4.引き篭もりのヒーローの場合


月が顔を出した。


と、思ったら、また黒い雲で隠れた。


ボクは月と同じだ。


隠れたり、出たり——。


だけど、今日は調子がいい。


外に出たくてしょうがない。


いつもは近くのコンビニで弁当を買って、直ぐにアパートに戻って、ゲームしたり、テレビを見たり、そして寝るだけだったけど、今日は遠くのコンビニまで行って来た。


なんだか、隠れてるのが勿体無い気がしたんだ。


何故かな。


きっと、それはボクが犯人にならなかったからだ。


警察もバカだな、あの女を殺したのは、ボクなのに、違う奴を捕まえたなんて——。


なんだか、とても大きな事を遣り遂げた気がする。


達成感?


不思議だけど、とても正義に満ち溢れている。


人間なんて、簡単に殺せるもんなんだね。


神にでもなった気分だ。


コンビニの前に群れてるバカな連中も、ボクなら簡単に殺せる。


でも、別に許す事にした。


アイツ等は、今、ボクのおかげで生きているんだ。


ボクが許したから生きている。


許されなかったら、今頃、ボクはアイツ等を殺していたのだから——。


感謝されてもいいくらいだ。


あぁ、なんて、今日は気分がいいのだろう。


新羽 拓海、23歳。


ボクは生まれて初めて、強いチカラと言うモノを知った快感に、酔いしれていた。


妙な男に出会う前までは——。


アパートに戻ると、何故か、ボクの部屋のドアが開いていて、怪しいと思ったボクは、隣の部屋の扉を開け、中に入った。


そこは殺人現場となる場所で、ボクが殺した女の部屋だった。


警察が出入りする事もあり、部屋の鍵は開けっぱなしになっていて、その都度、管理人が鍵を閉めていたが、犯人も捕まり、事件は解決し、管理人は気を緩めたのか、鍵を閉め忘れている。


ボクはそれを知っていたが、わざわざ管理人に言う必要はないと思い、何も言っていない。


大体、殺人が起こった部屋になど、誰も来やしない。


警察だって、事件が解決したのだ、来る事はない。


来るとしたら、後は遺族だけだろう。


なのに、部屋に妙な男がいた。


暗い部屋で、何かしている。


ボクの体の中で、この男だけには関わってはいけないと、何かが叫んだ。


第六感という奴だろうか。


だが、男が何かに気付き、しゃがんだ時、


「誰? ここで何してんの?」


と、声をかけてしまった。


関わってはいけないと感じているのに——。


隠れていた月が顔を出したのだろう、月明かりが部屋の窓から入り、男の顔が見える。


知らない男だ。


暗闇に、よく見れば、髪の色が青い。


外人か?


益々、知る訳がない。


大体、科学的に証明できない知覚、第六感など、信じる必要はない。


なのに、何故、こんなに心臓が速くなるんだ——?


向こうも、ボクを伺っているのか、無言で、ジッと見てくる。


その視線が怖い。


「おい、誰かいるのか?」


と、玄関が開き、大きな体の男が現れた。


「何してるんだ、こんなとこで!」


「・・・・・・あ、刑事さん?」


それはボクに聞き込みに来た刑事だった。


「おい、しんばちゃん、お前の弟、こっちにいるぞ!」


刑事がそう言って、呼んだ人は、ボクの兄だった・・・・・・。


「拓海! 何してんの? 心配したよ!」


「兄さんだったの、ボクの部屋に勝手に上がりこんだのは」


「え、あ、何度も拓海を呼んだんだけど、出てこなくて、心配になったから」


「そう。買い物に行ってたんだ、そしたら、ボクの部屋のドアが開いてたから、泥棒かなって思って、様子を伺おうと、隣の部屋に入ったら、あの人がいて——」


ボクは青い髪の男を指差した。


「お前なぁ! 何してんだよ! 勝手に入って! 現場だぞ、ここは! いや、現場だった場所だぞ、ここは!」


刑事が青い髪の男に怒鳴る。


怒られてやがる、ザマァミロと思った瞬間、


「殺人現場だった所に、よく入って来れたね?」


と、青い髪の男は、ボクを見て、聞いた——。


なんだ、コイツ・・・・・・。


「それより、兄さん、何か用なの?」


「あぁ、こちら、僕の大学時代の友達で、剣崎 薫って言うんだ。それから、こっちはえっと、なんだっけ?」


「ネクストです」


と、頭をペコリと下げた男。


まだ他にも男がいたのか。


なんでこんなに人間に囲まれてるんだろう、ボクは——。


「それから、そっちの人が——」


「あ、もう、自己紹介したよ、ね?」


と、青い髪の男はそう言って、ボクを見て、ニッコリ笑った。


いつ、自己紹介なんてした?


「俺の事、わかるだろ?」


と、笑顔で、詰め寄って来るコイツが怖い。


「・・・・・・どこかで会ってますか?」


「そう思う?」


挑発してるんだろうか?


それとも試してるんだろうか?


なんにせよ、会ってる訳ねーんだよ、ボクは外の世界に出る事も、他人と関わる事も、余りして来なかったんだから!


「いいえ、思いませんよ。初対面です」


「言い切るねぇ」


「言い切れますよ、それとも、ボクとどこかで会ってるとでも?」


「参りました、会ってません、騙せると思ったのにな」


と、ベッと舌を出して、全然、参ってなさそうに、そう言いやがった。


「なんで騙す必要があんだ、おい!」


剣崎と言う刑事が、青い髪の男にまた怒鳴るが、全然、堪えてない。


「俺、シャルト。よろしくな、拓海くん」


「な!? なんでボクの名前?」


「そりゃ、やっぱり、どっかで会ってるから?」


不敵に笑い、そう言ったシャルトの頭をバシッと叩き、剣崎が、


「しんばちゃんが拓海と言ったのを聞いてただけだろ!」


と、吠えた。


シャルト、この男、ボクと同じ第六感らしきものが働き、ボクを問い詰めてる?


関わってはいけないと感じるボクと、関わろうと問い詰めるコイツ・・・・・・。


つまり、それは、追われる者と追う者?


まるでボクが悪い奴みたいじゃないか!


「ねぇ? 拓海? いつまでここにいるの? 部屋に戻ろう?」


兄さんがそう言うので、ボクは部屋に戻って来たが、何故、コイツ等、全員、ボクの部屋に来たんだ?


「兄さん、さっきも聞いたけど、紹介も終わったし、用件を早く言ってくれる?」


「あ、えっとね、この2人を泊めてあげてほしいんだ」


そう言って、兄さんはネクストとシャルトと名乗る妙な外人を見る。


2人はボクを見て、ニッコリ笑う。


「何故?」


「うん、なんかね、泊まるとこがなくて困ってるみたいだったから」


「だったら、ホテルを手配してあげれば? 金なら幾らでもあるだろ?」


「・・・・・・拓海、お父さん、入院してるんだ」


「入院してても金はあるだろ?」


「勝手にお父さんのお金は使えないよ」


「だったら、広い屋敷に連れて行けよ、なんでここなんだよ」


「屋敷には、お母さんがいるから、勝手に誰かを招待したら、怒られるよ」


「あぁ、そうだね、あの女はヒステリックに甲高い声で怒るだろうね、得体の知れない奴が、あの屋敷に入るのは嫌がるだろうから。例えばボクとかね」


「拓海・・・・・・あの女なんて言うなよ、母親だよ、家族だろう・・・・・・」


「面白い事言うね、まるでボクが悪いみたいだ。逆だろう? 兄さん」


「逆?」


「あの女がボクを家族と認めてない。そうだろう? 兄さん」


「・・・・・・拓海。お父さんはお前を会社に呼びたがってる。一緒に仕事をしないか?」


「何それ? 家庭に呼べなかったから、罪滅ぼしに会社で呼んでくれるって訳?」


「そうじゃなくて!」


兄さんが吠えた時、


「あの、話すり替わってるよ? 俺達、ここに泊めてもらっていいんだよね?」


と、シャルトが話題を戻した。


だから空気を読めよと、刑事はシャルトに囁く。


「じゃあ、僕達はこれで帰るよ、拓海、仲良くするんだぞ? 薫ちゃん、行こう」


兄さんが逃げるように玄関へ向かう。


刑事も一緒に玄関へ向かうが、振り向いて、


「なぁ? 夜中の2時に物音がしたって言ったよな?」


と、ボクに話しかけてきた。


「え? あぁ、はい」


「・・・・・・それ、聞き間違いとかじゃないよな?」


「はい」


「じゃあ、夕方の4時から5時くらいに何か聞かなかった?」


「夕方?」


「被害者が襲われたのは、その時刻なんだ。だから夜中の2時に物音なんてある筈がない」


そう言った剣崎に、


「すいません、夕方は寝ている事が多いので。夜中の2時の物音は聞こえましたが、もしかしたら、何かが倒れたりしただけの音かもしれません」


そう答えるボク。


「そっか、じゃあ、また」


と、刑事は兄さんと一緒に部屋を出て行った。


「薫ちゃん? 何か弟が事件に絡んでる?」


「いや、まさか。そんな事ないよ、只、あそこの壁、相当、薄っぺらだな。隣に誰かいるって言うのも声でわかっただろ? そしたら、シャルトって奴とお前の弟がいた。それだけ薄っぺらだからさ、確かに何かが意味もなく倒れたら、その音が聞こえてもおかしくないなって思っただけだよ」


と、言いながら、襲われている物音なら、もっと響き、寝てられないと思うが——と、刑事の考えが読める。


そう、外での会話も、このアパートでは丸聞こえ。


それだけ家賃も安いしね。


それにしても襲われたのが夕方?


そんなバカな。


ボクは夕方、何してたかな?


あれ?


記憶がないな——。


「ねぇ、シャルト。拓海くんにも、オイラに話したみたいに、いろいろ話してさ、協力してもらおうよ。友達なんだし!」


「いつ友達になったんだよ?」


「いつって! 友達になるんだろう?」


「誰が?」


「シャルトとオイラが!」


「なんで?」


「なんでって!」


2人の会話を黙って聞いているボクを見て、


「あ、ご心配なく。キミと友達になろうなんて思ってねぇから」


と、シャルトが言い放つ。


「ちょ、ちょっとシャルト!」


「言っておくけどな、ネクスト! お前だって、全て解決したら、俺の事なんて綺麗サッパリ忘れるんだからな!」


「え!? 嘘!?」


「いい加減わかれよ! 俺とお前は会う筈のない時間の中で生きてんだって!!!!」


「でも出会って、運命だって言ったじゃん」


「そういう意味じゃねぇよ、運命だって言ったのは。勘違いするなよ」


と、面倒そうに言うシャルト。


コイツ等、仲良しって訳じゃないのか?


「お前こそ、勘違いするなよ」


ボクがそう言うと、シャルトとネクストは、2人して、ボクを見た。


「兄さんはここに泊まれって言ったのかもしれないけど、ここはボクの部屋だ。出て行ってくれ。ボクは認めてない、お前等がここに泊まる事なんて——」


大体、図々しいんだよ。


普通、考えれば、わかるだろ、知人でもない奴を、そう簡単に寝泊りさせるかよ。


「そう言う事は自分で稼いでから言え」


シャルトがそう言って、ボクを睨む。


「なんだと!? じゃあ、お前は自分で稼いでるってか? そんな変な格好してさ!」


「変だと!? 言っとくがな、この時間の若者の格好のがよっぽど変だ! なんだあれ、昼間見てまわったけど、だらしない格好しやがって!!!!! 幾らこの時間ではアレが流行っているとは言え、俺はできないね! あんなフザケた格好!!!!」


どの若者を見てきたんだ、コイツ・・・・・・。


「だから言わせてもらう!!!! 別に服は貸してくれなくて結構だ!!!!」


「そこかよ、シャルト!」


ネクストが思わず突っ込むが、


「言われなくても貸さねぇよ!!!!」


と、ボクも思わず、一緒のノリで突っ込んでしまったじゃないか・・・・・・。


「大体、この時間でとか、なんとか、どういう意味、それ? キミ達、見るからに外人っぽいけど、何しにこの国に来たわけ?」


言いながら、ボクはコンビニで買った弁当をレンジに入れ、温める。そして、


「キミ達の分はないよ」


そう言うと、


「あれ? そういえば、オイラ達、何も飲まず食わずなのに、大して、お腹すかないよね?」


と、ネクストがシャルトを見る。


「まだわかんないのかよ、この時間で俺達は存在しないの! お腹なんてすく訳ないだろ」


そう言ったシャルトをボクが見ると、シャルトも何故かボクを見ている。


ネクストに言ったのなら、何故ボクを見るんだ?


そして、ボクと目が合うと、


「信じる?」


と、ニヤニヤ笑いながら、聞いてきた。


「何を? この時間で存在しないって事? どうでもいいよ、ボクには関係ない」


「さっきは、どういう意味?って聞いた癖に」


「さっきはね。でも時間は常に進んでるんだよ、さっきまでの疑問を今、答えてもらっても、もう興味なければ、聞く耳もないよ」


「そんな正論言われたら返す言葉もない」


そう言いながらも、何故だろう、このシャルトって男、勝ち誇って見える。


レンジがチンと鳴り、ボクは温かくなったお弁当を取り出し、2人がいる部屋の隣の部屋へ行き、テレビの前にドカッと座ると、テレビをつけて、弁当を食べ始める。


もう2人の事は無視しよう、そう決めたのに、何故だろう、心拍数がかなり上がっているのが、自分でわかる。


アイツ等とは一緒にいてはいけない。


体の中で誰かが叫んでいる気がする。


2人の会話が聞こえてくるだけで、こんなにも、ヤバイって感じるのは、なんで——?


「拓海くんって、クールなんだね」


「あれがクール? 只の根暗だろ」


根暗?


ボクが?


一番、嫌な言われようだ。


「アンタさぁ、その髪の青い方」


弁当を置いて、ボクは振り向いて、シャルトに突っかかる。


「むかつくんだよ」


「根暗って言った事、気にしちゃった?」


「気にしてるんじゃない、気に障ったんだ」


そう言って、出て行こうとするボクに向かって、


「逃げるの?」


と、更に気に障る言い草。


それでも無視して、玄関を開けて、外に出た。


なんで、ボクが、自分の部屋から出て行かなければならないんだ。


理屈的におかしいだろ。


だけど、どうしても、逃げなければと急かされた・・・・・・。


どうしようか、少し、時間を潰そう。


アイツ等が寝た頃、また戻ればいい。


兎に角、ボクが会話に参加してなくても、耳障りな声が聞こえるだけで、イライラする。


どの部屋にいたって、聞こえるんだ、声が——。


いつもの近くのコンビニの前。


群れている連中と目が合う。


多分、この時のボクはかなり苛立っていて、誰かと目が合うだけで、睨んでいるように思われて当然なくらい、凄い顔をしていたに違いない。


だから、いきなり、ボコられても、それはボクのせいかもしれない。


だっていつもなら、目を合わせないようにしている。それをしなかったボクが悪い。


殴られながら、そんな風に思っているボクと、


全員、殺してやる。


と、冷静にそう思っているボクがいる。


ちょっと待って。


人生を巻き戻しできる事なら、どこまで巻き戻して、やり直したい?


どこで選択を間違えたかな?


ボクは、何故、殴られてるんだろう?


今、ボクは、どうして、ここにいるんだろう?


幼い頃、母の優しい手が好きだった。


だけど、母は金持ちの男の愛人をしていた。


なのに、ボロいアパートに住んでいて、男は母を大切になんて思ってやしなかった。


ボクが、その男の血を受け継いでいるのだと知った時、吐き気がした。


全て吐き出してしまえたら、どんなに楽だっただろう。


母が事故で亡くなり、ボクはその男の家に行く事になった。


男の本妻とやらは、いつもヒステリックで、その子供とやらは、ボクより年上なのに、ナヨナヨした頼りにならない奴で。


だけど、一番、頼りないのはボク自身だ。


ボクはボクを守る事ができなかった。


一生懸命、好かれるように、接して、呼びたくもないのに、兄さんと呼ぶようにした。


あの女の事は、母さんと呼べば、怒られるので、呼ばなかったが。


だけど、あの男の事だけは、父さんとは、呼べなかった・・・・・・。


なるべく、父さんと呼ばなくていい会話をするようにしていた。


なのに、ボクはやっぱり好かれなくて、家を追い出され、小さなアパートに住まわされている。


今となっては、母がボクに残してくれたモノが、これなのかと思うと、がっかりだ。


何故、あんな男を愛したの——?


だけど、もう昔のボクじゃない。


弱いボクを、ボクは守ってあげなくちゃ。


いつも思っていた。


いつになったら、ヒーローは助けに来てくれるんだろうかと。


それは今なんだ!


気が付いたら、ボクの拳は目の前の男の顔面を殴りつけていた。


急に反発した行動をとるボクに、一瞬だけ、連中は怯む。


だが、どう見ても、ボクはひ弱だし、多勢に無勢。


連中の勢いが途切れる事はない。


それどころか、ボクの一発が気に召さなかった様子。


かなりお怒りのようだ。


だが、どんな攻撃だろうが、サッと交わすボクに、ちょっと焦り気味?


本領発揮したと思ってる?


全然。


殴られっぱなしだったのは、その方が面倒じゃないかなって思ったから。


だけどさ、幾ら温和なボクでも、しつこいと腹が立つ。


ボクの怒りに触れたんだよ、生きて返さないどころか、消えてもらうよ。


2人ばかり逃がしたが、3人はダウンしている。


そして、後一人は、許してくれと言って、ボクにボコボコに殴られている。


ソイツの胸倉を引っ張り、顔を近づけ、


「ボクが許してくれと言ったら、お前は攻撃をやめたのか?」


そう聞いた。


ガタガタと振るえ、血だらけで、ボコボコに腫れ上がった顔で、ボクを見ている。


「命乞いしたって、もう遅いよ、お前はボクに関わってしまった。今、お前はボクをその目に焼き付けて、何を思っている? 当ててやろうか? お前はボクを殺したくてしょうがないだろう? それは恨みになり、やがて復讐心がお前を支配する。それ程、ボクは、お前の中で大きくなった。だから、お前は——」


ボクはそう言うと持っていた男の胸倉を、ドンと突き飛ばした。


男は2、3歩、後ろへ下がると、自分の体の異変に気付く。


男の体が薄っすらと消えていく。


「う、うわぁ!!!! な、なんだこれ!??」


自分の体の異変に男は悲鳴を上げる。


「ボクをもっともっとお前の中で増幅させろ、ボクへの恨みをもっともっと。でもね、残念な事に、ボクと深く関わると、消えちゃうんだ——」


そう言ったボクを、まるで化け物でも見るような目で見てくる。


いいね、たまらなく、気分を高らめてくれる。


「だって、ボクは、キミと会う事のない人だから——」


そう言い終わると、男は悲鳴と共に消えていなくなった。


ダウンしていた奴等は、それを見て、悲鳴をあげながら、逃げていく。


コンビニの店員も、驚きすぎて、警察へ通報するのも忘れている。


「・・・・・・」


ボクは自分の手の平などを見て、このチカラはなんなんだろう?と考える。


しかも、ボクはこんなに強かったか?


ボクは一体、誰なんだ——?


自分が言った台詞も、よくわからない。


『だって、ボクは、キミと会う事のない人だから——』


なんだ、それ?


会う事のない人だから?


それに、どこに消えていなくなったんだ?


辺りをキョロキョロしてみるが、シンと静まり返った場所は、コンビニの店員が店内で慌てているだけで、何もない——。


あぁ、そうか、これが未来を手に入れたって事なんだ。


ボクは、あの声を思い出していた。


未来がほしくないか——。


ボクに聞こえた声。


うん、もう、一人で小さくなっているだけの人生は嫌なんだ。


誰もボクを守ってくれない。


だから、アパートで隠れているしかできなかった。


でもそれは過去。


もうボクは隠れる必要もない。


そう、ボクの前に現れる嫌な奴は、消してしまえばいい。


これは弱い者を助けてくれる正義のチカラだ。


ボクはヒーローなんだ。


あぁ、そうか、アイツ・・・・・・。


シャルトって言ったっけ、アイツも消してしまえばいい・・・・・・。


ボクは自分の大いなるチカラに、静かに興奮していた。

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