無機の夢_Ⅴ

「──…危うくに迫られるとこでした」

ふーっと長い溜息を吐き、シュシュはアルコの血が付いた武器を素早く振り、その血を払った。

それでも取れなかった分は大雑把に己の衣服で拭い取る。




そしてシュシュは、辺りを見回しながら考える。

(…もしこのまま一人で出れば、多分先に着いてるみんなに怪しまれると思うから…確か少し歩いた先に別の道に抜け出られる所があったはず……)

、と彼女は安堵する。

それと同時に、自らの幸運を喜んだ。「自分は今もラッキーだ」と…






──






だからこそ真相になんか辿り着かせはしない。

わたしたちは正しかったと、完全で永遠に輝く善の証明を得られるのだから。


と、自分達の正しさを示せる。


その時が実現したら、世界はわたしたちこそ正しかったと気付く。

彼らは正気に戻る。

わたしたちこそ真のカミサマとして人間たちゴミ共から崇められるのだ。
















シュシュの脳内は、世界の全て──彼女達こそが「本当のカミサマ」になった時を、自分達が絶対的に正しい善そのものとなり人々から生ける神として崇められ好き勝手出来る理想的な未来を思い描いて顔がにんまりと緩む。



──シュシュが悦に浸っている間もアルコの心臓からは大量の血が止めど無く吹き出し続けており、事切れた彼女の全身を赤く染め上げ、シュシュの足元に大きな血溜まりを作ってゆく。


欲望を最も深く孕んだ瞳が深い赤色を視界内に認識すると、はっとシュシュは我に帰り抜け穴を急いで探す。




「あった♪ここから別の道へ進んで先回りしてからみんなと合流すればいいはず」

…仮に何か訊ねられたとしても、色々あったと説明してしまえばいい。

──自分の事も、アルコの事も、『真相』だけは器用に隠して。


今頃合流を済ませているであろう彼等の事を想いながら、シュシュはひとり抜け穴を通って先回りする事にした。

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