禍根の根

Mitron

0_観測

──其処は、一定の音のみが繰り返され続けている空間であった。

巨大な天球儀に色とりどりの液体、

水笛、

手鳴らしの鐘。

星を観る望遠鏡。

吊り下げられたウィンドチャイムに星の形のライトオーナメント。一見御伽おとぎと魔法の広がる場所の様であるが、魔法使いなど其処には存在はしない。



──其処に居るのは『獣』である。



大いなる蛇ウロボロスに従うモナドの第五の獣、『流転』の相を司る存在。

彼は蛇の言葉に従って或る一つの『根』を観測し続けていた。


数日ほど前に『禍根かこんの根』と名付けた『それ』を、彼は淡々と観測し続ける。



──『禍根の根』。それはまるで枝葉の如く分岐が生まれ、観測し見届ける度に『根』と呼んでいるものが増え、しかも下方へと伸びてゆくという奇妙なであった。

──そして観測した『根』の物語はほぼ必ずと言うほど悲劇的で救いの無い結末ばかりを迎えており、その舞台となる世界は最後には剪定されてしまう。


必ず死ぬ者、愚かさ故に身を滅ぼす者、弱者は死に、或いは殺され、傲慢で目の眩んだ残忍さが搾取する。

その上で皆は滅び、別の根で同じ過ちを繰り返し、何度も滅び、何度も凄惨に死ぬ。

生きていても、彼等は皆生き地獄に堕ちた。



獣はヒトの愚かさに多少なり愉悦を感じながらも、愚かさ故に破滅を繰り返すヒトの様相に若干の哀れみを覚え始めていた所であった。

そういう連中に搾取される者に至っては観測の度に繰り返され、回避の出来ない死や苦しみに灼かれるその姿に獣は淡々とした無情を覚える。


「──まあこの奇妙な世界の『根』を観測し続けなければならないから、彼等には彼等の役割を全うしてもらわなければならないが」と獣は心の中で言葉を紡ぎ上げながら、『根』の観測を続けていた。











──これは『禍』によって磨り潰される者と、下方へ伸び続ける『根』が見せる物語。

ヒトの『禍根』と楽園の関係性を探す流転の獣が見つめる幾つかの断片達である。

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