世界が死に絶えた日_Ⅱ

──だが、そこで「大人しく滅びます」という選択肢を選ばないのがヒトと云う生き物であり、滅びを受け入れたくなかったヒト達は悪足掻きをする事にした。


まず、大型のシェルターの確保。

次に、シェルターに避難したヒトの為の居住と食料の調達、生産体制の準備。

『楽園』の機構にあやからない機器の開発、及び改造。

『楽園』の強大なエネルギーに代わる自然エネルギーの利用。



『楽園』が喪われ、世界が死んでから時間は掛かったものの、彼等の悪足掻きによって全体から見て少数程に減少はしたものの、ある程度の人類は生き延びる事が可能になった。

かつての『楽園』のあった頃の水準より著しく下がってしまったものの、生き延びた彼等はそこで妥協する道を選んだのだ。






──それから、360年程の時が流れた…
















──…『悪足掻き』で生き延びたヒトの子孫が少しずつ死んだ世界の中で順応してゆき、「今」という形、世界を生きる様になった頃の事。


『楽園』よりは遠く、海を隔てた東の果て。──かつて『エルダ』と呼ばれた地で一つの動きが起こった。





その地にある大型施設、その内部に沢山収容されている冷凍保存機の中で、一人の人間が目を覚ました。





気味の悪い歪曲した光景から、少しずつ明瞭で冷たい施設の内部が明らかになってくる。気怠げな目覚めから辺りを無意識に目で確認するその姿は柔和で曲線的とは言えず、また勃起をしていない状態の陰茎がある事から、目を覚ました人間は男の様だった。


彼を氷の眠りに落とし込んでいた保存機が内部に居るの意識が覚醒した事を認識すると、無機質な音と共にそのサイドドアが開いた。



「ぇ、う…………」

360年と少しの間眠りについていた所為か、男の言語野は少々辿々しく短い言葉を紡いだ。

(なんだここは…………)

一方、意識だけは明瞭となっていたので脳内で正確な言葉を羅列させている様だった。



「(^ν^)……」

男は改めて己の姿を見る。冷たい施設の中では心細いどころか寒過ぎて仕方が無い。

何せ一糸を纏わず、生まれたままの姿だったからだ。


せめて服くらい置いとけ、ともうとっくの昔に居ない施設の責任者を心の中で責めた。ただ男も今の状況を男なりに理解している様で、使えそうな物と、生存している可能性のある者を探す。




「誰か~!起きてええ!じゃないと俺寂しくって死んじゃいそう~!(^ν^)」等とわざとらしく明るげに振る舞う。無論反応が返ってくる訳は無い。

「しゃーねーなぁ、一つ一つ確認してくしか無いみたいだし服探しながら中の奴ら叩き起こしに回るか」

男は面倒臭そうにしているものの、「独りではどうしようも出来ない」という理由で一先ず目の前に羅列されている多くの保存機に向き合う事にした。

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