無機の夢_Ⅷ
──扉から出た二人は、ただ皆と合流の出来る地点を目指して進めそうな所をひたすら進み続ける。
途中で危険そうな場所やセキュリティが活動している場所は極力避け、安全そうな道を進み、
引き返し、
時に突っ切ってゆく。
「あぶねー!」
どうやら先程通った道は劣化が進んでいたらしく所々に穴が空いていたり、一歩踏み入れた瞬間穴が空いたなんて事があった様だ。
「スリリングだった~」
…先程の怯えた様子とは打って変わって、
「そりゃスリリングだったけど!落っこちたらひとたまりもないからねミヌちゃん!?(^ν^)」
そんな彼女につられてか、オクタもいつものおどけた振る舞いに戻っている。
「…まあ、今はこうやって愛方とか恋人みたいなノリでずっと夫婦漫才なんかしてるヒマ無いってワケだしさ、……行こう」
場の状況を思い出し、オクタは再度進み始める。
「おっくん待って~」
水狗も彼の後を追って付いて行く。
暗い道をただひたすら進み続ける。進めど進めど同じ様な光景に合流が叶うのかすら疑問に思う。けれど進み続ける他の選択肢は無かった。
味気の無い光景に気持ちが沈むのを少しでも和らげようと、恋人の睦み合いの様に談話をしながら二人は進んでいた──
「…ミヌちゃん、俺さ、『倫理的潔癖性』を本質に持ってるってさ、公表したことあるの覚えてる?」
「え?」
『倫理的潔癖性』。かつて、オクタが持っていると自称していたもの。
「俺ね、エロい事とかさ…ほら俺達がその時流行ってたゲームとかで毎日仲良く遊んでた頃の事とか、覚えてるだろ?よく君やハニハニ…
「あー!そうだったねー!」
…欠けた当時を思い出してか、水狗が思い出した様に自分の身体をオクタに押し付け始める。
「ちょっと?やめてミヌちゃん?(^ν^)また勃っちゃうから!(^ν^)」
必死に彼女を止めようとするが、悲しいかな男の本能。あれだけ交わったのに水狗の身体を思い出してゆっくりと勃起し始めていた。
「抜いてあげよっか?♡」
水狗はオクタが言うところの『魔性の女』の様な振る舞いをして勃起したオクタな陰茎を口で慰めようとする。
「ダメ、ダメだってミヌちゃん。こういう事より先にみんなと合流しよ?」
「なーんだ、しょうがないなぁ」
オクタが必死で止めると、水狗はつまらなさそうに口を尖らせて諦めた。──どうやら水狗の方がこの手の行為を喜んで楽しんでいたらしい。
「ハイハイ後ね後。そんなに俺のこと欲しがっちゃうミヌちゃんもかわいいよ(^ν^)」
オクタはおどけた態度に変えて彼女を宥めてから先程の言葉の続きを紡いだ。
「ゲームん中でさ、俺とミヌちゃんが恋人…愛方同士になってさ、みんなから祝福されてさ、そんで俺とミヌちゃんのペアの絵とか仲良くしてたフレンズのランちゃんが描いてくれたりとか、ミヌちゃんがゲームの中で俺とウエディングしてくれたり抱き合ったりしてくれて、よくSNSに上げてくれてたじゃん?」
「俺の好きな服が出てきてくれた時も君は俺の「88連にしたい!」って願いに応えてリアルマネー落としてお揃いにしてくれたじゃん。俺嬉しかったよ」
「んでさ、そうしてる内にさ、俺…ゲームの中でミヌちゃんと抱き合ったり愛し合ったり出来るんなら、俺の本質…倫理的潔癖性も何とかなるんじゃないかって気付いちゃったのよ」
──彼の話は、かつての他愛もない日々の話。
彼が
「俺、ほんとにミヌちゃんの彼氏なんだね。ミヌちゃんと、本当に愛し合っちゃった」
好きな女と添い遂げるのは男の本懐かもしれないが、状況、そしてこの
「おっくん…そっか、だから私のこと愛してるんだね?」
「そそ」
少し妙な会話だが、互いに上手いとこ伝わってはいる様だ。
「俺の倫理的潔癖性がこういう形で解決しちゃうなんて思いもよらなかったケドさ!目的も叶ってずっと一緒に生きられるようになったらさ、ずっと愛し合おう」
──男の表情はおどけた顔と言うより、普通の笑顔だった。
他愛もなく進んで行ったその先が、彼等にとって忘れ去ってしまっていたものを残すただ一つの場所である事にまだ気付かないまま。
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