2. 民を守るソルジャーの場合


なんだ、コイツ。


変な術を使って恐竜を消し去った!?


見た感じ・・・・・・まだ幼い子供っぽいな・・・・・・?


見た事もない髪の色だな、ブルー?


染めてるのかな?


「おい! シンバ・ネクスト!」


「あ、はい!」


振り向くと、監督となる上司がオイラをいつものように睨んでいる。


「何をしている!」


「あ、あの、変な術を使う奴が!」


と、見ると、いない!


「あ、あれ? なんで? 今、ここにブルーの髪をした奴がいたんですよ!」


「どこにだ?」


「ここに! そいつが恐竜を変な術で消し去ったんです!」


「・・・・・・歯を食いしばれ!」


「え?」


「歯を食いしばれ!」


「あ、はい!」


奥歯をギュッと噛み締める。


すると、思いっきり殴られた。


倒れるオイラ。


気が付くと、仲間のソルジャー達が、周りにいる。


「立て、シンバ・ネクスト!」


言われた通り立ち上がる。


「仕事中に白昼夢とは度胸があるな? おい?」


白昼夢?


白昼夢だったのか?


オイラは確かに、妙な術を使う男を見たのに?


「ノルマはこなしたのか?」


「・・・・・・いえ」


「もう、皆、ノルマをこなし、10匹以上は倒しているんだぞ!」


「え? みんな、10匹のノルマをこなしたんですか?」


「そうだ、お前だけだ!」


「・・・・・・すいません」


「何匹倒した?」


「・・・・・・まだゼロです」


「ゼロ!? 今日もゼロ匹か!? 歯を食いしばれ、シンバ・ネクスト!」


「はい」


奥歯をギュッと噛み締め、思い切り殴られる。


もうそれが日常。


その内、顔が変形するかもしれないな。


「シンバ・ネクスト。お前はソルジャーに向いていない。サッサと辞めるんだな」


そう言うと、監督は行ってしまう。


「ネクスト、お前、バカだよ、正直に言いすぎ。恐竜なんてウジャウジャいるんだからさ、嘘ついて10匹倒しましたって言えば、わかんねぇよ」


コイツは同じ班のソルジャー仲間の一人。


「・・・・・・でも痛いから」


「は? そら殴られたら痛いに決まってんだろ、だから嘘つけばいいんだよ」


「・・・・・・いいんだ、痛いの慣れてるから」


「バッカだなー、お前」


そう言って、濡れた布を渡してくれた。


オイラはその布で、殴られた頬を冷やす。


最近、本当に、うまくいかない事ばかり。


せめて仕事だけは頑張りたいが、変な術を使う奴が見えたりして、もう限界かな。


本当に向いてないのかな、ソルジャー。


小さい頃は憧れてた職業が、今では、現実でイッパイイッパイ。


「ネクスト、帰るぞ」


「あぁ」


同じ班の仲間に背中を押され、ソルジャーの本部である組織に戻る。


組織の名は『バニアイリス』


社長自らの名前だ。


オイラ達はバニアイリスのソルジャーで、この世界には恐竜という恐ろしいドラゴンが生息している。


人間を脅かす恐竜達は、繁殖能力が優れていて、物凄い夥しい数の恐竜が、大地を駆け巡っている。


オイラ達ソルジャーは、その恐竜を倒す為に存在している。


体長20メートル程、体重30トン程もある恐竜。


大地をそんな奴等が駆け巡っているのだ、人間は地下で暮らしている。


こんなに綺麗な青空を見上げる事も、地上に出てこれる人間しか、できない。


世界を変える筈のソルジャーが、一匹も恐竜を仕留められないなんて、オイラはヒーローには、やっぱりなれないのかな。


組織まで、地下鉄で帰る。


言葉の通り、地下を走る鉄の列車だ。


地下には線路がひいてあり、様々な場所に行き来できる乗り物だ。


だけど、地上への線路を走る列車は、ソルジャー専用の地下鉄。


それに乗り込むと、後はバニアイリスまでノンストップ。


列車に揺られながら、オイラは、ぼんやりとしていた。


何も考えたくなかった。


最近、ついてない事ばかりで、これ以上の不運に悩まされたくない。


「シンバ・ネクスト」


ぼんやりしているオイラに、監督が声をかけてきた。


ソルジャーは数人で1グループとして、それぞれ班に分けられる。


班ごとに、地上の様々なエリアに散らばり、そこの恐竜を倒す。


そのそれぞれの班に監督が一人、ソルジャーを指導する者としている。


そして、オイラの班の指導者である、この監督は、どうやら、オイラの事を嫌っている。


「いいか、お前が臆病者で、恐竜を倒せんのは、この際、しょうがない。だがな、臆病者のソルジャーなど、バニアイリスは必要としない。何故、お前のような弱者が、ソルジャーの試験に受かり、資格を得たのか、わからんが、資格を持っていても、お前はソルジャーに向いていない!」


「・・・・・・頑張ります」


「それは毎回聞いている!」


わかっている。


辞めますと言う台詞が聞きたいのだろう、だけど、ソルジャーを辞めたら、他に何をしたらいいのか、オイラはわからない。


「お前はもっと、お前らしい生き方をした方がいい」


オイラらしい生き方って?


「どうだ、今月一杯で、少し考えてみたら?」


「・・・・・・頑張ります」


そう言ったオイラに監督は深い溜息。


「優しく言ってやっても、わからぬのだな、本当に貴様はクズ以下の能無しソルジャーだ。何故、オレの班に入ったんだ、御蔭で、オレの班は成績がガタ落ちだ」


と、タバコを吸い出した。


「監督」


「あぁ!?」


「列車内は禁煙です」


「・・・・・・ネクスト」


「はい」


「お前は余程、オレに殴られたいらしいな」


「・・・・・・」


「後で牢獄へ来い」


そう言って、監督は違う車両へと行ってしまった。


牢獄。


それは拷問部屋だ。


チカラを覚えたソルジャーが、暴走しない為に、少しでも正義のルールを破った者は、説教と言う名の拷問を受ける。


正義のルールとは、ソルジャーには幾つかのルールがある。


一般の民を傷つけてはならない、とか、休暇にソルジャーを名乗ってはいけない、とか。


いろいろ・・・・・・。


オイラはルールを破った事は一度もないが、拷問部屋へはしょっちゅう行っている。


監督はオイラの体を、まるでサンドバックのように殴り続ける。


ご丁寧に装備力の高いソルジャー服を脱がされ、殴られるから、御蔭で、体中、痣だらけ。


だけどソルジャーを辞められない。


辞めてどうする?


オイラには、ソルジャーしかない。


行く場所も、どこにもないのだから——。


バニアイリスに着き、皆は、今日の疲れをとる為、直ぐにシャワー室へ。


オイラは一人、牢獄へ。


ソルジャーになる為の訓練生達が、憧れの目で、オイラ以外のソルジャーを見ている。


覚えている。


オイラも、あんな風になれるかなって、あそこで、ソルジャーを見ていたっけ。


いつから、オイラは道を間違えたんだろう。


監督に殴られながら、思い出していた。


あの頃は、まだ光が遠くて、早く辿り着きたくて、一生懸命だった。


ゴールと言う光は、次のゴールを見えなくした。


気が付けば、オイラはゴールの見えない光の中、毎日、もがいている。


「ハァ、ハァ、ハァ、シンバ・ネクスト、よく考えるんだな」


監督はそう言うと、牢獄から出て行った。


「・・・・・・カハッ! ゴホッ、ゴホゴホ!」


少し咳き込み、立ち上がると、オイラは何もなかったように、その部屋を出る。


シャワー室へ向かう途中で聞こえた会話。


「ねぇ、バニラ、ネクスト君と別れたって本当? 誕生日前じゃん」


「いいの、アイツ、出世できないだろうし、どうせ、ろくなプレゼントも用意してないわよ。それにね、悪いけど、超ヘタクソ!」


「何が? エッチが? キスが?」


「どっちも! 童貞野郎よ、アイツ!」


「うわ、最悪! 仕事もできない、エッチも下手、キスも駄目、しかも根暗! いいとこナシじゃん、ネクスト君って!」


「そうなのよ、やっぱり、あの噂って嘘なんだね、訓練生の中で一番の成績でソルジャーになったって」


「あぁ、そういえば、その噂で、付き合ったんだっけ? バニラ、未来の英雄が旦那様なんて、超セレブになれるって喜んでたもんね」


「噂に踊らされちゃったわ。でもいいの、私、8股かけてたじゃん、アイツがいなくなって7股になったのよ。一週間、丁度、変わり交代で逢えるからスケジュールがラクよ」


「バニラって、ホント、ビッチよねー」


「ビッチ上等! てか、ビッチより酷いのはネクストでしょー、アイツが自分で噂流してんじゃないのー?」


「あはははは、在り得るかもー!」


バニラは、ちょっと前まで付き合っていた。


バニアイリスで、事務の仕事をしていて、ちょっと美人でスタイルも良くて、実はオイラの一目惚れだった。


だけど、バニラの方から告白して来て、オイラは嬉しくて・・・・・・。


バニラと別れてから、特についてない事ばかりが続いていた。


しかも、まさか、バニラの本音を聞いてしまうなんて、ついてないにも程がある。


休憩室から、笑いながら出てくるバニラに、オイラは急いで身を隠した。


去っていくバニラの背中。


愛し合っていたと思っていたのはオイラだけ——?


『ねぇ、ネクスト君、私はいつもアナタの傍にいるから』


そう言ってくれたのも嘘なの——?


不思議だな、こんなに傷ついているのに、どうして、悲しくないんだろう。


シャワーを浴びながら、笑いが止まらなくなる。


頭までイカレちゃったかな。


今日の報告書を書いて、事務室に提出に行けば、今日の任務は終わり。


報告書と言っても、毎日、同じ。


恐竜を倒した数、0。


0だから、他に何も書く必要がない。


しかも事務室には、バニラがいる。


絶対に毎日、顔を合わせる相手と、険悪なムードにはなりたくないから、笑顔でいつも通りにしている。


バニラも前と変わらない笑顔で、オイラを見ている。


「あ、あの、報告書を持ってきました」


「うん、今、担当者が席を外してるの、私が預かるわ」


そう言って、バニラが手を伸ばすので、報告書を渡すと、


「今日も倒せなかったのね」


と、報告書を見て、苦笑いするバニラ。


「・・・・・・向いてないのかな、ソルジャー」


そう言って、笑うオイラに、


「ネクスト君は優しいからね」


と、笑顔で答えるバニラ。


本当のキミが全くわからなくなる瞬間を知ったよ。


「・・・・・・じゃあ、報告書、お願いしときます」


オイラはそう言うと、事務室を出て、組織を後にする。


住んでいる所まで、そう遠くはない。


歩いて通える場所だ。


ゴミゴミとした地下世界に似合った汚いボロアパート。


一人暮らしだから、別に汚くても気にならない。


今月の給料も手取り数万だな。


家賃払って、終わりか。


どうすんだよ、生活費。


あんなもん買っちゃったからな。


ブランドのバック。


彼女への誕生日プレゼントだった。


「バカだよな、バニラの奴。もう少し、オイラと付き合っておけば、ほしがってたバック、手に入ったのにさ」


と、ちょっとだけ勝ち誇ってみるのは、間違いか?


コンクリの階段を駆け上り、2階の角部屋。


鍵穴に鍵を入れようとした瞬間、ドアが開いた。


「おかえり」


「・・・・・・ええええええええええええええええええええ!??」


また白昼夢か!?


思わず、表札と部屋番号を確認。


「こ、ここはオイラの部屋ですけど」


「わかってるよ、だから、おかえりって言ったじゃん?」


「・・・・・・アナタ、地上で会いましたよね?」


忘れる訳がない。


白昼夢だろうが、ブルーの髪をした男はインパクトがありすぎる。


「あぁ、会ったね」


「会ったねって、軽く言わないで下さいよ、何してるんですか、オイラの部屋で」


「なんもしてないよ、只、くつろいでいたけども」


「泥棒ですか?」


「なんもしてないって言ってんじゃん、まぁ、入れよ」


「入りますよ、オイラの部屋だし。アナタが出て行って下さいよ」


「固い事言うなよ、俺とお前の仲じゃん」


「どんな仲ですか!」


「シンバ同士の仲じゃん」


「え?」


「俺、シンバ・シャルト。キミ、シンバ・ネクストって言うんだろ?」


「なんで知ってるんですか!?」


「いや、表札にも書いてあるしね」


「・・・・・・偶然ですか、必然ですか」


「最初に出会ったのは偶然。今、俺がここにいるのは必然」


「オイラに何か用ですか?」


「うーん、まぁ、いろいろとキミの事を調べさせてもらったよ」


「ストーカー!?」


「どっちかって言ったら、俺がストーカーされる身分だろう?」


「ストーカーされるのに身分は関係ないと思いますけど。それにオイラにストーカーしても、アナタがオイラに適う訳ないですよ」


「なんで? キミ、そんなに強いの?」


「どう見たって、アナタの方が弱いでしょう、だって、身長も低いし」


「可愛いだろう?」


「顔だって、女の子みたいな顔してるし」


「羨ましいだろう?」


「体格も細いし」


「妬ましいだろう?」


「・・・・・・いいですね、プラス思考で。大抵、普通の男は嫌がりますよ、その見た目」


「そうか? 俺は気に入ってるけど?」


「オイラは嫌ですよ、女の子に間違われそうだ。って、何の話してんですか!」


「え? 世間話?」


と、ドカッとソファーに座る男。


「アナタ、何者なんですか? そんな目立つ頭して! わかった、家出少年だな? 親に反抗する為に、髪の色を染めたのか?」


「何言ってんだよ、俺はキミと同じソルジャーじゃないか」


「・・・・・・え?」


「よく思い出せよ、俺はキミの同僚だろう?」


そう言われると、何故か、そんなような気がしてきた。


「・・・・・・あ! あぁ、そうだ、そうだったな、同僚の——」


「んな訳ねーじゃん! バッカだなー、騙されてやんのー!」


と、ゲラゲラ笑う声に、ハッとする。


なんでだろう、本気で、そんなような気がした。そんな訳ないのに。


「俺ね、タイムパトローラーの隊長な訳よ」


「へ?」


「俺の声は嘘の声だけど、この時間の人達には本当になる時がある。俺が言う『よく思い出せ』と、言う言葉には、ない時間を作り、記憶が生み出される効果があるんだ」


何の話をしてるんだろう?


「だから、キミはさっき、まんまと騙された。俺がその後、記憶をナシにしたから、直ぐに正気に戻ったけどね」


何を言っているんだろう?


「俺は、この時代に堕ちたであろう犯罪者を追っている。一緒に手伝ってくれないかなぁ、シンバ・ネクスト君!」


妙な術を使う、この男は、ブルーの瞳でオイラをジッと見つめて来た。


なんだか、不思議な瞳の色に吸い込まれてしまいそうだ・・・・・・。


犯罪者を追うのか・・・・・・オイラにできるのか・・・・・・?


いや、何を考えてるんだ、オイラは!


変な術に騙されるな!


頭をブンブンと左右に振り、キッと男を睨んだ。


「妙な話をして、変な術でオイラを惑わすな!」


「術?」


「お前、恐竜を殺したのか?」


「恐竜って、あの地上にいるデカイ生命体の事?」


「ああ! お前、オイラの目の前で、恐竜を一瞬にして消しただろう! 殺したのか!?」


「まさか。俺が勝手にこの時代の生き物を殺せる訳がないだろう、それだけで時間犯罪者になってしまう。あれは、別の場所に移動してもらったんだよ。だから、目の前から消えた。それだけ」


「別の場所に移動?」


「あぁ、銃型の瞬間移動装置なんだ、これ」


と、男は懐から武器を出して来た。思わず、身構えるオイラ。


「大丈夫だよ、これは誰かを殺したり傷つけたりする武器じゃない。自分の身を守るだけの武器だ。中にこめられている弾は発砲して、空気に触れると、白い煙のようなものに変わる。まぁ、実際は煙じゃないんだけど、見た目には煙に見える。その煙は空間を飛べるんだ、つまり、この時代のどこかに、煙は移動できる。だから、その煙に捕まると、煙と一緒に、その場から消え、違う場所に移動する。煙はそのまま消えるけど、煙に捕まえられていた物体は消えない。物体だけが瞬間移動したって事になる。なんなら、試してみる?」


そう言って、銃口をオイラに向けるから、オイラは首を左右に振った。


「じゃあ、恐竜はどこかに消えただけで死んでないのか?」


「あぁ」


「そっか」


「ホッとした顔してんな」


「え?」


「恐竜が死んでないって知ったら、ホッとした顔してる。俺が殺さなくても、この世界にはソルジャーがいて、恐竜狩りをしてるんだろう? だったら、今頃は殺されてるかもな」


「・・・・・・そうだな」


「キミもソルジャーだよな?」


正義のルールで、ソルジャーを名乗ってはいけないとあるが、地上で会ってしまっている。


隠したってしょうがない。


「アナタは? アナタこそ、地上で何してたの?」


「だから言ったじゃん、タイムパトローラーの隊長だってば」


「本当の事を言えよ」


と、ソファーに座っている男を見ながら、オイラも床に腰を下ろした。


「じゃあ逆に聞くけど、なんで嘘だと思うわけ?」


「だって、アナタはまだ若いでしょ、隊長ってのはバレバレ嘘だよ。まだ十代じゃないの?」


「失敬だな、これでも23だ」


「23!? で、でも、それでも若いよ、23で隊長はないよ」


って言うか、オイラと同じ年齢なのか!?


幼いだろ、幼すぎるだろ、見た目が!


「嘘じゃないよ、俺は、キミには嘘はつかない。だから、キミには本当の事しか言わない」


「・・・・・・なんで?」


「キミと対等になるには、キミと同じ事を誓うしかないだろう」


「誓う?」


「キミは絶対に嘘はつかないだろう?」


「・・・・・・なんで?」


「偶然、キミに出会って、キミに協力してもらおうかと考え、キミと言う人間を調べさせてもらったよ。今日のキミの行動も、俺は知っている」


そう言われ、突然、オイラは恥ずかしくなって、顔に血が上って行くのがわかった。だが、


「キミはソルジャーに向いてないな」


そう言われ、カチンと来た。


踏んではいけない爆弾を踏まれたんだ。


「じゃあ、オイラは何に向いてるって言うんだよ!!!! 向き不向きなんて努力でどうにでもなるだろう!!!! みんな、向いてる仕事ばかりしてる訳じゃない!!!! 向いてなくたって頑張ってやってる奴は、オイラだけじゃない!!!!」


「やる気が失われてるのに?」


なんで、コイツ、なんでもかんでも見透かしたように言うんだ。


「やる気がない訳じゃない! 只、ちょっと、運が悪いだけだ!」


「やる気がない奴の所に運は向いて来ないよ」


「そんな事ない! オイラだって、うまく行ってた時があったよ!」


「だろうな。じゃなかったら、今はないだろうし」


「・・・・・・そうか、わかった、アナタはオイラを笑いに来たんだ」


「笑いに? 俺、そんな暇に見える?」


「暇だから、オイラをストーカーしたんだろう? オイラが彼女に笑われている事も、見たんだろう? そうだよ、その通りだよ、彼女が言った通りだ、オイラは童貞野郎で、キスもエッチもうまくない。その上、出世もできない。女の子一人、幸せにもできなくて、あんな風に言わせてしまうカッコ悪い男なんだよ!」


「もう童貞じゃないだろう、彼女とやったなら」


「・・・・・・童貞並みに下手って事なんだよ!」


「知らねぇよ、そんな事。大体、お前、最初から童貞じゃねぇじゃん」


「・・・・・・は?」


「だから、キミはさぁ、彼女を好きだったんだろう? 本気で好きだったんだろう? だったら童貞じゃないじゃん」


「・・・・・・どういう意味?」


「恋愛童貞じゃないじゃん。寧ろ、彼女の方が恋愛童貞・・・・・・女は童貞って言わねぇか。まぁ、でも、そういう事だよ。セックスってのはさ、行為だから、難しい感情がなくてもできる事で、うまい、下手も、人によっては違うし、数こなせば、それなりに身につくテクニックもあるだろうが、恋愛って言うのはさ、難しい感情が支配するから、簡単じゃないんだよな。それをクリアしてるんだから、お前は初心者じゃないって事」


なんだろう、コイツ、考え方が普通と違う・・・・・・。


コイツ、自分に前向きなだけじゃないんだ、相手に対しても前向きなんだ・・・・・・。


凄いプラス思考体質なんだなと思うと、何故か、笑いが込み上げてきた。


「何笑ってんだよ」


「いや、まさか童貞について話すとは思わなかったから」


「そこが一番拘りありそうだったじゃんか」


「そうだね、まさか、好きだった子に、そんな風に思われてるなんてって、今日一番の凹み所だったからね」


笑いながら、そう言った後、


「もう知ってるんだろうけどさ、一応、自己紹介するよ、オイラはシンバ・ネクスト」


と、手を出した。すると、


「俺はシンバ・シャルト。シャルトでいいよ」


と、オイラの手を握り、シャルトは笑顔で名を言った。


「シャルトか。信じるよ、シャルトの事。タイムパトローラーだっけ? それって、タイムマシンで未来から、この時代に来たって事?」


「いやいや、未来へ飛べるマシンなんてないよ、未来は存在しないのと同然だから」


「え?」


「俺は今と言う時間を飛び越えて来た。常に時計の針は今を打つ」


「・・・・・・どういう事?」


シャルトの話は面白かった。


未来も過去も、常に変わっているのだと言う。


今と言う道を辿って、オイラ達はここに存在しているから、今と言う道を辿って過去へ戻れる事は可能なんじゃないかって質問したら、過去の記録は残せても、過去の物体は残せないから、過去は、もう存在しないのだと言う。


つまり、オイラが生きてきたである足跡は残っていても、1秒過去のオイラはどこにもいない。


オイラは今しか存在しないから。


未来も同じだそうだ。


どこに向かうか、どの道に進むか、それは今のオイラもわからない。


道は歪む程、多くあり、必ず進む道が用意されていても、未来はまだ足跡もない。


オイラは今、ここに存在しているから。


誰かの足跡を辿って行く訳じゃない、オイラだけの足跡を残す為に、未来はある。


こんなオイラでも、オイラだけの足跡を残すんだな。


誰でも、みんな、どんな奴でも、未来があるんだな。


ここまで生きてきた証の足跡も、残っていて、今があるんだな。


「で、オイラに、何をしてほしい訳?」


「バニアイリスの社長に、愛人ができたの知ってるか?」


「そうなの? 凄いね、今日だけで、オイラの事以外に、社長の事まで調べたの?」


「いや、休憩室で、話を聞いただけなんだけど、その愛人が、ブルーの髪の女らしいんだ」


「ふぅん、染めたとかじゃないの? シャルトだってブルーじゃん」


「俺の生まれ育った時間の中で、ブルーの髪は普通だよ、地毛! 俺が追ってる女も俺の生まれ育った時間の出の者なんだよ。それに、この時間の世界の人間は、髪がブルーの奴っていないだろう? 染めるって言っても、今の流行の色じゃないよな?」


「まぁ、ね」


「やっぱりその愛人が怪しい」


「でも社長の愛人だよ? 捕まえるなんてできるのかなぁ、ちょっと様子見たら?」


「いいのか、そんな悠長な事言ってて」


「なんで?」


「調べるところによると、バニアイリスさんって、この世界でかなりの権力者だろう? もしかしたら、この時間の世界で偉大人物として、何れは記録に残る者かもしれない。そんな時間に影響がある人物が、この時間に存在もしない人間と接触するって事は、どういう事か、わかるか? 時間にかなりの異常が表れ、空間が歪み、この世界が消える」


「消える!?」


「あぁ、消滅するんだ。ここの時間だけじゃない、他の時間も、ここの時間の影響が響き、消滅していく」


「・・・・・・そんな!」


「それを阻止しなければならない」


話が大きすぎる。


まさか、そんな事になるなんて。


オイラに何ができるって言うんだろう、協力はすると言ったが、協力なんてできるのか?


「怖くなった?」


オイラの表情を見て、気持ちを読み取ったのか、シャルトは、そう聞いた。


「・・・・・・オイラにできる事なんてあるのかなって思って」


「あるさ、バニアイリスの組織内って、広すぎて、直ぐに把握できないし、案内してもらいたいんだ。それに、俺が堂々と組織内を歩けるように、キミの班の中に入りたい」


「え!? それってソルジャーとして潜り込むって事?」


「大丈夫だよ、俺の言葉は嘘を本当にするって、さっき言ったろ?」


「でもソルジャーって、恐竜と戦うんだよ? シャルトにそんな事できるのかなぁ、変な術じゃなくて、ソードだよ? 重いよ? 持つ事も難しいんじゃないかな、そんな細腕で」


「まぁ、その辺は適当になんとかなるよ」


「ならないよ!」


「兎に角、その作戦で」


「どの作戦!? オイラはどうしたらいいのさ?」


「まぁ、いつも通りかな、俺が傍にいるだけで」


と、言いながら、ソファーの上にゴロンと横になるシャルト。そして、


「じゃあ、明日の朝、起こしてね、おやすみ」


と、目を閉じる。


「お、おい! 寝る気か!? ちょっと待てよ! おいってば!」


コイツ・・・・・・飯とか食ったのかな・・・・・・?


「って、おい! なんで時計が水浸しなんだよ!」


「あ、ごめん、俺、水飲もうとして溢した」


「嘘だろ、うわ、動かないし! 直せよ! って、なんでもうイビキかいてんだよ!」


信じるとは言ったものの、やっぱり、怪しい。


それに信じているからこそ、怖くなる。


時間の概念なんて、よくわからないけど、今の時間が消滅してしまう事が、どんな事かなんて、それこそわからないけど、重大な事で、大変な事なんだって事はわかるし、とても危険だって事もわかる。


でも、コイツは・・・・・・シャルトは、怖くないのかな——。


失敗したら、全てシャルトのせいになるんじゃないのかな・・・・・・?


オイラはシャルトじゃないから、関係ないけど・・・・・・。


そう、関係ない。


オイラの仕事はソルジャーな訳で、タイムパトローラーじゃない。


一晩寝れば、考えも変わってくる訳で・・・・・・。


「おい、おい、起きろ、ネクスト!」


「う・・・・・・うん? もう朝?」


「あぁ、少し早めに出るから、仕度しろよ」


「え? なんで早め?」


「ソルジャーの制服とか、俺、持ってないから、手に入れなきゃ」


「手に入れるって、どうやって?」


「誰かのロッカーに入ってるだろ、そんなの」


「盗むの!?」


「借りるんだ! いいから、早く仕度しろよ!」


「あ、あのさ、オイラ、考えたんだけど、やっぱり・・・・・・」


「いいから、早く!」


いざとなると、言いたい事が、うまく言葉に出せない。


だけど、言わなければ、巻き込まれてしまうぞ!


「ネクスト、髭剃り借りたんだけどさ、あれ、あんまりうまく剃れないな? それからトイレの紙がもうなかったぞ、ギリギリ後ちょっとあるけど」


「あのさ、シャルト!」


「何も言うな! お前が言いたい事はわかっている」


「え? ホント?」


「あぁ、この俺の服装、ちょっとこの時間では違うって感じ?」


「服装の話なんてどうでもいいよ!」


「よくねぇ! かっこわりぃじゃん」


この人、本当に、これでいいのか?


軽すぎじゃない?


自分の任務の重さ、わかってないんじゃないの?


「なんだよ? ジッと見て」


「シャルトさぁ、この時間が消滅するって言ったじゃん? それ、本当なの?」


「嘘は言わないって言ったろ?」


「だって、緊迫感ないし」


「そうか? あ、この服、いいな、貸して?」


「それはいいけど。ねぇ、もし失敗したら、シャルトのせいになるんじゃないの?」


「なんないよ」


「え!?」


「だって、この時間が消えたら、今この時間にいる俺も消えるじゃん」


ヘラッとした笑顔で、シャルトはそう言うと、オイラの服に着替えだす。


拍子抜けするオイラに、


「でも消えたくないからな、俺」


と、またヘラッと言い出す。


「オイラだって消えたくないよ!」


「へぇ。駄目ソルジャーなのに?」


挑発する目で、オイラを見て、馬鹿にしたように言う。


「駄目な奴は、消えたくないって思う事も許されないのか!? もしかしたら、これからの未来、オイラは駄目じゃないかもしれないじゃないか! そしたら、消えるのは勿体ないだろう!」


「その通り。どんな奴にも未来はある。過去の記録が残した足跡も、消えるのは勿体ない」


そう言って、シャルトは、


「さ、行こうぜ?」


と、玄関で靴を履いている。


なんだか、やられた気分だ。


協力はできないと言えなくなっている。


バニアイリス迄の道のり、オイラはどうしたもんかと、深い溜息。


「ネクストはどうしてソルジャーに?」


「え? あ、小さい頃から憧れてたんだ」


「ソルジャーに?」


「ううん、ヒーローに」


「じゃあ、今回、うまく行けば、ネクストは、この時間を救ったヒーローだな」


「・・・・・・ヒーロー?」


オイラが?


ヒーロー?


シャルトは何気なしに言ったんだろうけど、オイラは苦しくなる胸に押し潰されそうな感覚に捕らわれていた。


この世界でヒーローはソルジャーなんだ。


そしてオイラはソルジャーに向いていない。


シャルトだって、そう言った。


そんなオイラが、この時間を救うなんてできやしない。


ヒーローになんて、なれないんだ。


バニアイリスに着いて、直ぐに、オイラは自分のIDカードをコンピューターに通し、組織となるビルの中に入るが、シャルトはIDカードを持っていない。


シャルトは少し考えるような仕草をすると、適当なカードをコンピューターに差し込んだ。


勿論、IDカードが違いますとなる。


シャルトは次から次へと適当なカードを差し込む。


その内、コンピューターの方が怪しく思い、警備員達を呼ぶ音を鳴らし出した。


警備員が2人、シャルトをとっ捕まえる。


どうする気だろう?


オイラは助けられないよ、シャルト?


黙って見ているしかできないよ?


「IDカードなくしちゃって」


って、ヘラッと答えるシャルトに、オイラは頭痛を覚える。


そんな言い訳、通用しないよ。


「身分証明書は?」


ギロリと睨み、警備員の一人がシャルトに言った。


「身分証明してくれません? キミ達が」


と、シャルトは警備員達を見た。


「何を言っているんだ?」


少し怒り気味になった警備員が、大きな声を出して、そう聞くと、


「よく思い出せ、俺はお前達の上司じゃないか」


と、シャルトは大胆にも言い出した。


警備員2人、お互いの顔を見合う。


「忘れたのか? よく思い出せ、思い出したら、俺をビルの中に入れてくれよ。俺の身分証明なら、お前等がよくわかってるだろう? まさか、上司である俺に逆らう訳ないよな? ピーター? マイケル?」


と、2人の名前まで言い出した。


「も、勿論です! 今、扉を開けます!」


と、ピーターが自分のIDカードをコンピューターに入れ、扉を開けた。


「どうも」


と、笑顔で、手を振り、ビルの中に入るシャルト。


マイケルも頭を下げ、ビルの中に悠々と入るシャルトを見送る。


「・・・・・・名前までよくわかったね」


「ネームプレートが胸に貼ってあるじゃん」


「この時間の字は、シャルトの時間の字と同じなの?」


「違うよ、この翻訳機が、俺が見る字も訳されて、脳に伝わるから読めるんだ」


と、耳から小さなイヤホンのようなものを出してきた。


「そんなもの、耳に入れてたんだ」


「これがなかったら、ネクストとも会話ができないよ」


と、シャルトはそれを、また耳に戻す。


でも、本当だったんだ、『よく思い出せ』そう言われると、嘘が本当になるんだ。


「ねぇ、なんで嘘が本当になるの?」


「タイムパトローラーの隊長になるには、そういう資格も手に入れないといけないんだよ」


だから、それはどういう資格なんだよ。


と、突っ込みたいが、シャルトが、あっちこっちのロッカーを開けて、自分に合うソルジャーの制服を探しているのを見ていると、それこそ犯罪に手を貸しているんじゃないかと、いろんな疑問よりも、罪悪感でいっぱいになる。


「なんかブカブカだな」


「シャルトが小さいんだよ。大体、ソルジャーになる奴は体がデカイよ」


「ネクストだって、言う程、デカくないじゃん」


「でもオイラ、多分、他のソルジャーより、筋肉質だと思うよ」


そう言ったオイラに、ふぅんと頷くシャルト。


「このソルジャーの制服はそれなりに防御力もあるんだよ」


「へぇ」


どうでも良さそうに頷かれたら、説明もできない。


「お、これがソードか、カッコいー!」


と、ソードを手にとって、振り回すシャルト。


「危ない! それ、恐竜を倒せる武器なんだから、簡単に振り回すなよ!」


全く、本当に隊長って立場の人なのだろうか。


子供っぽすぎる。


そして、集合場所で班の点呼が始まる。


やはり、シャルトはここでも引っかかる。


監督がシャルトの目の前に立ち、誰だ?と言わんばかりだ。


「シャルト? シンバ・シャルト? おい、シンバって名の奴は、うちの班では駄目ソルジャーのシンバ・ネクストしかいないぞ!」


と、大声で、吠え出した。


「よく思い出せ、いたろ? ほら、優秀なシンバの方だよ」


そう言ったシャルトに、そりゃどういう意味だと怒りたくなる衝動を抑えるオイラ。


「・・・・・・あぁ、そういやぁ、いたな、いたいた! チビッコソルジャー!」


そう言った監督に、オイラは思わず笑い出しそうになる。


シャルトの顔は、チビッコと言われ、不愉快そうだ。


そして地上へ向かう地下鉄に乗る為、バニアイリスの中にある地下鉄乗り場に集まる。


「なぁ? ネクスト?」


「なんだい? チビッコソルジャー君」


「・・・・・・殴られたいのか?」


「優秀じゃないシンバと言われた仕返しだよ」


「優秀じゃないなんて言ってないだろ? 只、俺が優秀なシンバの方だって言っただけだろ?」


「それが優秀じゃないって言ってるようなもんじゃないか!」


言い合いしている間に、列車が来た。


乗り込み、地上までノンストップ。


「なぁ? ネクスト?」


「うん?」


「この世界を変えたいなら、地上に出るしかないよな」


「あぁ、そりゃそうだよ、だからソルジャーが、恐竜を倒してるんじゃないか。いつか、地上へ出る事を夢見て!」


「違う。それは平和の為にだろ? そうじゃない。この世界にタイムパトローラーができる程の文明の発展を望むなら、地上へ出るしかない。地下では文明は進展しないだろう。人は空を見ないと、やる気を失われる。どれだけ自分が広い世界に住んでいるのか、わからなくなる。地下に引きこもってたら、科学も進まない。だが、人は地上へ出れば、戦争を起こす。広い空を、大地を、自分だけのモノにする為に。今は恐竜と言う人間の敵がいるから、人間は力を合わせてるだけだ」


「・・・・・・そんな事ないよ、きっと平和に暮らすよ、だって、その為のソルジャーだもん」


「どうかな、ソルジャーって、名ばかりの正義じゃないのかな?」


なんでそんな事を言うんだよ。


オイラの事をそんなに否定したいのか?


ソルジャーは名ばかりの正義じゃない!


ちゃんとしたヒーローだよ。


ちゃんとした・・・・・・。


溜息が絶えないよ・・・・・・。


眩しい空がある地上へ着くと、今日は、オイラ達の班は岩場エリアらしく、そこまでバスで向かう。


バスという長い型をした鉄の車は重い恐竜の巨体に踏み潰されても大丈夫な頑丈な車だ。


道の悪い場所も、スイスイ走り続ける。


長いボディで、大勢のソルジャーを乗せる。


草原エリア、岩場エリア、海岸エリア、平地エリア、ジャングルエリアなど、自分の持ち場のエリアで、皆、バスから下りる。


オイラ達も岩場エリアで下りて、恐竜を10匹は、一人で倒す為に、恐竜狩りに向かう。


最低でも10匹。


それがノルマだ。


オイラはわからない。


恐竜は確かに人間が生きていくには邪魔な存在だけど・・・・・・。


恐竜だって、生きているんだ。


もしかしたら、オイラなんかより、ずっと頑張って生きているのかもしれない。


そんな奴を殺すのか?


もっと他にいい方法があるんじゃないのか?


「天空に城が築けると思うか?」


ぼんやりしているオイラに、恐竜狩りにも向かわずに、声をかけてきたシャルト。


まぁ、シャルトは恐竜狩りをする必要はないかもしれない、偽ソルジャーな訳だし。


「天空? なにそれ」


と、笑うオイラに、


「地下にいるよりはいいじゃん。空が見える」


と、空を指差した。


眩しい光に、目を細め、空を見上げる。


「でも今度は大地が遠くなる。それじゃ駄目だ。空と大地と、それが大事だ。そして未来、美しい世界を保っていたいよ。人は笑ってて、愛し合ってて、綺麗な世界がいい」


「いい事言うね、ネクストは」


「そう?」


「やっぱ向いてねぇな、ソルジャー!」


と、オイラの背中をバンッと叩いてきた。


「なんでさ、今のどこが向いてないんだよ!?」


と、シャルトを見ると、シャルトの背後で、


「お喋りはそこまでだ」


と、監督の姿。


振り向いたシャルトは、


「なんで? だって、今、恐竜いないし」


と、怖いもの知らずの台詞。


「お前等が恐竜を探しに行くんだろうが! 待ってて、そう簡単に現れるか!」


と、吠え返される。


「まさか本気でみんな恐竜狩りに行ったとでも思っているんですか?」


「なんだと!?」


監督は凄い怖い表情でシャルトを睨んだ。


シャルトはソードを抜き、


「これ、普通の剣ですよ」


そう言った。


「それがどうした!」


「普通の剣を武器に持たされて、あんな巨体の生命体を一人で10匹も倒せ? で、本気で、みんな、10匹倒してるとでも? それに恐竜達はあれだけの巨体だ、余程、腹が空いてない限り、人間みたいな小さな者を食らう事はないよ。腹が満たされる獲物は、地上にイッパイ溢れてるんだから。追い詰めたり、驚かせたりしない限り、人間になんて見向きもしないよ。だから、こうして、ソルジャーは地上に出ても平気なんじゃないの? 今まで、誰か、食われたりした?」


「・・・・・・何が言いたい、貴様!」


「アンタ、人の上に立つ立場に向いてねぇよ」


うわ、何言い出すんだ、シャルト!


向いてる、向いてないで仕事してる訳じゃないだろ!


って、オイラ、この状況から、どう抜け出せるんだ?


「シンバ・シャルトと言ったな。ソルジャーをまとめるのは、簡単じゃない、わかるか? わからないだろうな、お前のような小僧が! それこそ、人の上に立った事のない経験不足の、まだまだ視野の狭い子供だしな。だが、子供だからと言って、許される訳でもない」


「俺、23歳で子供じゃないけど」


「目上の者に逆らったら、どうなるか、教えてやろう」


「殴るの?」


「なに!?」


「殴るのかって聞いたの! 耳遠いの? このオッサン」


って、オイラを見て、聞くなーーーーー!!!!


「いいから歯を食いしばれ!!!!」


「いやだ」


「なにぃ!? 貴様、オレに逆らうとどうなるかわかっているのか!?」


「どうなるの?」


「多分ソルジャーをクビにさせられるんだよ」


と、オイラはシャルトに耳打ちした。


「あぁ、別にクビでも何でもいいよ」


そりゃそうだろう、シャルトは偽ソルジャーな訳だし。


それよりも、ここにシャルトと一緒にいるオイラの立場の方が危ういのでは!?


「オッサンさぁ、誰かをクビにする前に、もっと部下に慕われるような人間関係を築いたら? なんでさぁ、バニアイリスの社長はコイツを監督にしないかね?」


と、オイラを指差すシャルト。


「え?」


「え?」


と、監督とオイラは、同時に、クエスチョンマークでシャルトを見る。


「シャ、シャルト? オイラ、指差されてるけど、本当はどこを指差したかったのかなぁ?」


「は? どこって、お前しかいないじゃん、ここに」


「い、いや、じゃあ、聞き間違いかなぁ? オイラを監督にとかって聞こえてさぁ」


「そうだよ、お前が監督をやるべきなんだよ」


「ちょ、ちょっと、冗談はやめてよ」


「冗談? 俺は本気で言っている」


「オイラの事、ソルジャーに向いてないって言った癖に!」


「ソルジャーには向いてないだろ、この世界でソルジャーって仕事内容が、お前に向いてるとでも思うか?」


「ソルジャーに向いてなかったら、ソルジャーの監督なんて、もっとできる訳ないじゃん!」


オイラがそう吠えるのと同時に、


「静かにしろ!」


と、監督も吠えた。


「シンバ・シャルト。お前、この駄目ソルジャーのネクストが監督になれるとでも思っているのか? ふざけるな!!!!」


「ネクストは人の上に立つべき人材だ。コイツは恐竜を倒せないんじゃない。恐竜を痛めつけたくないんだ。こんな普通の剣で、一気に止めなんてさせると思うか? 倒せたとしても苦しませて殺してしまう。それができないんだ。何故って、恐竜の気持ちになって考えるからだろう。誰かの気持ちになって考える。これができない奴は人の上に立てない」


「何を言い出すかと思えば! 違うな、コイツは恐竜を倒せないんだよ、只の臆病者さ」


「・・・・・・アンタ、部下の資料、ちゃんと確認してるのか?」


「なんだと?」


「コイツはソルジャー養成所でもトップクラスだったんだぞ」


「・・・・・・あぁ、その噂なら聞いてる。だがな、噂は噂」


「噂じゃねぇよ! 本当にコイツはソルジャーの成績をトップで、ここにいるんだ」


シャルトはどうして、そんな事を知っているんだろう?


そんな成績は、とっくに闇に葬られているのに。


まさかタイムパトローラーだから、オイラの過去も知ってるのかな?


「コイツは臆病なんじゃない。優しいだけだ。だから正直に、ノルマを達成できない事も報告する。そうすれば、10匹のノルマを達成したなんて、嘘を報告する他の仲間の、その嘘が怪しまれず、オッサンの目は自分に向けられ、誰もオッサンに殴られる事もない。コイツは仲間の嘘だって、全て見抜いているんだ」


なんで?


なんで、シャルトは全てお見通しなの?


それがタイムパトローラーなの?


「コイツなら・・・・・・ネクストなら、ソルジャー達を団結させて、新しい企画を作り出せる。恐竜を殺さず、人間が大地を歩き、空を見上げられるように、コイツなら、この世界を変えれるさ。ソルジャーには向いてないよ、だけど真のヒーローに向いてるんだ」


堂々と、恥ずかしい台詞を言うシャルトに、オイラは感動していた。


「と言う事で、社長に直々に、俺達の監督は監督に向いていないと報告しに行く!」


そう言ったシャルトに、えぇ!?と、オイラと監督は目を丸くする。


「さ、行こうか、ネクスト」


「え? オ、オイラも?」


「当たり前だろ」


そう言うと、更に、小さな声で、


「これで堂々と社長に会えるな」


と、シャルトが言う。


「え? まさか、最初から社長に会う為の?」


「ん? なんだよ、まさか、本気で、お前、自分が人の上に立てると思ってたのか?」


「お、思ってないよ!」


思わず大声で言ってしまう。


「その自信のなさで、立てる訳ねぇよ」


「そんなの、言われなくてもわかってるさ!」


「わかってねぇから、お前はそんななんだよ!」


「そんなってどんなだよ!」


もう大声で、シャルトとオイラは口喧嘩。


すると、オイラとシャルトの顔の真ん中にソードがバンッと落とされた。


うわっと、オイラとシャルトは離れて、ソードを避ける。


「お前等、オレの目の前で自由すぎるだろ、挙げ句、社長にオレが監督に向いてないと報告するだとぉ!? 何様の分際だ!!!! その根性、叩きのめしてやる!」


監督は怒りを通り越して、我を失っている。


ソードを人間に向ける辺り、我を失って、異常者だ。


「いいんじゃないの? ネクスト、相手してやれよ」


「え!?」


何を言い出すんだ、シャルトは!


「ネクストがトップの成績で、ソルジャーになった所を確認させるチャンスだろ?」


「チャンス? これが?」


「チャンスは逃がしたら、二度と来ないよ?」


「バカ言うなよ! オイラが監督に勝てる訳ないだろう?」


「別に勝つだけが勝負によって得るものがある訳じゃないだろう?」


「ふざけるなよ、シャルトは偽ソルジャーでも、オイラは本物のソルジャーだぞ? 後戻りもできなければ、ずっとここにいるんだよ、逃げれないんだぞ! それなのに、オイラにこんな事をさせて、この後の事、どうすんだよ!」


「いちいち先々の事を考えるなよ、未来なんて、まだわかんないだろう?」


「何言ってんだよ!!!!」


オイラが吠えたのと同時に、監督も吠えた。


「お喋りはもう止めろ!!!!」


と。


そして、オイラに、ソードを向け、


「オレも舐められたものだ、目の前でオレの存在を無視したかのようにベラベラと喋られ、挙げ句、駄目ソルジャーのシンバ・ネクスト相手に、ソードを抜く始末だからな」


と、もう目が正気じゃない。


冷や汗タラタラのオイラと、楽しそうにニヤニヤ笑うシャルト。


「お、おい、シャルト、シャルトが相手しろよ」


「そうしたいのは山々だけど、俺、この時間の人間と余り関われないしさぁ」


「今更なんだよ、充分かかわってんだろ!」


「それに、監督さんはネクスト指名みたいだよ」


シャルトの言う通り、監督の目はオイラを、オイラだけを睨んでいる。


なんでーーーーーー!?


オイラが悪いのかーーーーーー!?


「さぁ、ソードを抜け。これは命令だ、シンバ・ネクスト!」


「・・・・・・」


どうしよう・・・・・・。


「大丈夫、殺されやしないよ」


と、オイラの耳元で、楽しそうに囁くシャルトに、オイラはお前にソードを抜きたいと思っていた。


「過去に囚われるなよ? 今を見失うな?」


「え?」


またシャルトが囁いた言葉が、うまく聞き取れなくて、聞き返したが、そんなオイラに、ソードが振り落とされ、咄嗟に避けた。


「抜かぬなら、殺すまで」


と、監督は殺気を纏い、オイラを狙う。


助けてと、目で合図をするようにシャルトを見ると、いつの間にか、少し離れて、あくびをしている!


アイツ、絶対、許さないぞ!


「どうした、シンバ・ネクスト!!!!」


と、大声で、オイラを追い詰める監督。


どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・・。


って、本当にどうしよう、監督の動きが、完璧に見えるってだけじゃなくて、先読みできてしまうよぉ!!!!


や、やっぱり、監督は正気で、オイラを本気で攻撃する気なんてないんだ!


ないのか? こんなに真剣を振り回してるのに?


とりあえず、防御するにしても、剣を抜いた方がいいと思い、剣を抜いたが、監督は余計にいきりたって襲ってくる。


監督の剣を受け止めながら、オイラは思い出していた。


ソルジャーの養成所で、オイラがどんな奴よりも強かった事を。


今はもう亡き、オイラの先生。


『シンバ、お前はセンスがいい。どんなに強さを持っていても、センスがなければ、強さは使えない。お前は、強さが何かを知っている。だから、無闇に強さを使わない。自分で正義を判断するチカラも、お前にはある。シンバ、お前は、この世界を変えるだろう』


先生が、そう言ってくれた事。


でも、未だに、オイラは世界なんて変えれなくて、恐竜を倒す事がいい事なのか、悪い事なのかさえ、まだ答えを見つけられなくて、いつの間にか駄目ソルジャーのレッテルを貼られているよ。


先生、オイラ、一日一日が過ぎていく事に、ホッとしていた。


今日も一日が終わり、何もなかった事にホッとしていたんだ。


こんなんじゃ駄目だよね。


先生が亡くなった事、どこかでホッとしてる。


こんなオイラを見ないまま、いなくなってくれて、ホッとしてる。


あぁ、本当に、オイラは駄目ソルジャーだ。


強さが何かなんて、オイラはわからないよ、先生——。


今、振り上げるソードの柄を、バシッと捕まれ、ハッと我に返る。


見ると、監督が血だらけで、倒れている。


「言ったろ、過去に囚われるなって」


オイラのソードを止めたのは、そう言ったシャルトだった。


「今を見失ったら、チカラは歯止めが利かなくなる。いいか、お前の足跡はお前のチカラなんだ、過去はお前に弱さも強さもくれる。未来に弱くあっても、強くあっても、今のチカラを見失ったら、未来はない」


「・・・・・・オイラが、監督を?」


少し呼吸を乱し、オイラは目の前の状況に困惑していた。


「・・・・・・心配ない。掠り傷が大袈裟に見えるだけさ。でも俺が止めなかったら——」


「なんで? オイラ、監督を倒す気なんてなかったのに?」


「・・・・・・今のお前じゃないよ、過去のお前が、今のお前を見失わせたんだ」


「・・・・・・過去の? 只、昔の事を思い出してただけだよ!」


「面倒だよな、人間は知力が高いから、過去を忘れられない。極限に追い詰められたら、今を見失い、過去の自分が目覚め、暴走する。お前、今の自分を、過去の自分に見せたくないんだろう?」


「え?」


「だから、暴走したんだ。過去の自分が、今の自分を否定したんだ。いいか、時間は待ってくれない。1秒だって、絶対に後悔だけはするな! 今ある自分が、ネクスト、お前なんだからな!」


「・・・・・・」


「って言っても、無理だな。人間、後悔して生きてるようなもんだからな」


そう言って、少し笑うシャルト。


監督は気絶しているようだ、ピクリとも動かないが、呼吸はある。


「よし、行くか」


「え? 監督をこのまま置いて? 監督の血のニオイで恐竜達が来るよ!」


「大丈夫だよ、もうすぐみんなが集まってくる」


「え?」


「お前と監督が戦ってる時に、ソルジャーが数人やって来てさ、事情は話したよ。したら、直ぐにみんな集めて来るって言ってたし」


「じ、事情って?」


「だから、監督は監督に向いていないと、ネクストが言い出し、2人、戦う事になったって」


「オイラが言った訳じゃないだろう!!!!」


「じゃあ、誰が言ったんだよ?」


「シャルトが言い出したんじゃないか!」


「俺が? 悪いけど、俺、この時間に存在しないんだぜ? 全て、お前がやったんだよ」


「なんだってぇ!?」


「悪いな、俺はお前が傍にいる時にしか、まわりに発言はしないよ。俺がいなくなった後、俺が言った台詞は全部お前が言った事になる」


「なんだってぇ!?」


「まぁ、そう怖い顔すんなって! みんなも監督のやり方にはついて行けないって思ってたらしいぜ? ネクストは監督を倒したら、社長に会いに行くと言っていたって、みんなに伝えてあるから、急ぐぞ」


「なんだよ、それぇ!!!! オイラが監督を倒せなかったら、どうする気だ!」


「大丈夫、お前は裏切らないキャラクターだから」


そう言って、笑うシャルトに、本当に殺意を覚える。


オイラの後悔は、シャルトに会ってしまった事だ。


「さぁ、行くぞ、みんなが集まったら、いろいろと聞かれるだろう、いちいち無駄な説明をするのも面倒だ!」


そう言って、駆け出すシャルトの背に、オイラも一緒に駆け出した。


監督を倒したオイラは社長に会って、ソルジャーを辞めさせられるんじゃないだろうか。


地下鉄に乗り込み、再び、バニアイリスにやって来た。


受付で、社長に会いたいと告げるが、アポなしは無理かもしれないと言われる。


だが、監督の事で緊急事態だとシャルトが食い下がらない。


そして、


「だったら、自分達で会いに行くよ!」


と、受付を通さず、突破しようとする。


オロオロしているオイラの腕を掴んで、


「大丈夫、監督の事で緊急事態なんだから」


と、無理矢理な理由で、走り出した。


受付嬢が2人、オイラとシャルトの行動に、どこかに連絡をとった。


多分、警備員が集まりだすだろう、そうなったら厄介だ。


「こっちだ、シャルト!」


と、オイラは、ビルの掃除員達が使う裏通路を案内する。


「ちょっとした抜け道だよ、オイラ、たまに使うんだ、一人になりたい時は余り誰も来ない通路だからいいんだ。この時間、掃除員は掃除中だしね」


「やっぱ、お前を仲間にして正解!」


と、シャルトは嬉しそうに笑う。


掃除員専用の大きいエレベーターに乗り込む。


「ハァ、ハァ、ハァ、最上階までは行けないんだな?」


「ハァ、ハァ、ハァ、社長室の掃除員はまた別みたいだよ、だから、このエレベーターでは最上階までは行かない。ねぇ、シャルト、どうしてオイラだったの?」


「うん?」


「どうしてオイラを選んだの? 最初、偶然、出会ったから?」


「・・・・・・」


「オイラ、大丈夫だよね、こんな事しちゃって」


「・・・・・・偶然じゃないよ」


「え?」


「最初、出会ったの、偶然じゃない」


「偶然じゃない? だって、偶然だって言ったじゃん!」


「今は偶然だと思ってない」


今は——?


「ネクスト、俺がいなくなった後、全て、これはお前一人の行動となる」


「え!?」


「今までだって時間犯罪者を追う任務はあった。だけど、ここまで自分の時間ではない誰かと関わったのは初めてだ。でも、お前、本当はこうしたかったんじゃないのか? その衝動を抑えてるだけじゃないのか? 俺は、お前はこうしたいんだと思っている。だから、俺はお前の背中を押しているだけ。俺の任務の為なのに、こんな事、都合がいいと言われれば、それまでかな。でも、こういうのって、偶然じゃないよな?」


「・・・・・・偶然じゃなければ、何だって言うの?」


エレベーターのドアが開き、シャルトは、下りると、振り向いて、


「運命って言うと思わない?」


そう言った。


運命——?


「絶対に変えられない足跡。必ず踏む場所。導かれるように辿り着くトコロ。それが運命」


「・・・・・・オイラ達は出会う運命だったって言うの?」


「俺はそう思っている。まぁ、運命なんて、変える為にあるって言う奴もいるし、未だに時間の空間を行き来してても、確かな運命なんて、出会った事もないしさ、信じる信じないの空想的な話になってくるけど、俺は自分に都合がいい運命は信じるんだ」


そう言って、笑うシャルト。


オイラはいまいちわかっていない。


シャルトがいなくなるって事が、どんな事なのか。


こうしている今も、オイラ一人がした事になるなんて、想像もつかないんだよ。


なのに、オイラの背中を押しているだけだなんて、本当に都合が良すぎるよ。


「ここは?」


「バニアイリスの研究室だよ」


フロアを走りながら、オイラはこの階の説明をする。


「研究? なんの?」


「よくわからないけど、恐竜達の事を調査してるみたいだよ」


「殺す奴等の事を調べるのか?」


「うん、もっと、多くの恐竜を簡単に排除する為にって事かな」


「へぇ。敵を知る為って訳か。面白いな、行ってみようぜ?」


「は? 社長に会うんじゃないの? この階のエレベーターを探して急ごうよ!」


「寄り道も楽しいって!」


コイツ・・・・・・マジで楽しんでないか?


ここの階の連中は白衣を着ている。


その為か、ソルジャーの格好をしているオイラ達は目立ちすぎる。


しかも走っているオイラ達は注目の的で、皆、振り返り、見ている。


「っていうか、勝手に入れないだろう!」


「なんで?」


「なんでって研究員とソルジャーは同じ場所で働く者だとしても、まるっきり違うし、研究の邪魔しちゃ悪いし!」


「絶対に見ておいた方がいいって! お前の頭の中で考えてる事、一致するだろうから」


オイラの頭の中で考えてる事?


研究室は様々な研究ごとに区別され、部屋が幾つかあるが、A-2と扉に書かれた研究室を選び、シャルトは扉のドアに手をかけた。


「シャルト!」


「ん?」


その扉の向こうを、オイラは見たくない。


だが、言葉がうまく出てこない。


「どうした?」


「・・・・・・やっぱり社長に会うのを急いだ方が——」


「いや、この扉を開けてからでも遅くないと思うけど」


「その扉を開ける事ってシャルトには関係ないんじゃないの!? やめようよ、無意味な事は! 無駄な時間だよ!」


「俺に関係なくても、お前に関係するかもしれないだろ! いいか、俺がいなくなった後、お前が全てを背負うんだぞ! 背負う為の理由、お前自身で確かめろ!」


「いやだ!!!! 社長に会う理由なんて、監督が監督に向いていないってだけでいいじゃないか! オイラがパワハラとか、虐待紛いの事をされていた事とか、そういうのじゃ駄目なの? それでいいじゃんか!」


「いいのか? それでいいのかよ、お前、このままでいいのか!」


このままで——?


「くだらないヒーローごっこのまま終わるのかよ! お前はこの世界を変えたいんじゃないのか! 未来がほしくないのか?」


未来——?


「このままで終わらないよ、お前の未来は! そうだろう? ヒーローになりたかったんだろう? そう言ったよな?」


なんでこの人は、オイラの中にズカズカと入り込んで来るんだろう。


「・・・・・・なりたかったなんて言ってないよ、憧れてたって言ったんだ」


オイラはそう言うと、シャルトに、


「扉、オイラが開けるよ。そこまでシャルトにやられると、背中を押されると言うより、おんぶに抱っこ状態で、情けないじゃん」


そう言うと、扉の前に立った。


オイラはソルジャー養成所で、恩師とも言える先生に巡り会った。


だけど、先生は亡くなって、今はもういない。


その先生の死因は自殺となっているけど、本当は他殺だった。


先生は、死ぬ前の日に、オイラに、『殺されるかもしれない』そう言った。




『シンバはこの世界をどう思う?』


『先生?』


『どうやらワタシの正義は、この世界では通じないようだ』


『先生? どういう事ですか?』


『シンバ、ワタシは殺されるかもしれない』


『え? 誰に?』


『ワタシは殺されるかもしれない——』




先生は、殺されたんだ。


この世界に——。


それを知っていながら、オイラは、今まで、何も知らないふりをして生きてきた。


それこそ、一番の悪だ。


ガチャリと音をたて、扉を開けると、白衣を着た人達があちこちにいて、部屋の真ん中には、部屋の半分を占める程のバカデカいカプセルがあり、その中にはたっぷりの水溶液と恐竜がいた。


白衣を着た研究員達は、皆、扉が開いたせいで、オイラ達を見ている。


「誰だね? 関係者以外は入れないよ、出て行きなさい」


やはり白衣を着た年配の男性がそう言った。


「・・・・・・ここは——? 何の研究を?」


そう聞いたオイラに、


「聞こえなかったのかね、出て行きなさいと言っているんだ!」


と、大声で吠えてきた。


「見ての通りだろ、ここは恐竜をつくってるんだ」


オイラの後ろで、シャルトがそう言った。


「・・・・・・恐竜をつくる?」


オイラがそう呟くと、


「何を言っているんだ、ここは恐竜の生態を調査する場所だよ。あぁ、キミ達、その服装からしてソルジャーだね? ソルジャーがもっと簡単に恐竜を倒せるよう、恐竜について調べるのが我々の仕事。わかるね?」


と、何故か、説明される。


「言えよ、わかんねぇって」


オイラの後ろでシャルトが言う。


「それともわかるのか?」


「わかるわけないだろう!」


オイラが、そう吠える為のシャルトの挑発だったのかもしれない。


でも、吠えてしまった。


だって、わかるわけがない。


何故、全滅させようとする動物の生態を今更、調べる必要がある?


ソルジャーがもっと簡単に恐竜を倒せるよう?


なら、地上に爆弾でも落とした方が、よっぽど、簡単に恐竜を排除できる!


こんな! こんな設備の整った科学があるんだから!!!!


研究員達が、何やら一生懸命、無意味な説明をしてくる。


「・・・・・シャルト、いつから知ってた?」


「地下世界で人間がそれなりに住めてる辺り、俺の時間より科学進んでんだなって思ったからかな。お前はいつから勘付いてた訳?」


「・・・・・・ソルジャーになって恐竜を倒さなきゃならなくなった時から——」


ソルジャーとして初めて地上に出た時、楽園かと思った。


光が美しくて、緑がざわめいて、風が光っていた。


こんな世界があるのならば、早く人々に見せてあげたい。


皆を地上に出してあげたい。


恐竜を倒せば、誰もが地上に来れるんだ。


だけど、そうなった時、その時、ソルジャーはどうなるんだろう?


もういらなくなったソルジャーはどうなるのか、考えると怖くなった。


今は恐竜が一刻も早く排除されるよう、人々は祈り、太陽で目が覚め、月の光で眠る生活を夢見ている。


その為、ソルジャーは一目置かれ、人々から感謝されている。


いや、バニアイリスの社員だと言うだけで、感謝されているんだ。


感謝をされているのはバニアイリス。


バニアイリスの一員である以上、オイラは願い続ける。


恐竜が全滅する事がないようにと——。


オイラがいつまでもソルジャーでいられますようにと!


そんなの間違っているのに!


「・・・・・・恐竜はソルジャーの事は絶対に狙わない」


「そうみたいだな」


「知ってたの!?」


「だって、俺が最初に地上に現れた時、目の前の恐竜、俺を見てヨダレ垂らしてたじゃん? でも俺を見る前に、もともとそこにいたお前を見て、ヨダレ垂らすべきじゃん? なのにお前には見向きもせず、俺を狙った。それはお前がソルジャーだからだろ?」


シャルトは全てお見通しって訳か・・・・・・。


ソルジャーなんてヒーロー気取りの悪だって事も知った上で、オイラと一緒にいたのか。


「ネクスト、やっぱ、お前は凄いな」


「え?」


「ソルジャーって立場で、よく気付いたじゃん。恐竜がソルジャーを狙わないなんてさ。普通は当事者だからこそ、気付かない事だろ? 食うか食われるかの戦場で、相手の事をそこまで読み取れるって、やっぱ、お前は凄いよ」


シャルトがそんな事を言うから、オイラは、なんでか、悲しくなった——。


「なんだね、キミ達は! どきなさい!」


扉の付近でいたオイラ達に、そう吠えたのは、バニアイリスの社長!


間違いない、CMやポスターなどでお馴染みのオッサンなのだから!


思わず、オイラはシャルトを引っ張り、隅へ移動し、頭を深く下げた。


社長の隣にベッタリくっついている青い髪の女。


「ほぅ! 今回もまた素晴らしい出来のドラゴンだな。いいか、お前達、くれぐれも言っておくが、翼などは付けるんじゃないぞ、コイツ等にくれてやるのは地上までだ。空までくれてやるなよ?」


「しゃ、社長! そ、そこにおられる2人なんですが、ソルジャーの方かと!」


と、研究員がオイラ達を指差した。


「うん? あぁ、どこから入って来たんだ、今の話、聞こえたかね?」


そう言った社長の横についている女が、


「話どころか、この部屋を見たのだから始末するべきだわ」


と、微笑んだ。


「・・・・・・俺が走ったら、お前は扉の鍵を閉めろ」


「え? シャルト? 何を考えてるの?」


「・・・・・・いいか、この時間に俺は存在しない。お前が決着をつけるんだ」


「え? や、ちょっ、ちょっと待ってよ、シャルト?」


「お前が社長に好きなように話をすればいい。このままで良ければ、このままでいいし、変えたいのなら、お前が変えろ!」


「か、変えろって、どうやって?」


オロオロしているオイラの事なんて、まるで考えなしに、シャルトは走り出した。


『俺が走ったら、お前は扉の鍵を閉めろ』


そう言われていたので、オイラもシャルトとは反対方向に走り、扉の鍵を閉め、振り向くと、シャルトは銃を撃ち放ち、白衣を着た研究員達が一人ずつ消えていく。


銃口から放たれる煙のようなものは、研究員を包み込み、この場から、どこかへ移動させて、この部屋にいなくなる。


そしてシャルトが社長と社長の横にベッタリくっついている女に銃口を向ける。


それはあっという間だった。


オイラがオロオロしながら、ドアに鍵を閉めている間に、そして、振り向いたら、もう、シャルトは銃口を本命に向けている状態。


「・・・・・・すげぇ」


思わず、そう口を吐いた。


もしかしたら、シャルトって、本気でソルジャーのオイラより強いかもしれない。


小さい体の癖に、女の子みたいな顔の癖に、コイツ、只者じゃねぇや・・・・・・。


「動くなよ、銃は瞬間移動装置を解除し、普通の弾が飛び出す、ごく普通の銃だ」


シャルトはそう言って、更に、


「肉体はクリス・マロニカ、中身はアイル・・・・・・だな?」


そう聞いた。


「・・・・・・チッ! タイムパトローラーがここまで追って来るとはな。アンタ、よくこの時間に来れたな? タイムパトローラーのいない時間だぜ? 元の時間には帰れないかもしれねぇのによ」


青い髪の女は、まるで、男のような喋り口調だ。


「MCBの言語をマスターしてるのか?」


「おいおい、この時間の科学と設備、見たろ? 翻訳機くらい簡単に作れる。勿論、作るには、それなりの知識と技術が必要だが、時間を越えるなら身につけてて当然だろ? タイムパトローラーだけの特権だとでも思った?」


「・・・・・・幾つか質問する。素直に答えろ」


シャルトはそう言うと、


「クリス・マロニカから離脱は可能なのか?」


そう聞いた。


「・・・・・・さぁね?」


「クリス・マロニカの魂というものか、なんというか、そういうのは、その体に入っているのか? つまり、クリス・マロニカは死んではいないのか?」


「・・・・・・さぁね?」


「お前、自分の立場を理解しているのか?」


「・・・・・・さぁね?」


と、同じ答えを繰り返した後、女は、ニヤリと笑い、


「アンタこそさぁ、理解してんの? そんなもん、オレに向けても無駄。撃ちたければ撃てば? 傷つくのはこの女の体。オレじゃねぇ。好きにしな?」


と、勝ち誇っている。


シャルトは、そうかとばかりに、銃を仕舞い、


「ま、どうせ、離脱されても、お前の魂? 肉体的に、俺が持てる訳ないだろうし、その体に入ったまま、連れて行くしかないだろうなとは思っていたけどさ」


そう言って、笑った後、


「お前、覚悟しろよ? 俺は女を盾にするヤローが一番キライなんだ」


と、台詞的には当たり前の事のようだが、今までに見せた事もない表情で、シャルトが言うから、オイラは驚いた。


本領発揮と言う表情に見えたからだ。


その表情にビビッたのはオイラだけではなさそうだ、青い髪の女の顔も引き攣っている。


「お、おい、さっきから何の話だ? それに研究員達は皆、どこへ消えた? コイツ等はソルジャーの姿をした強盗か? 物騒な武器など持って、なんなんだ?」


バニアイリス社長が、それこそオイラよりオロオロしながら、聞いた。


「・・・・・・社長、社長にはオイラから話があります」


「キミは?」


「オイラは只のソルジャーです。オイラはソルジャーに憧れ、いえ、ヒーローに憧れ、ソルジャーになりました。だけど、ソルジャーになって、本当にこれがヒーローなのかなって疑問を持つようになったんです。社長! バニアイリスは恐竜を創造し、地上に放っているんですか!? それを態々ソルジャーが倒してる! どうしてですか!?」


「・・・・・・ヒーローには敵が必要だからだ」


「でもわざわざ敵をつくらなくても、正義はいつだって必要だと思いますよ!」


「なに? お前も、あの男のような事を言う奴だな」


「あの男?」


「昔な、ワタシの正義はこの世界では通じないと言って歯向かって来た奴がいたよ」


「それはオイラの先生・・・・・・」


「うん? あの男に学んだのかね? もしくはあの男の家族か? 今更、敵討ちか?」


「・・・・・・いいえ、敵討ちなんてしませんよ、でも、もうやめましょう、こんな事!」


「今更やめれる訳がない! こうして我が社は大きくなったんだ! これからも、人々に感謝され、金も名誉も地位も、全てここにあるように、今更、やめる訳にはいかない!」


「なら、オイラが潰します」


「なんだと? 貴様が? やれるもんならやってみろ、貴様一人に何ができる?」


「・・・・・・ここは悪の秘密結社だ。ヒーローは一人でも、それを潰さなきゃならない」


「フッ、ヒーローとは常に孤独だな、だからこそ、お前もわかるよ、どんなに人々の為を想ってやっても、人々は、平和になればなる程、ヒーローを忘れるんだ。常に人々を脅かす敵が現れなければ、人々はヒーローを忘れるんだよ!」


この時、オイラは悟った。


社長も、きっと、昔は本当にヒーローだったんだと——。


もしかしたら和解できるかもしれない。


誰だって、悪の心もあれば、善の心も持っている。


誰だって、いつでも正義のヒーローになれる。


例え、忘れられても、ヒーローは消えない!


「ベラベラ喋ってないで、アレを出してやりなさいよ」


突然、髪の青い女が社長に女口調で言い出した。


「潰せるもんなら潰してごらんなさいな、坊や」


「ぼ、坊や? それオイラの事?」


どう見ても、坊やはシャルトだろう。


「美人に坊やって言われて勘違いすんなよ、アレ、中身は男だかんな?」


と、シャルトに言われるが、悪いが、見た目もオイラの好みではないので、美人とも思えないよ。


「ヒーロー、ヒーローって、そんなにヒーローになりたいなら、まずは悪役となるボスと戦って、勝ってから、意見を主張しなさいな、坊や」


「ボスって、社長と話し合って、和解できればいい事じゃないか!」


「あーら、ヒーローって口だけなのね?」


「なんだと!?」


「ヒーローは強くなくっちゃ、ね?」


何を企んでいるんだろう、この青い髪の女は。


「さぁ、アレの準備をしなさい」


「で、でも、アレはまだ動かせる段階ではない」


「何を言っているの? 今、動かさないで、いつ動かすの? ここの内部の事を知られ、あのヒーローごっこしてるガキに公表されたら、ここは終わりよ? いいの? それで? アナタは人々から、二度とヒーローとは思われず、悪だと罵られ、死んでゆくのね」


「それだけは嫌だ!」


社長はそう吠えると、後ろにあるメインコンピューターをカタカタといじり出した。


女は、ニヤリと笑い、


「死ぬ前に何か言いたい事は?」


と、シャルトを見て、言った。


「誰も死なねぇよ、お前も生け捕って、死んだ方が良かったと思うくらい、裁いてやるかんな、覚悟してろ、このカマ野郎!」


そう言ったシャルトに、女は負け惜しみだと笑う。


「シャ、シャルト? やばくない? オイラ達」


「ヤバイ? ヤバイって思うなら、お前が何とかしろ」


「オイラが!?」


「言ったろ? 俺はこの時間の者じゃないって。お前が全部、片付けるんだよ」


「なんかズルくない? オイラ、こんな展開、予想もできてないのに!」


「ま、頑張れ?」


「そんなぁ! 他人事すぎるよ!」


「他人事どころか、俺はこの時間で存在しないんだから、いないのも同然なんだって。あの男女を捕まえるのが俺の役目だけど、この世界のヤバイものなんて、俺には関係ない。お前がヤバイ事になって、死のうが、生きようが、俺には無関係なんだよ」


「酷くない!? オイラだって、シャルトの無関係な事に巻き込まれて、今、こんな事になってんのに!!!!」


「何言ってんだよ、俺の事で、お前はここにいる訳じゃねぇよ、お前はお前の意思でここにいるんだよ」


「嘘だぁーーーーーー!」


「嘘じゃねぇよ」


もう、ここから逃げ出したいなんて思っていたら、コンピューターをいじっていた社長が振り向いて、


「我々バニアイリスのチカラ、全てを持ったコンピューター、マザーだ」


そう言った。


辺りは何も変わらずで、何かが出てきたり、カプセルの中に入った恐竜が動き出したりする訳でもなく、何故かシーンとしたので、オイラは拍子抜けした。その瞬間、メインコンピューターの大きな画面に、美しい女性の顔が現れた。


無表情の女性の顔は目を閉じている。


3.2.1・・・・・・と、カウントダウンが終わると同時に、その女性の目が開いた。


「マザー、侵入者だ、排除しろ!」


社長がそう命令すると、コンピューターのあらゆる光が危険信号の赤に点滅し、ビービービーと言う警戒音が鳴り出す。


そして、オイラ目掛けて、光線のようなものが放たれた。


咄嗟に避けたが、ソルジャーのバトルスーツに穴が開いた。


オロオロしているオイラに、光線は容赦なく放たれる。


避けてばかりいるのも限界だと、剣を抜いたが、誰に向ければいい?


光線もどこから放たれているのか、全くわからない。


画面のマザーは無表情で、オイラを見ている。


マザーの警戒した色の赤い瞳。


そして、嫌な超音波が鳴り響き、その音はオイラの脳にまで嫌な痛みを与え出す。


シャルトが何か叫んでいるが、そんなの、聞こえやしない。


こうなったら、手当たり次第コンピューターを破壊するしかない。


オイラは、剣で近くにあるコンピューターをぶっ刺した。


電流が流れ、使い物にならなくなるコンピューター。


だが、マザーは無表情で変わりない。


それどころか、更に超音波が激しく、オイラの脳に響き渡る。


鼓膜が破れてるんじゃないだろうかと耳を押さえ、苦しむ。


こんな状態で、光線を避けるのも、無理がある。


大体、オイラはコンピューターなんてものに興味がない。


機械なんてものは、どう扱っていいか、わからないし、弱点なんてものがあるのだろうか?


あるとしたら、それはなんだろう?


ふと、思い出した。


オイラの時計って、機械だったよな?


『って、おい! なんで時計が水浸しなんだよ!』


『あ、ごめん、俺、水飲もうとして溢した』


『嘘だろ、うわ、動かないし! 直せよ! って、なんでもうイビキかいてんだよ!』


シャルトとの、その遣り取りが、頭の痛い中で、ふと浮かんだ。


そして、目の前にあるバカデカいカプセル。


恐竜が入っているが、水溶液もタップリ入っている。


コイツを壊せばいいんじゃないの?


考えてる暇はない、オイラは、カプセル目掛けて剣を振り落とした。


カプセルは相当硬いが、オイラの本気モードの剣術で斬れないものはない!


「大当たり」


と、ニヤリと笑ったのは髪の青い女——。


カプセルが壊れ、水が溢れ出す。


シャルトが、


「バカ! カプセルだけは壊すなっつったろ!」


と、吠えたが、そんなの聞こえなかった。


シャルトは、いきなり、社長に銃口を向け、煙を放った。


銃は瞬間移動装置になっていて、社長はこの部屋から消えた。


その後、直ぐにオイラにも銃は向けられたが、水溶液とコンピューターの電流が交じり合い、バチバチバチという火花が辺りに飛び散り、マザーの悲鳴が聞こえた瞬間、目の前が真っ白な闇になった。




夢だろう。


疲れているんだ。


ほら、早く起きて、地上に溢れる恐竜を10匹は倒さないと——。


またノルマ達成できないのはお前だけだって、監督にどやされる。


変な夢を見た後は疲れが抜けないんだよなぁ・・・・・・。




「おい、おい、起きろ、ネクスト!」


「う? うん?」


「また違う時間だ」


「え?」


「俺達の時間エリアじゃない」


パッチリ目を大きく開けて、周囲を見る。


目の前にはシャルト。


と、言う事は——?


ガバッと起き上がり、辺りを見る。


「こ、ここはどこ?」


「NTって暦の時間だ。ほら、これを耳に入れろ、言語翻訳機だ、この時間の言語に合わせてある。予備持ってきといて良かったよ」


「オイラ達、どうなったの!?」


「覚えてないのか? お気楽だなぁ、お前。俺なんて、もぅ、ギリギリ崖っぷちで、どうしようかってオロオロしっぱなしなのに」


よく言うよ・・・・・・。


「恐ろしく精密なコンピューターに大量の水溶液をぶっかけちゃって、コンピューターは自我があったから、それを回避しようと、自分の使えるパワーを放出しちゃって、その余りにもデカすぎるパワーが、あの密室内では耐えれなくて、空間が歪み、その場にいた俺達は空間の歪に吸い込まれ、この時間に流れ着いたって訳。敵もこの世界に流れ着いてる筈だよ。つーか、奴の考えは違う時間に逃げる事だったんだろうな、お前がカプセル割るのをわかってたんだよ。クッソー! やられたぜ!」


「・・・・・・」


て事は、夢じゃない!?


「さて、どうしたもんかな、ここNTって、恐ろしく人口が多いし、タイムパトロール隊もいねぇし。こうなったら、ネクスト、最後まで協力、よろしく」


悪夢はまだまだ続くのか・・・・・・。

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