9.まるで夢でも見ていたかのように


「ネクスト、剣しまえよ」


シャルトにそう言われ、ネクストはハッと気付いたように、今の状況を把握する。


剣の刃に掠ったシャルトの頬や手などは血が流れている。


幸い、ソルジャー服で守られた体は平気そうだが、このまま戦いが続いていたら、シャルトの体に剣を貫いていただろう。


「なんて顔してんだ、助かったんだ、もっと喜べ」


「助かったの? オイラ達、助かったの?」


「うん、元の時間に戻れるよ」


元に時間に——。


それは別れを意味する。


部屋の中央、只、佇む拓海。


疲れたと言う顔をするシャルト。


そして、そんな2人を見つめるネクスト。


今、扉が開き、


「AAタイムパトローラー、シンバ・シャルト隊長! お迎えにあがりました!」


と、タイムパトロール隊の一人が敬礼をして、入って来た。


そのタイムパトロール隊の後ろにはズラッと同じタイムパトロール隊達が並び、拓海は確保され、ネクストは保護される。


そのタイムパトロール隊達を掻き分けて、行ってしまおうとするシャルト。


「シャルト! 待って!」


ネクストは思わず、シャルトを引き止めていた。


「シャルト、もうお別れなの?」


「そりゃそうだろ」


「だったら黙って行く事ないだろ! オイラに何か言ってよ!」


「何かって?」


「シャルト、本当にタイムパトローラーだったんだね、信じてたけど、でもどうしてオイラにその真実を話したの? どうして『よく思い出せ』って、暗示の言葉でオイラに嘘の真実を作って、言わなかったの? なんで? なんで正直に自分の事を話してくれたの?」


「・・・・・・さぁ?」


「オイラ、シャルトの事、忘れられないよ、いろいろメチャクチャだったけど、シャルトが明日もオイラの隣で無茶してるとしか考えられないよ。なのに、どうして、オイラ、消えないの? 重なる事のない今と言う時間が交差してしまって、出会ったのに、オイラの世界にタイムパトローラーなんてないのに・・・・・・だからオイラは消えちゃう筈だよね!?」


「・・・・・・さぁ?」


「なんで教えてくれないんだよ! 本当は何もかも知ってて、だからオイラに正直に自分の事を話したんじゃないのかよ!」


「何もかも知ってる訳ないだろ、言ったろ、俺に未来はわかんないんだって」


「嘘だ! 本当はタイムパトローラーって未来もわかるんだ!」


「わかってたら、苦労しねぇって!」


「・・・・・・シャルト、元に戻ったら、オイラ、シャルトの事、忘れるの?」


「あぁ」


「でもオイラ、覚えてるから! 絶対に覚えてるから! だから最後に、何か言ってよ。忘れないから——」


「なんだそれ。女との別れじゃあるまいし、何悲しくなってんだよ」


「だって! 記憶から消えちゃうなんて、存在が消えちゃうのと同じだよ、違う時間で生きてるって、わかってても、悲しいよ! ねぇ・・・・・・悲しいよ・・・・・・」


俯くネクストにシャルトは溜息を吐き、


「頑張れよ」


そう言った。ネクストは顔を上げ、シャルトを見ると、


「あんま変な女に騙されんなよ?」


と、ふざけた口調で、笑いながら、手を上げ、バイバイと手を振るシャルト。


ネクストはこれ以上、待ってと言う台詞が出てこなかった。


幾ら引き止めても、一緒の時間には帰れない。


もう二度と会えない。


記憶から全て消えてしまう。


なのに、無駄だったと思えないのは、やはりこの出会いに、未来があるのかもしれない。


コンビニで拓海が消した男、新羽 祥吾、風間 優梨がタイムパトロール隊に連れられ、拓海の前に来た。


3人共、時間を超えた時に、傷を負ったのだろう、包帯が巻かれ、手当てされている。


だが、運良く、掠り傷程度だ。


時間の中の迷子を保護するのはタイムパトロール隊の仕事。


「ははは、そうか、ボクが誰かを一人ずつ消す事によって、タイムパトロール隊に、ボクの居場所を教えていたようなもんだったんだ。ははは。そうか、最初からシャルトには完敗だったんだな。時には仲間も必要って事か。ずっと大勢対一人だったら、大勢の方が悪だって思ってたよ・・・・・・」


悲しげな笑いを見せながら、そんな事を言う拓海に、


「拓海、拓海は頑張ったよ」


と、全てを理解してか、それとも、理解はないが、泣きそうな弟を慰める為か、祥吾がそう言って、拓海の肩を抱く。


ネクストは、そんな拓海の傍へ行き、


「拓海くん、彼女ね、イジメられていた時、拓海くんが、やめろよって言ってくれた事が嬉しかったって。只、それだけの事なんだけど、嬉しかったって! 拓海くんがくれた優しさのおかげで、今迄、病気と向き合えたって言ってたよ。彼女が頑張って、今も生きてるのは、拓海くんがあげた優しさのおかげなんだよ」


と、どうしても、拓海に、それだけは言っておきたかった事を伝えた。


優梨は黙って俯いた。


今更、言うべきじゃなかっただろうか?


「酷い事してごめんなさい・・・・・・」


祥吾に抱かれながら、目は虚ろだが、優梨に向かって、拓海が、呟くように、そう言った。


ネクストは、少しホッとした。


拓海がこれからどうなるのか、わからないが、きっと、大丈夫だと思えた。


もうここからは、ネクストの仕事ではない。


タイムパトローラーに任せればいい。


案内されるまま、ネクストもタイムマシーンに乗り込んだ——。


タイムマシーンの中で、シャルトの姿はなくて、多分、違うマシーンに乗ったのかもしれないけど、ネクストはシャルトを目で探していた——。


——どうか、また会えますように。




「ネクストくん?」


その声に薄っすらと目を開けると、白い天井が見えた。


「ネクストくん、大丈夫?」


「ん? んん、あぁ、あれ? ここはどこ?」


「病院よ。寝言いってたから、声をかけたら、目を覚ましたの。ごめんね、もう少し寝かせてあげれば良かったかしら」


「んー・・・・・・うん・・・・・・病院って、オイラ、なんで・・・・・・?」


「覚えてない? バニアイリスで、アナタ、社長に歯向かったの。でもまさかバニアイリスで恐竜を製造していたなんてね。アナタは恐竜を創っている研究室で戦ったのよ。でもコンピューターが突然爆発してね、その爆発に巻き込まれたの。社長は捕まったわ、でも無傷で、助かったって言ってた、アナタが社長の命も助けたのよね? ソルジャーの服を着てたから、アナタの怪我も大した事なかったけど、もしかしたら頭を強く打ってるかもしれなくて、記憶障害を起こす可能性があるって」


そう説明してくれたのは、オイラの恋人だったバニラだ。


どうして彼女がオイラの傍にいるのだろう?


別れた筈では——?


ネクストはベッドからゆっくりと体を起こし、バニラを見る。


バニラは優しい微笑みを見せる。


「アナタはヒーローだわ、世界を変えてくれた」


「世界を変えた?」


「全ての恐竜はバニアイリスのコンピューターで管理されていたの。だから、全ての恐竜を1つの大陸に移動させたのよ。そして人々は、恐竜のいない地上に行けるの。地上は光が溢れ、まさに楽園だって、皆、アナタに感謝してる。アナタはこの世界のヒーローよ」


「・・・・・・」


言葉が出てこない。


「ね、ネクストくん、私達、やり直さない?」


「え?」


「本当は別れたくなかったの」


「・・・・・・」


「ネクストくん?」


あれは誰だろう。


『あんま変な女に騙されんなよ?』


と、ふざけた口調で、笑いながら、手を上げ、バイバイと手を振り、いなくなる男。


綺麗な青い髪をしていた。


背も低くて、色白で、まるで女の子のような男だった。


寝ていた時に見た夢だろうか——。


誰かもわからないその男が、ネクストにとっては、ヒーローに思えた。


「ごめん、キミとは付き合えない」


「え?」


「だって、キミ、本当のオイラを好きなんじゃなくて、人々に感謝されてるオイラが好きなんだろ?」


「・・・・・・なにそれ。馬鹿にしてんの!? 信じられない! 誰が看病してやったと思ってるのよ!?」


「頼んでないよ」


そう言ったネクストに、バニラは唖然とする。


バニラが知っているネクストは、もっと気弱で、なんでも頷いてくれて、優しさだけが売りの男だった。


「頼んでないけど、看病してくれた事は嬉しい。ありがとう。でもバニラはもっと、見返りとか考えないで行動した方がいいよ。その方が、バニラの為でもあるよ」


なんで、こんな事を言われなきゃいけないのか、バニラはカチンと来て、ネクストの頬を引っぱたいた、その時、突然、ドアが開いた。


「おや、失礼! 取り込み中かね?」


小さなドアをノックもせず、入って来た男性に、バニラはビクッとして、逃げるように、部屋から出て行った。


「いいのかね?」


「え、あ、はい、別に取り込んでいた訳ではないですから」


「そうか、なら、少しいいかな?」


「あ、はい、えっと、どちら様ですか?」


「私はこういう者だが——」


男性は、ネクストに名刺を渡す。


「シンバ・ネクストくん、キミに仕事を頼みたい」


「オイラにですか?」


ネクストは名刺を見て、男を見て、また名刺を見る。


これは、受けるべき仕事か、それとも、やめるべきか、ネクストは選択を迫られる——。




「シャルト、自宅謹慎を命じる」


ここはタイムパトロール隊の本部。


そして、全てのタイムパトロール隊を管理しているのが、このMarshalの称号を持つ男、名をリンゼと言う。


「お言葉ですが、俺は謹慎させられるような事はしてません!」


ハッキリそう言い切るシャルト。


今、ドアの前でガタンと音がして、リンゼとシャルトはドアの方を見る。


すると、ドアが開き、GXの隊長が現れた。


「立ち聞きするつもりはなかったのですが、今回の事は、わたしにも責任があると思い、ここに足を運びました」


そう言いながら、シャルトの横に立ち並び、ギロリとシャルトを睨むと、


「キミの弁護をしてやろうと思ったが、自ら弁護できるみたいだな、来て損をした」


そう囁いた。


ヘヘヘッと笑うシャルト。


「最初にクリス・マロニカを捕まえたのはGXだったな、その後、AAと接触し、クリス・マロニカを逃がした。そうだな? ならば責任はAAにある。AAの隊長はシンバ・シャルトだ。隊長が責任をとり、処分を受けるのは当たり前ではないのかね?」


「だって自宅謹慎とかすると給料減るじゃん!! 減給されたら困る!! オイラ、まだバイクのローンが残ってるんですから!!」


「解雇させられないだけ、有り難いと思わんかね?」


「何言ってるんですか、解雇なんてできないでしょ、優秀な俺を!」


「優秀な奴が、何故、時空をあんなにも歪めるんだ。今回の仕事、そう難しくはなかった筈だ。それにいつも言っているだろう、単独行動をとるなと! お前の後ろには信用のある部下が何十人といるではないか!」


「だから俺は今回、仲間を信じて、助けを待ちましたよ!」


「その前に一人でMCBに突っ込んでるだろう!」


「しょうがないでしょ、ああするしか! 他にどう手段があったって言うんですか!」


「ま、まぁ、まぁ、まぁ、まぁ、2人共、落ち着いて、話を進めましょう」


何故かGXの隊長が間に入り、興奮する2人を落ち着かせる。


「そんな事より! 俺の処分よりも、その後、みんな、どうなったか教えて下さいよ!」


シャルトはそう言って、デスクの上にバンッと手を置いた。


やれやれと溜息を吐き、リンゼはピッとデスクの裏にあるボタンを押す。


すると、天井から大きなモニターが出てきた。


「皆、今回の事は、まるで夢でも見ていたかのように思っている」


そこに映っているのは、クリス・マロニカ。


「調書も終わり、今は無事にAAに戻り、元通りの生活を送っている。怪我も完治し、後遺症もない」


画面が移り変わり、剣崎 薫が映っている。


「この時間の人々は我々タイムマシーンが現れた時、脳に信号を送り、少しの間、眠ってもらったが、余りにも多くの人を眠らせた為、その後、騒ぎになった。今は落ち着き、謎の睡魔と言う事で、迷宮入りになったが、大した事件にもならず、警察と言う組織も、その事に関しては全く動いていない。ちょっとした事が気になり、調べなければ気がすまない彼も、今回の事は深く関わろうとしていない。彼のお前への記憶も綺麗に消えている」


次に新場 祥吾が映る。


「事件の後遺症もなく、ニューフェザーコーポレーションという巨大な会社を継ぎ、立派に社長を遣り遂げる日々の中、行方不明の弟を探している。彼は悔やんでいるよ、何故、もっと弟にちゃんと接してあげれなかったのかってね。弟が住んでいたアパートは今も尚、彼が金を払い、いつ弟が帰って来ても大丈夫なようにしてある」


そして、風間 優梨。


「元々、病弱な彼女だったが、時空へ飛ばされたのがキッカケで、病魔が彼女から消えたようだ」


「え!? 病気が治る事なんてあるの!?」


思わず、驚いて、シャルトは声をあげた。


「そうだな、マシンも使わずに体1つで時空を超えると言う事は体の中の遺伝子に影響を与えてしまう恐れがあると言われている。だから何かの拍子に、病気が治る、そう言う事も有り得るだろう。勿論、時空を越えるという事は殆どが、危険な事に変わりない。たまたま彼女はラッキーだったと言う訳だ。彼女は今、ベビーシッターの仕事をしながら、生きる喜びを感じている」


彼女が生きる喜びを感じているのは、拓海のおかげだ。


彼女の中で、些細な事でも、拓海に助けられた事は、病気と向き合う勇気となり、生きて来れた。そして、今、彼女は病気も治り、生きている事の喜びを感じている。


只、それだけの事で、未来は光に変えられる瞬間がある。


只、それだけの事で——。


「拓海は? 拓海はどうなった?」


「そう焦るな、ちゃんと報告を受けている」


リンゼがそう言うと、モニター画面にはNHという時間の世界が映し出された。


そこの科学者が、他の人間に自分の魂を寄生させる薬を作り出したのだ。


だから、同じ科学者に診てもらい、拓海の中のアイルを取り出した。


アイルは、自分の肉体から離れすぎて、肉体は腐っていた。


そりゃそうだ、DHという地獄とも言われる時間は、灼熱の世界。


そんな場所に肉体を放置しておいて、腐らない訳がない。


アイルの魂は、今はカプセルに入れられているが、近々、魂ごと消し去られる予定だ。


それもかなり苦しめられる方法で。


そして、拓海の方は、体、脳、そして、心にも、後遺症が残り、目は開いているものの、何も映し出してないと言う。


「脳は動いていて、だが、今の彼は、簡単な事もわからず、だから難しい事を考える事は全くできない。今、自分がどこにいるのかさえも、何故、こうなったのかと言う事もわかっていない。それでも生きてはいるし、少しは理解もある・・・・・・」


「それってどういう事!? 廃人みたいになったのか!? 拓海は元に戻るのか!?」


「落ち着け、シャルト。これが、一瞬でも闇を手にした代償と言うものだ」


「だけど、過去、拓海がイジメられていた時でも、誰か一人でいいから、たった一言でもいいから、優しい言葉でもかけてあげていたら、今回のような事にはならなかった。拓海がアイルに憑かれ、心を操られたのは、拓海のせいだけじゃない!」


「だからって、彼をイジメていた者、全員に何か罰を与えるのか? 今回の事と、それは関係ないのに?」


「けど拓海がアイルに勝ったから、みんな助かったんだ。拓海に酷い事をして来た連中だって、拓海のおかげで、今があるんだ。なのに、拓海だけこんな代償を背負うのか!?」


「言いたい事はわかる。確かに、誰かの優しい気持ちに触れるだけで、只、それだけで人は救われる時がある。今回、彼もそれを理解したさ。だからこそ、彼は試練を受け入れたんだろう? これは彼自身が選んだ未来だ」


「俺は拓海を救ってやれなかったんだな・・・・・・」


「それは違う。彼は光を望んでいる。だから頑張ってくれるさ。頑張れば、直ぐに元の時間に戻れる。何より、魂を扱う程の科学技術があるんだ。必ず、彼は元に戻るだろう。その時は、もう二度と間違えないだろう。彼は光ある未来を選んで歩いていく。それをタイムパトローラーであるお前が信じてやるのが、一番の救いじゃないのか?」


「・・・・・・拓海、頑張れ」


何もできないのが悔しいと、下唇を噛み締めた後、モニターに映る拓海にシャルトはエールを囁く——。


「それから——」


トントン。


ドアのノック音がして、皆、ドアの方を見る。


「失礼します」


ドアが開いて、入って来た男に、シャルトはニヤッと笑う。そして、


「来たな」


と、口の中で呟いた。


「今日から、タイムパトローラーと言う組織が、MCBと言う時間にもできました、その時間のタイムパトローラー隊長を勤めさせて頂く、シンバ・ネクストと言います、よろしくお願い致します」


礼儀正しく、お辞儀をして、そう言ったネクスト。


「今回の行動で、勝手な行動をとったのは、このシンバ・ネクストですよ!」


と、シャルトは、いきなり、ネクストを指差し、叫んだ。


何の話だろう?とネクストは顔を上げ、首を傾げる。


「俺は仲間の助けを待とうって言ったんですよ、なのに、コイツが、勝手な単独行動をとって! 謹慎なら、この男に与えるべきです! あ、でも、その時のコイツ、まだタイムパトローラーの資格は持ってなかったから、記憶もないだろうし、処分を与えるのは無理ですね。て事で、これからは気をつけるんだぞ、ルーキー!」


と、言うだけ言うと、シャルトは、じゃあと手を上げ、部屋を出て行く。


「おい!! 待て!! 勝手に話を終わらせるな!! お前の処分を言い渡しておらんだろう!!!!」


「あ、あの、オイラ、何かしたんでしょうか? あの人、なんか、見覚えあるような気が・・・・・・まるで夢でも見ているかのようです」


ネクストがそう言うと、リンゼは頭を抱え、


「ああ、気にせんでいい。アイツはAAの隊長だ。お前がタイムパトローラーの隊長になる事を最初から勘付いてやがったんだ。MCBはかなりの科学技術がある時間だからな、タイムパトローラーと契約するだけの技術は充分あった。なんせ地下世界で人が暮らせた位だからな。だが、その後、キミがタイムパトローラーにならなかったら、どう責任をとるつもりだったんだ。全く! 頭が痛い」


と、頭痛に悩むように、ポケットから薬を取り出し、飲み出した。


「その後、タイムパトローラーにならなかったらって、オイラがって事ですか?」


「うん? あぁ、まぁな」


ネクストは突然、部屋から飛び出していく。


「お、おい、待ちなさい! 挨拶の途中だろうが!!!!」


また頭痛の種が増えそうだ。


「若いですな、今度の新米も」


GXの隊長が呟く。


「でもかなりの人材らしい。流石シャルト推薦だけの事はあると、彼をスカウトに行った奴が褒めていた。彼の考えは甘い所があるが、いい隊長になるとな。たった数日で、ここの時間の言語もクリアし、試験も上位で突破したそうだ。体力は申し分ないし、あれは未来有望なタイムパトローラーになりそうだよ。しかも彼のいた時間で製造していたソルジャースーツは使えるとシャルトからの報告もあってな、もしかしたら、タイムパトローラーの制服が変わるかもしれんぞ。そうなったら、またCMも新たに作り直さないといけなくなるな、丁度いい、あの長いCMは、余り好評ではなかった」


「好評じゃなかったんですか? やはりCMのチョコの例えは飛躍しすぎですかね?」


GXの隊長が、そう尋ねると、


「じゃあ、飴にしとくか?」


と、リンゼは笑いながら聞き返し、


「どんなCMにしろ、ヒーローに憧れる奴は少ないからな。どんな活躍も、まるで夢でも見ていたかのように忘れ去られる。ヒーローとは虚しいな」


自分が若かった頃の事を思い出すような遠い目をした——。

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