5.ヒーローVSヒーロー


「ねぇ、シャルト! 拓海くん、出て行っちゃったよ!」


「直ぐ戻ってくるだろ、それより話がある」


「え? 話?」


「アイルはこの部屋の隣に飛ばされたみたいだ」


「そうなの?」


「さっき、床に、カプセルの欠片が落ちてた。拾おうとして、拓海に呼び止められて、持って来れなかったけど、あのカプセルは特殊なモノだからな、この時間にはない筈」


「ふーん、一目見て、それがわかるなんて、やっぱりシャルトって凄いんだね」


「で、アイルはどこに行ったと思う?」


「え?」


「クリス・マロニカの中にアイルがいなかったんだ、何故、クリス・マロニカの中から出て行ったんだろう?」


「それは・・・・・・クリスさんが病院にいるって事は、クリスさんの体が結構なダメージだったからとか? 傷が深くて、他の体に寄生した方がいいと思ったからじゃない?」


「その通り。じゃあ、他の体って?」


「隣の人は死んじゃったんだよね、だったら、その犯人とかは? もしくは隣の人の知人とかさ」


ネクストがそう言うと、シャルトは、うーんと考え込む。


「うまい具合に剣崎とか言う刑事と出会えたし、明日、警察ってとこに行って、犯人に会って来るか・・・・・・」


シャルトがそう呟いた時、


「助けてくれぇ!!!!!」


と、外から悲鳴が聞こえた。


「なんだ?」


と、窓の外を見ると、男が2、3人、走って来る。


なんとなく、勘が働いたのか、シャルトは外に飛び出し、男を一人、捕まえた。


「どうしたんだ?」


「き、き、消えた、消えたんだ、消えた」


「消えた? 何が?」


「仲間が消えたんだよ! だから言ったんだ、あんなオタクっぽい奴に関わると良くないって! なのに、喧嘩ふっかけるから! 弱いから大丈夫だって! 大丈夫な訳ない、急に、急にさ、強くなって、みんな、みんな、みんな、やられたんだ、めちゃめちゃ殴られてた! 凄い、凄い凄いパワーで、顔なんて変形して、なのに、なのにさ、もう許してくれって言ったのにさ」


男の話は、怯えすぎてて、何を言っているのかも不明。


だが、シャルトは、


「その相手、男? 女?」


そう聞いた。


「男だよ! 色の白い、ほっそい、それこそ、喧嘩なんてできそうにないような! あわよくば、金が奪えると思って、無理な因縁つけたんだよ!」


「・・・・・・そら、お前等が悪いわ」


と、シャルトが呟く。


「だ、だってさ、まさかあんな化け物だと思わなかったんだ」


そう言った男の胸倉を掴み、


「弱い奴相手に喧嘩売ってんじゃねぇ!」


と、シャルトは怒鳴った後、その男を突き飛ばした。


男は、シャルトの容姿が女性的なのを知り、ヒィっと尻餅をついたまま、後ろへ下がった。


当分、か弱そうな男性には喧嘩を売れないだろう。


「いいか、男ってのはな、弱い奴を守り、化け物だろうが、なんだろうが、それに負けたとしても立ち向かい、正義を貫いてこそ、だろうが!」


説教を始めるシャルト。


その様子を窓から見下ろしているネクストは、何故そこで説教なんだ?と苦笑い。


男は尻餅をついたまま、あわあわあわと口を開けて、何か言いたそう。


「この時間には、いないのか、ヒーローになりたいって奴が!」


シャルトは、まだ説教を続ける気だろうか、ネクストが、窓の上から、


「あ、拓海くん、おかえり」


と、手を振る。


シャルトが振り向くと、拓海が立っている。


あわあわあわと意味不明な事を言っている男は、力の限りで、立ち上がり、一目散に逃げていく。


「ただいま」


と、ニッコリ笑う拓海。


「おや、ご機嫌? さっきとは随分と態度が違うね?」


シャルトがそう言うと、


「いちいち小さい事に、イライラしてるなんて、バカらしいって思ったのさ。それにしてもヒーローについて語るなんて、まるで自分がヒーローだと言いたげ?」


と、拓海が突っ込む。


「俺はどちらかと言うとヒール? ヒーローってのは、ネクストかな」


そう言ったシャルトに、拓海は上を見上げ、窓から手の平をヒラヒラと振っているネクストを見る。そしてシャルトを見て、


「だったら、悪役がヒーローを語っても嘘臭いよ」


そう言って笑う。


シャルトは、拓海の笑顔に、本当にご機嫌だなぁと眉間に皺を寄せる。


ちょっと外に出ただけで、ここまで気分が上昇するとは思えない。


ちょっとの間に、何か余程、気分が舞い上がる程の事があったのか——。


「それより、アパートの前で問題は起こさないでね、管理人さんに出て行けって言われちゃうから」


と、ニコニコ笑顔で、拓海は言う。


「・・・・・・今、逃げて行った男、知り合い? お前を見て逃げて行ったみたいだけど?」


「ボクに知り合いはいないよ、友達もいない」


と、拓海は、アパートの階段を上る。


シャルトは、ふぅんと頷き、拓海の後に続き、階段を上り、部屋へ戻った。


「おかえり、2人共!」


まるで自分の家のように出迎えてくるネクスト。


「ただいま。なんか、ボク、キミ達に感じ悪かったよね? ゴメンね? ちょっとイライラしてたんだ、良ければ、もっとキミ達の事、教えてくれないかな? もっとボクの事も知ってほしい」


部屋に入って、いきなり言う台詞じゃないだろと、シャルトは拓海を睨むが、ネクストは、


「うん! うん! いいよ、イライラする事なんて、誰だってあるんだからさ」


と、拓海を受け入れる。


この純粋バカが!と、シャルトはネクストの事も睨む。


「じゃあ、今日は一緒に飲み明かさない? オールでキミ達の話が聞きたいな」


と、コンビニの袋を小さなテーブルに置いた。


その中身はアルコールとお菓子。


「あ、ちょっと、トイレ」


拓海はトイレに走る。


「・・・・・・シャルト? これ、オイラ達、食べてもいいのかな?」


「無理だな、この時間の食べ物は食べれない。俺達がこの時間の物を食べ物であれ、なんであれ、消えてなくすような行為はできない」


小さな声で、そう話すネクストとシャルト。


「どうしようか? 拓海くんに、オイラ達の事情を話さない? で、協力してもらえれば良くない?」


「言う必要はないし、食う必要もないし、協力もいらない。今日は疲れたって寝るに限る」


「でも折角、拓海くんが心を開いてくれそうなのに」


「いいか、ネクスト、お前はタイムパトロール隊じゃないんだ、勝手な行動はとるなよ、判断と決断は俺が決める」


なんだよ、それ・・・・・・と、ネクストは不貞腐れた顔をする。


トイレから拓海が出てくると、シャルトは、


「悪いが、今日は疲れたんだ、寝かせてもらうよ、床でいいから」


と、部屋の隅へ行き、床に転がる。


「あ、あの、オイラも、今日はそろそろ休むね?」


そう言ったネクストに、


「そっか、残念だな、でも急がないよ、明日もあるしね」


と、ニッコリ笑う拓海。


「あ、そうだ、布団がないけど、バスタオルとかならあるからさ、布団変わりにしてよ」


と、大きなタオルをネクストに渡す拓海。


なんてイイコなんだろうと、感激するネクスト。


何を考えているんだろう、急に態度が変わりやがったなと、拓海に違和感を感じているシャルト。


シャルトは目を閉じて、さっき逃げて行った男の事を考える。


——仲間が消えたって言ってたな。


——あの慌てようからして、冗談ではないだろうけど、見間違いって事もあるよな。


——仲間って事は勿論、人間だよな、人間が消える?


——消えた理由としたら、この時間で、絶対に起きない事を起こしてしまったとか?


——例えば、俺やネクストの存在が異常に心に残ってしまう程の出会いだったとか?


——知人でも有名人でもない、名前さえわからない俺達の事を知ってしまう出会い。


——いや、知るって感情は愛情や憎悪でもいいのか。


——何も知らなくても、顔を知ってるだけで膨らむ感情もあるからな。


——だけど、俺達はアイツ等と関わっていない。


——だとしたら、アイルが?


——アイルが近くにいるって事なのか?


ネクストも目を閉じて、明日の事を考える。


——明日はシャルト、警察ってとこに行くのかな?


——オイラは何をすればいいんだろう?


——とりあえず拓海くんと友達になりたいんだけどな。


——そういえば、友達って、なんだろう? どうやって作ればいいんだろう?


——オイラも、拓海くんと同じだな、友達らしい友達なんていやしない。


——もしかしたら、シャルトが追っている悪い奴も、友達がいないのかもしれない。


——その点、シャルトは友達、多そうだな。


——オイラや拓海くんみたいに、育って来た家庭に問題があるようにも思えないし。


——そうか、拓海くんって、なんとなく、オイラに似てるんだ・・・・・・。


——だから、ほっとけない気持ちになるのかな。


——明日、拓海くんと、もっといろいろ話してみよう。


拓海は、床に転がって寝ている二人を見ながら、チカラの使い方を考える。


——このチカラは簡単じゃない。


——面倒な手順だが、まずはコイツ等の中に、ボクというものを入り込ませなければ。


——だけど、ボクが有名になれば、ボクを知った者達が消える。


——勿論、ボクを簡単に知っただけじゃダメだ。ボクに興味を持ち、深く知りたいと思う感情が必要だ。


——兎に角、ボクと言う人間に芽生えた感情が、どんな感情であれ、膨れ上げればいい。


——只、キライと言う感情でも、キモイでもいい。ソイツは消えるんだ・・・・・・。


——もう一度、チカラを試したい。


——シャルトって奴は無理だけど、ネクストって奴なら簡単そうだな・・・・・・・。


今、寝返りをうつネクストを、拓海は不敵な笑みで、見つめる。


シャルトがいる場所では動かない方が賢明かと、拓海もベッドに入り、今日は寝る事にした。


朝——。


「拓海くん、おはよう」


と、ネクストが、拓海を起こす。


朝なんて起きた事がない拓海は、よく寝たにしろ、早く寝たにしろ、起きれない。


布団に潜り込むが、


「おはよう、朝だよ」


と、ネクストが揺さぶるので、ムクッと起きた。


「・・・・・・何のニオイ?」


「朝御飯だよ、冷蔵庫にあったもの、オイラが住んでた所の食べ物の材料と変わらないから、作ってみた。オイラ達は、その、えっと、もう食べちゃった! うん、そう、もう食べちゃったから、拓海くんが全部食べてね!」


「・・・・・・もう一人は?」


「シャルト? 朝早くから出かけたよ」


「・・・・・・どこへ?」


「うーん、多分、警察かな」


「・・・・・・へえ」


何しに警察に行ったんだろうかと思いながら、拓海は起きて、用意された朝御飯を食べる。


「お米、鍋で炊いたの?」


「うん」


「凄いね、こんなの作れるなんて。米、買ったはいいけど、炊けなくて。炊飯器を買おうって思ったけど、炊飯器買う程、毎日、米炊かないしなって」


「鍋でも簡単に炊けるよ? 教えてあげるよ。オイラも一人暮らしだからさ、家事は適当にやってる」


「そうなんだ?」


「でも掃除は苦手だけどね」


と、笑うネクストに、拓海は、コイツなら本当に簡単そうだと思う。


「そう言えば、シャルトって言ったっけ、あの人が、キミの事、ヒーローだって言ってた」


「え? シャルトが? うっそだぁ」


「嘘じゃないよ」


「いつ話したの?」


「ほら、昨日、外で。ボクが帰ってきた時に」


「・・・・・・シャルト、またオイラで何か企んでるのかなぁ」


「なんで?」


「だって、オイラ、ヒーローじゃないよ。何も変えれなくて、只、毎日を過ごしてた。悪だって思ってても、何も言えずにさ、それに耐えてる自分が偉いと迄、思ってたよ」


そう話すネクストに、拓海はフーンと、どうでも良さそうに頷き、飯を口に運び続けている。だが、聞いているのだろう、


「でもそれは当たり前じゃん? 誰だってそんなもんだよ」


そう言って、ネクストを見る。


「うん、だからオイラはヒーローじゃない。ヒーローの助けを待ってる奴かな。ヒーローはシャルトだよ、ああ見えて、強いし、言ってる事もめちゃくちゃなようだけど、的を得ているし、なんだかんだ愛されキャラで人望もありそう。何より、今を変えるチカラを持ってる人だと思う」


「今を——?」


「うん、もし、今、シャルトの耳に助けてって誰かの声が届いたら、シャルトはきっと、相手がどんな強い奴でも、助けそう。どんな汚い手段を使ってもね」


と、ネクストは笑う。


「信頼してるんだね」


「え? どうかな、それはないよ、だって、つい最近、出会った奴だよ?」


「つい最近、出会って、信頼してないなら、何日経てば、信頼できるの?」


そう聞かれ、ネクストはビックリする。


まさか、そんな質問が来ると思わなかったからだ。


「ボクも、昨日出会ったばかりだけど、信頼はしてもらえないのかな、シャルトって奴の事は、ちょっと気が合わない気がするけど、キミとなら仲良くできそうな気がするんだ。何日、一緒にいたら、信頼してもらえる?」


「あ、いや、日にちじゃないよね・・・・・・ごめんね・・・・・・でも仲良くなりたいと思っているよ」


「仲良く? それって、シャルトって奴より?」


ネクストは困惑する。


拓海と、どのくらい仲良くしてもいいのだろうか、友達になりたいとは思うが、それはシャルトの許可が必要な事だ。


とりあえず、心を開いてもらおうと思ったが、もう心が既に開いている様子。


ネクストは、こんなに早い展開になるとは思わず、言葉を失ったまま、拓海と目が合う。


ハハハと苦笑いして誤魔化すネクスト。


「ごめん、嫌だよね、ボクみたいな奴と友達なんて——」


「なんで!? まさか! それはないよ! なんて言うか、拓海くんとオイラは似てる気がするし、勿論、友達になりたいって思ってるよ!」


「本当に?」


「うん。只、オイラ達には、いろいろ事情があって、うまく言えないけど・・・・・・」


うまく言えないけど、その次の台詞が浮かばないネクスト。


「ご馳走様、美味しかったよ、出かけよう」


「え? どこへ?」


「いろんなトコ。ボクの服貸してあげるよ、顔立ちだけでも目立つのに、その服で更に目立ちすぎる。大丈夫、普通にジーンズとTシャツだから」


「あ、だったら、シャルトが戻ってきてからで——」


「それはそれで、また出かければいいよ、時間はいっぱいあるんだから——」


そう、時間はいっぱいある——。




その頃、シャルトは剣崎に林 景子殺人事件のファイルを見せてもらっていた。


「・・・・・・交友関係の縺れかぁ。可哀想に」


そう呟きながら、ファイルを見ているシャルト。


「おう、茶だ」


態々お茶を持って来てくれた剣崎。


だが、シャルトは飲まない、いや、飲めないので、デスクに置かれたままになる。


「この謎の指紋ってのは? まだ誰の指紋かわかってないの?」


「あぁ、まぁ、交友関係の誰かのものだろうって事にはなってるがな」


「なってるって、確信はないのかよ」


シャルトはそう言いながらも、謎の指紋の1つは、クリス・マロニカのものだろうと確信している。後1つ、それが誰のものなのか——。


「もう終わった事件だからな」


「さっき、加害者にも会って来たんだけど」


「あぁ、取調べも終わったし、割とスッキリしてただろ」


「うん、まぁ、隠すもんもなくなったって感じだったよ」


「そういえば、昨日はしんばちゃんの弟とどうだったんだ?」


「え? あぁ、別に? 直ぐ、寝ちゃったし」


「仲良くなれそうか?」


「どうかなぁ」


「おいおい、仲良く友達になるって言う約束だろ?」


「あぁ、でも、友達になれない時もあるだろ? 友達って、無理になるもんじゃないし」


「そりゃそうだけど、そこを何とかしてやれよ!」


「でもさぁ、引き篭もりって割には外に出歩いてたじゃん」


「そりゃ、自分の食料くらいは買いに出るんだろ」


「だったら、重度の引き篭もりって訳でもなさそうじゃん。兄貴が心配しすぎてるだけなんじゃないの? 大丈夫じゃん?」


「・・・・・・いや、オレも心配なんだよ」


「なんで? 友達の弟だから?」


「それもあるけど、ちょっと、気になる事があってな。この事件の時、聞き込みに行ったんだけど、午前2時に隣から物音がしたらしいんだ」


——午前2時。


恐らく、その物音はアイルが寄生したクリス・マロニカの肉体が、この時間に飛ばされた時に、落ちた音だったのだろうと、シャルトは思う。


「そしたら、声が聞こえたって言うんだよ」


「声?」


「未来がほしくないかって」


「え?」


「だけど、加害者は午後4時から5時の間に犯行を行っている。午前2時に死体が動く筈はないから物音なんてしない筈だし、声だって、聞こえる筈がない。彼は、何て言うか、やっぱり、ちょっと、変じゃないか?」


「・・・・・・昨夜、俺と拓海が殺人現場となる部屋にいただろ、声が聞こえた?」


「え? あぁ、聞こえたさ、だから見に行ったら、お前等がいたんだ」


「そんなハッキリ聞こえるもんだった?」


「いや、誰かいるなって言う感じかな、何を喋っているか迄はわからなかったさ、気にもしなかったからな、あぁ、誰かいやがるって思って、直ぐに駆けつけたんだから」


あの時、拓海が『誰? ここで何してんの?』そう言っただけだ。そしたら直ぐに剣崎がやってきたのだ。そんなに大きな声ではなかったが、普通に発した声が、隣の部屋でも聞こえたんだ。だが、余程、大きな声じゃない限り、ハッキリは聞こえないだろう。


「・・・・・・未来がほしくないかって、ハッキリ聞こえたとしたら、その声は大きな声だったのか?」


「いや、だから、それは現実の話じゃないんだって!」


現実の話じゃない?


「違うね、拓海は物音がして、隣の部屋に行ったんだ! もう1つの謎の指紋は拓海のだ」


「は?」


「そこでクリス・マロニカに出会い、彼女の中で寄生していたアイルが拓海に乗り換えたんだ。クリス・マロニカはそこで気がついて、外へ逃げ出した。あぁ、そうだ、なんで気が付かなかったんだ、偶然が重なりすぎて、まさか目の前にいるなんて思わなかった! クソッ! 昨日の仲間が消えたって逃げて行った男も、アイルに出会ってたんだ、だから拓海を見て逃げたんだ!」


「お、おい、何の話だよ?」


一人でブツブツ言いながら、考え込むシャルトは剣崎の声など聞こえていない。


「剣崎警部、いいんですか? こんなガキにファイルなんて見せて。大体、なんで合コンを乗っ取られたガキがこの部署に入れるんですか!」


剣崎の部下が文句を言いに来た。


「なんでって、コイツを知らないのか? お前?」


「だから合コンを乗っ取ったガキですよ」


「ちげぇよ、コイツはな、SPだよ」


「はい? SP? なんですかソレ? 剣崎警部、頭、大丈夫っすか? なんか今日は変ですよ?」


そりゃそうだろう、シャルトに操られているようなものなのだから。


そんな事よりも、シャルトの頭の中は拓海の事で、一杯だ。


「・・・・・・でも、なんでだ? 拓海の中にアイルがいるように思えない。まさか男に寄生したから、男同士の魂が混ざり合って、ひとつになったとか? そうなった場合どうなるんだ? なんにせよヤバイな、クソ!」


シャルトは言うだけ言うと、ファイルを閉じて、拓海のアパートへと走り出した。


「お、おい、お前、コイツにSPである証明を見せてやってくれよ!」


そう剣崎が叫んでいて、周囲の者達もコチラを見ているので、シャルトは面倒はゴメンだと、


「よく思い出せ、俺はSPで、事件のファイルを見せてくれるって言っただろ」


剣崎の部下を見ながら、そう言った。


「・・・・・・あぁ、そうだったそうだった」


と、まるで思い出したように言い出す剣崎の部下。


これ以上、ここにいられないと、シャルトは足早に立ち去る——。




——なんで早く気付かなかったんだろう。


——ネクストは無事だろうか?


——まぁ、アイツはソルジャーだから、何の心配もないか?


——寧ろ、心配なのは、拓海自身と、全ての時間が狂い始める事だ。


——拓海は一人の人間を、違う空間へ送ってしまっている。


——恐らく、拓海と言う人間とアイルと言う人間が重なる事で、全く違う人間が生まれた。


——どこの時間にも属さない生命。だからこの時間にも存在しない命。


——ソイツと関わり、深い感情に堕ちると、時空に歪みが生じ、飲み込まれるんだ。


——消えた奴はどこか別の時間で無事だろうけど・・・・・・。


——2、3人程度なら、なんとかなりそうだが、余りにも多くの者が消えたら、この世界ごと消えるぞ!


——今の拓海は、自分のチカラを、どう思っているんだろう?


——まだ、誰も殺してないのなら、拓海は罪にならない!


——俺は助けられるだろうか?


急いで拓海のアパートに戻ったのに、ネクストも拓海もいない。


どこに行ったんだと、シャルトは舌打ちをする。


外から笑い声が聞こえ、窓から覗くと、拓海とネクストが笑いながら、こっちへ向かって歩いてくる。


急いで外に出ると、2人、シャルトに気付いた。


「シャルト! 帰ってきたんだね? どうだった? 何か手がかりあった?」


「つーか!!!! お前、何やってんだよ!」


「何って、拓海くんと遊んでたんだよ、面白いんだよ、ゲームが一杯ある所があってね、ほら、このヌイグルミ、拓海くんが取ったの、クレーンみたいな奴で!」


「・・・・・・まさか、お前も一緒に?」


「大丈夫だよ、オイラはやってないから。この世界のモノを手に入れようなんてしてないから安心して?」


耳打ちで、そう言ったネクストに、シャルトはホッとした。


「ボク、ネクストくんと友達になれそうだよ」


そう言った拓海を、シャルトもネクストも見る。


拓海は、


「ね?」


と、ネクストに笑いかける。


「うん、そうだね、拓海くんって、なんとなくオイラに似てるし、気が合うよね、ね、シャルトも、オイラ達が似てると思わない?」


「お前と拓海が? さぁ? 俺、拓海と余り話してないし、わかんねぇよ。でも、本人同士が似てるって言うなら、そうなのかもな」


「じゃあさぁ、アンタも、ボクの事、もっと知ってみる? アンタの心に離れて消えないくらい、ボクを知ってみる?」


挑戦的な笑みで、拓海がそう言って、シャルトを見た。


シャルトは、その挑戦を受けるかのように、不敵にニヤリと笑い、


「拓海、そう簡単にお前の思惑通りに行くかな?」


そう言った。


「ボクの思惑? なにそれ?」


「とぼけるなよ、お前、チカラを使って俺を消そうとしてんだろ」


そう言ったシャルトを、驚いた顔で拓海は見る。


ネクストは何の話をしてるのだろう?と、真ん中でキョトンとしている。


「俺はお前と強く関わり合っても、消えねぇよ? だって、俺、お前と同じ、この時間に存在しない者だから」


「この時間に存在しないもの——?」


「なんだ、チカラを得ただけで、実際はよくわかってないのか? 教えてやるよ、俺はお前の天敵なんだよ、お前は時間犯罪者の片棒を担いだようなもんだからな、拓海」


コイツ、何を言っているのだろう?と、思いながらも、かなり心拍数が上がっている拓海。


シャルトは懐からカードを取り出し、


「AAタイムパトロール隊長、シンバ・シャルト。NH出身のアイルをDHへ送り戻す。お前に未来はない」


そう言った。


「ちょ、ちょっと待ってよ、シャルト! 拓海くんだよ?」


「コイツの中にアイルがいるんだよ!」


「で、でも、嘘だよ、だって、拓海くんだよ!」


「嘘言ってどうすんだ、こんな事!」


シャルトとネクストは言い合いを始める。


どこからか、汗が噴出す拓海。


ダラダラと滝のように流れる汗と、今にも胸が張り裂けそうな程、鼓動する心臓に、拓海は、混乱している。


——何を言っているんだ、コイツ?


——タイムパトロール隊長?


——ボクが時間犯罪者の片棒を担いだ?


——ボクの得たチカラは、ボクの中に誰かいるからなのか?


——違う、これはボクのチカラだ。


——ボクを守るチカラ。弱い者を守るチカラ。正義のチカラだ!


拓海は、シャルトをキッと睨むと、


「お前こそ、変な事を言って、ボクのチカラを悪用しようとしてんじゃないのか!」


そう吠えた。


「は?」


「ボクは正義だ」


「どこら辺でそう思ったんだ?」


「うるさい! 兎に角! ボクの天敵なら、お前が悪だ」


「なんだそれは。無理矢理だな」


「ボクはお前を倒す!」


「成る程、宣戦布告って訳か。だが、正義は必ず勝つよ?」


「・・・・・・ボクが正義だ」


「・・・・・・正義は俺だ」


またも真ん中でオロオロするネクスト。


汗だくで、歯をギリッと鳴らし、追い詰められた表情の拓海。


逆に余裕綽々の表情のシャルト。


「ヒーローってのはな、弱い者を助けてこそヒーローなんだ」


「・・・・・・だったら尚更ボクがヒーローだ」


いつだって、ヒーローがピンチの時はチャンスが訪れる。


大きなチャンスが。


運命はどちらに味方し、どちらをヒーローだと選ぶのだろう——?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る