眠る『楽園』_Ⅳ

一行を乗せた車はしばらく進み続けたが、ある所でぴたりと運転を止めた。





「──ん~、やっと見えてきた♪」

目的地である『楽園』の姿が見え、シュシュは運転席から降りる。

「みなさん♪ここからは歩きじゃないと行けないので歩いて行きましょー♪」

まるでピクニックに興じる者の様に手をぱちぱち叩いて徒歩を促す。

彼女に促されて車から降りた水狗ミイヌHONEYハニー達を先導する為にシュシュは先に進んでゆく。


目的地である『楽園』を目指し、一行は前へ前へと進む。前を歩くシュシュが時折振り返って皆の様子を確認しながら、一行は確実に『楽園』に近付いていた。






「はいはいみんな~(^ν^)ちゃんと付いて来てるよね?」

──先導者では無いにも関わらず、オクタがいつの間にか仕切っている。


彼の仕切り癖はゲームの中でもSNSの中でもよく出ていた。他人の企画なのに彼が主催者の様に振る舞い、仕切ってしまう。

SNSでは自ら「みんなお待ちかねの今月のオクタルーム回!(^ν^)」等と書き込んでは華やかに輝く舞台の花形役者の様に大袈裟で派手な行動ばかりしていた程だ。


この男、根っからの承認欲求の塊だったのである。…かつての己がそういう人物である事を今は忘却している様だったが。




とは言え染み付いてしまった癖はそう簡単に消えはしない。──過去、ゲームの中でアルコが企画した強い敵や化物だらけの森を探険する「化物森林探検隊」という企画も、彼が参加する様になってからは彼が彼女の企画を仕切る様になった事があった。


今の彼も、その時の様な状態なのだろう。
















──車での進行ほど長いものでは無かったものの、大分長い距離を歩き進んだ一行の前に遂に『楽園』が姿を現す。

「着いたよ~♪」

「おぉ…」

シュシュは相変わらずクルクルと嬉しそうに回り、疲れを見せない。






滅んだ世界の中で、未だに神秘を失わない『楽園』。






その入口が、彼等の前にただ存在する。
















「──行こう!俺達の新しい場所だ!」

決意と希望を秘めた眼差しで見据え、そして彼等は『楽園』へ入っていった。

『カミサマ』に会う為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る