10.現在、空は青いです
「ねぇ!!!! 待って!!!! 待ってよ!!!!」
その大声に、足を止めて振り向くと、
「オイラ、MCBのタイムパトローラー隊長、シンバ・ネクストって言います!」
と、自己紹介されたので、
「俺はAAのタイムパトローラー隊長、シンバ・シャルト。あ、同じシンバだ。しかも隊長かぁ、年齢も近そうだな、よろしく!」
と、初めましてと言う感じで、人当たり良さそうな笑顔で返すシャルト。
「どっかで会ってますよね?」
「いいえ?」
「だって、さっき、オイラが勝手な単独行動をとったとか言ってたじゃないですか?」
「あぁ、あれはあの場の言い逃れ。ちょっと、今回、任務に梃子摺って、謹慎を言い渡されそうだったから逃げる口実探してただけ」
「でも、どっかで会ってませんか? 見覚えがあるんです、キミの、その青い髪——」
「まぁ、この可愛い容姿だから、男に好かれるのも慣れてるけど」
「違います! そういうんじゃなくて! なんか、思い出せなくて、忘れちゃってるだけな気がする。絶対に会ってるから!」
「・・・・・・でも、もう忘れないよ」
「え?」
「タイムパトローラーなんだから、どんなに時間越えても、忘れる事はないよ」
「・・・・・・うん」
「でもさ、もし、会った事があるって思うなら、俺はキミで、キミは俺なのかもな」
「え?」
「キミのMCBという時間は、俺のAAの時間から遥か遠い今だ。だから、遠い俺が、全く違う容姿や性格でも不思議はない。もっと遠くの時間の今の俺は、無で、存在もしない。だから、俺は、どこかの時間では、犯罪者かもしれない」
「・・・・・・」
「まぁ、キミが俺である証明はできないけどね。AAの時間内にいる俺なら、ほぼ俺そのものだから証明できるけど」
「・・・・・・」
「だからさ、俺が犯罪者になってる時間もあるって事は、そういう道もあるって訳で、そうならないように、ちゃんと人生の選択は見極めていかなきゃなって話」
「あぁ・・・・・・はい・・・・・・」
「ま、どこの時間の俺がなんだろうが、俺はヒーローだけどね」
と、シャルトは、笑いながら冗談っぽく言うから、ネクストは、
「僕もヒーローになれるよう、頑張ります! 僕をタイムパトローラーに推薦してくれた人の為にも、期待は裏切りません!」
と、強く頷いて見せた。
「そうだな、じゃあ、頑張って。バイバイ」
と、手を振って、行こうとするシャルトの背に、
「あの! アナタなんですよね? 僕をタイムパトローラーの隊長に推薦してくれた人! AAの人が推薦したって聞きました!」
と、ネクストは、そう叫んだ。シャルトは、振り向いて、
「さぁ?」
と、首を傾げて、バイバイとまた手を振ったので、
「あの!!」
と、ネクストはまた呼び止める。シャルトが振り向くと、
「あの・・・・・・また! またね!」
ネクストは、そう言って、まるで友達のように笑顔で、手を振った。
シャルトも、
「またね」
と、笑いながら、言う。
ネクストは、また会えるんだなとホッとし、シャルトの背を見送った。
シャルトは伸びをしながら、
「今回の仕事、割りとラクだったなぁ、ネクストが動いてくれたから」
と、独り言。
「近い内に、拓海の見舞いにでも行くか」
と、また独り言。
今と言う時間は、直ぐに去っていく。
だけど、今は常に自分の傍にある。
永遠に流れる今という時間。
だが、それは誰にとっても永遠ではない。
だから、有意義に使わなければならない。
皆、現在という場所にいる。
現在とは、時間を三つに区分した1つ。
過去と未来の間。
刻々と過去へと移り過ぎてゆく、今のこの時。
また、その瞬間を含んで近い過去から近い未来にわたる時間。
「さて、帰って寝るかな」
シャルトは再び伸びをして、青い空の下へと向かう。
本部となる建物から出ると、晴れ渡った空が高く、美しく、優雅に旅する雲が真っ白で、今日は晴天だ。
眩しい光に、目を閉じて、瞬きをする。
綺麗な青空だ——。
それだけで嬉しくなるのは、過去、積み重ねてきたものの大きさが、現在で、更に未来への予想が想像できるからだろう。
きっと、未来はもっと明るい。
現在、こんなにも空が青く、美しいのだから——。
例え、夢のように忘れられても、正義は無駄じゃない。
ふと、足元に、空の缶ジュースが転がっているのに気付き、それを拾うと、近くの自動販売機の隣に設置してある缶専用ゴミ入れに放り投げた。
ナイスシュート!
小さな事でも、只、それだけで、未来は変わっていく。
そんな難しい事じゃない。
誰だって、誰かのヒーローになれる。
例え、気付かれなくても、忘れ去られても——。
「過去のヒーロー達へ、現在、空は青いですよ」
現在にいるみんなが、未来へ、少しずつ、綺麗なものを残せたらいい——。
PRESENT ソメイヨシノ @my_story_collection
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