眠る『楽園』_Ⅲ

切り出された話題から始まった『楽園』へ向かう目的は、シュシュの運転する車のお陰で順調に進んでいた。

「あれがタワーで、…あそこに見えるのがツリー!」

後部座席に座る女達が窓からを指差ししながら観光気分を味わっている。


「それにしても人の手が一切入らず360年も経てば割と早くあんなんなるもんなんだな」

女達の浮かれた様子に少しばかり呆れた様子の炉景ロケイがぼんやりと遠くのツリーを見つめていた。






「案外長く持つもんだと俺も思ってたよ。でも、『楽園』ってのに頼れなくなったらこんなに変わり果てちまうなんてさ」

改めて聞き知った事を振り返ると、『楽園』という機構がどれ程重要で大きいものだったかを思い知らされる。

『楽園』──詳しい事は殆ど知らないし、覚えていない。

シュシュから聞いた限りでは、それはこの国を根底から支え、世界に貢献し、人類の発展と進化を促してきたものであるという。



生憎毎日の仕事や生活の傍ら、殆どを娯楽やSNSで「オクタフレンズ」と呼んだ彼等──炉景やシュシュ達と戯れる事と水狗ミイヌへの性的な欲望ばかりが募って遊び回っていた所為で世俗への関心に疎くなっていたオクタは、もう少し『楽園』について知っておくべきだったんじゃないかと後悔した。


──だが、時既に遅しというものだった。気が付いた頃には世界は既に死んでいて、その死んだ世界の上で細々と、だけど逞しく生きている生き残りが居て、自分を始め友人の殆どは何時の間にか冷凍保存コールドスリープで眠っていて、その間に年月は360年も過ぎていて、『楽園』はもう動かない…



だけど『楽園』は喪われたにも関わらず退廃の跡を此の世に残し、未だに神秘の象徴として世界に取り残されたままだ。

──まるで風雨に晒されながら眠る様に。






シュシュちゃんによると、『楽園』には自分を管理者として選んだ『カミサマ』がいるらしい。











──『神様』は信じる。だが彼女シュシュちゃんの言う『カミサマ』とは何だろうか?

本当に神様?

悪魔じみた邪悪なもの?

宇宙人?

それとも単なる彼女の妄想かもしれないし、幽霊の戯言たわごとかもしれない。



(だが俺はシュシュちゃんを信じたい。だって──)



ぎゅっ…と握られた拳に彼自身の想いが込められた事を、誰も知る事は無かった。

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