Ⅰ_初動

世界が死に絶えた日_Ⅰ

──その日、世界が死んだ。











世界かれが死んだ日は、あまりにも在り来りで、けれど綺麗な青空と入道雲が夏の入りを教えてくれる午前中の事だった。

人類がやっと得た永い安寧という約束が砕かれ、『楽園』は機能を停止した。


途端、楽園の機構に頼り切っていた人間達は混乱に陥り、次々と役割を放棄してゆくあらゆる機能に回復と助けを求めるものの、叶う訳も無く死傷者が続出し始めた。


確実に事故になる事の無い車両も、

学業を大きく支える映写機も、

市民の生活に染み渡って助け続けた端末すらも。


一般に「機械」として扱われているものや利便性の高い無機物は全て機能しなくなり、安寧以前の世界の様に水準が下がってゆく。




だが一度起きてしまった出来事は、まるで少しずつ大きくなる波の様に災いの深度を増した。

機械の停止から、やがて生活に必要なエネルギーの開発や提供が止まり、娯楽どころかヒトが全うに生きる事が厳しくなってゆく。


『楽園』に全ての身を寄せ、首をもたげて甘んじていた者達は急速に失われてゆく全てにある者は恐れ、ある者は泣き叫び、ある者は発狂し、そして自害を選んだ。

また、『楽園』が生まれた少し後に勃興した『終末教』という新興宗教に心を捧げ尽くした者達は来たるべき終末に絶叫と歓喜を漏らしながら、共に殺し合った。


──その一方で、高額の金を払い自らを冷凍保存コールドスリープしようとする裕福な者もおれば、逆に豊富な資金の保有者である事を利用し選民して選んだ者を冷凍保存する道楽者も現れ、世間の混迷は極めつつあった。




自らの穏やかで先進的な安寧をもたらす、『楽園』という機構、機能を失った人類は混沌に堕ちながら徐々に崩壊と終焉の道を辿ってゆく。
















──そして、人類は世界と共に殉じた。

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