまえばなんの問題もありませんよね?」

青ざめる二人の様子を恍惚から覚めたシュシュがぼんやり見つめ、口走る。



──だったらにしてしまえば良い。




シュシュの提案に二人は彼女を素早く見る。提案も含め最初から全てが異常だったが、害意を隠し、行為に至った事を完全に消し去るには「焼却」こそ丁度良いと判断したのだ。

「そ…そうしよう!シュシュちゃん、ミヌちゃん、運ぶの手伝って!あ…あと、刃物も処分……」

「いいえ。。だって見つかっちゃったら意味無いじゃないですか。それに自分の身を守る為に抵抗するための道具を手放すなんてもったいないですよ♡」

笑顔で言い切ったシュシュの瞳は、発言の異常さとは真逆に純粋な幼子の様に澄んでいた。



「…あ、ああ」

ぞくっ。オクタの背筋を暗い何かが這った様な、全身に寒気が伝播してゆく様な感覚を覚える。

「はやくうう~~~見つかっちゃったらおしまいだよおぉぉ~~~~~」

一方の水狗はまるで駄々をこねる子供の様に泣き喚きながら『青年』の遺骸を引きずっていた。

「ああ~もう分かったから!ミヌちゃんここいて!見張りしながら辺りの血何とかして!」

オクタは水狗に見張りと清掃を頼み、シュシュと一緒に青年を焼却炉へ運んでゆく。











「──ふぅ、…ここからそのまま投げ込んじゃえば『彼』はもうこの世にいません。早く戻って片付けちゃえば、わたしたちが殺しちゃった証拠なんて、残らないはずです♪」

額の汗を拭うと、シュシュは思い切り『青年』の遺骸を蹴飛ばして焼却炉へ突っ込んだ。

──そしてその瞬間、焼却炉の中の火はごうごうと燃え始め、肉の焼ける音にバチバチと火花の散る音が、匂いと共に二人の耳に届き始める。

『青年』の構造に使用されていた機械の骨格が、まるで彼自身の悲鳴の様にギャアアアアと炉の中で鳴り響く。

「あぁ…なんてきれいで素敵な音……」

うっとりと恍惚に浸るシュシュ。『青年』が炎の中で燃えてゆく光景をありありと思い浮かべているのか、殺害の快楽へ対する蕩けた表情を浮かべ、憎い者の死から得られる悦を身と心でじっくり味わっている様子だった。


まるでクラシック音楽を優雅に聴き入る文化人の様な振る舞いをしているシュシュに、ごくりと生唾を飲み込んで緊張しながら彼女を見るオクタもまた、炉の赤い光に照らされて緑の目が明るく光る。

…そこから『青年』が燃える炉をしばし見つめていた彼が、ふと一人取り残されている愛する方ミイヌの存在を思い出し、焦燥に駆られながら急いで彼女の所へ戻っていった。

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