2.共通点


「どうしてこんな目に合わなきゃいけないの!?」


突然、わっと声をあげ、泣き出す女の子。


ショートヘアで、小柄で、スポーツカジュアルと言う感じのトラックジャケット、ハーフパンツ姿。


もう1人の女の子は肩までの長い黒髪で、フリルのついたチュニックとジーンズ姿の、そこ等辺でよく見る女の子の姿だ。


「藁人形は7体ある。後一人、女の子がいるみたいだけど——」


メガネがそう言うと、


「いてもいなくても、どうでもいいだろ、出口探して、とっとと帰ろうぜ」


と、ピアスが言う。


「で、でもさ、ぼ、ぼく達は誰かに拉致されて、ここにいるんだし、こういうのはひとつひとつ、目の前にある事を解決していくべきで、出口を探すと言うのは、今やるべき事じゃないと思うんだ」


小太りが、そう言うと、ピアスは、


「オタクは黙ってろ! これはゲームじゃねぇんだ!」


と、吠えた。


「ぼ、ぼ、ぼくはオタクじゃないよ! 見た目で人を判断しないでよ!」


「なんだと!? オレがいつ見た目で判断したっつーんだよ!?」


「い、今したじゃないか!」


「今したのは、お前の意見からしてオタクだと感じたんだよ! いいか、出口を探して帰れば済む事だ、そうだろう!?」


「確かにね。だけど後一人いるんだとしたら、ほってはおけないよ、もう少しここで待ってみてはどうかな? 別に探しに行く必要はないよね、だって、皆、気付いたら、ここに集まってるんだから」


メガネがそう言うと、ピアスは舌打ちをし、それ以上、何も言わない。


小太りも黙っている。


何故だろう、どいつもこいつも怪しく思える。


出口を探すと言うピアスの意見は最もだが、兎に角アクションを起こさせたいのだろうか?


ひとつひとつ解決していくべきという小太りの意見もわかるが、何を解決させたいのか?


そしてメガネの、皆、気付いたら、ここに集まっていると言う台詞——。


最後の一人も、ここに来ると言う確信があるのか?


いや、一人一人を疑ってもしょうがない、もしかしら、二人で組んでいるかもしれないし、全員が俺を陥れようとしている可能性もある。


なんせ、女は二人、抱き合うようにして、黙っているが、怪し過ぎる。


それこそ初対面であって、手を取り合えるものなのか?


「なぁ? みんなはもう自己紹介みたいな事をしたのか? 俺はみんなの名前も知らないんだけど・・・・・・良かったら、自己紹介してもらえるかな? もう知ってると思うけど、俺は神場 大地(しんば だいち)」


もし、本当に、ここにいるみんなが、俺と同じで、何者かによって、ここに連れて来られたのであれば、何らかの共通点があるかもしれない。


ここに集められた理由みたいなものが——。


「そうだね、もう1人現れるまでの間、ここに只いるだけなのは、いろいろと嫌な方向へ考えが行くだけかもしれないし、自己紹介でもして、気を紛らわせよう。そうだ、名前だけじゃなくて、年齢とか趣味とか、いろいろ話そうよ」


メガネは、その場の雰囲気を明るくしたいが為に、そんな事を言っているように思えるが、もしかしたら、コイツも俺と同じように共通点を探そうとしているのかもしれない。


「じゃあ、俺からもう一度、自己紹介するよ。神場 大地。ついこの間、高校を卒業して、就職が決まってる。来月から社会人。趣味は・・・・・・コーヒーショップ巡りかな」


「コーヒー好きなの?」


メガネが明るく尋ねて来る。


「あぁ、まぁ、うん、だからカフェで働くんだ」


「へぇ! 自分が好きなものを職にできるなんていいね! 実は僕も来月から社会人なんだ、神場君と同じで高校を、ついこの間、卒業した。ていうか、多分、ここにいるみんな、そうだよね、だって、みんなに同じハガキが届いたって事は、卒業旅行に行くつもりだったんだろ?」


メガネはそう言いながら、


「あ、名前は日野 陽太。(ひの ようた) よろしくね」


と、笑顔を見せる。そして次は誰?と言う風に、皆を見る。


おかしな話だ、年齢とかいろいろと話そうと言ったのは、この日野自身なのに、皆の年齢が一緒だと自分で言い出す始末。


「オレの名前は帆村 瑠火。(ほむら るか) オレも就職組で、オヤジの後を継ぐ。只のラーメン屋だけど」


ピアスの男がそう言った後、直ぐに小太りが、


「ぼ、ぼくの名前は大畑 金太(おおはた きんた)で、ぼ、ぼくも働くんだ、おばあちゃんの家に住んで、おばあちゃんと一緒に畑をやるんだ、キャベツ畑」


そう言った。


次は女の子達の番だが——。


「・・・・・・私は美容師の見習いになるの、名前は葉山 美樹(はやま みき)」


チュニックの子がそう言うと、髪のショートの子が、


「みんな働くのね、私は大学へ行くの。やりたい事とか、わからなくて。とりあえず大学へ行って、楽しく過ごしたい! 目一杯、楽しみたい!」


そう言った。


「親の金だろ? 最悪」


ピアス・・・・・・いや、帆村が唾を吐き捨てるように、そう言った。


「親の金よ、親の金だけど、親はお金を出してくれる存在。そうなんじゃないの?」


ショートの女が、そう言って、皆を見回すが、誰も返事をしない。


「・・・・・・どうやら意見が違うのは、お前だけみたいだな」


帆村が勝ち誇るように言うが、ショートの女は、


「別にいいけど」


と、どうでも良さそう。そして、


「三上 華月(みかみ かづき)。趣味は食べ歩き」


そう言った。


「三上さんって、もしかして、お金持ちのお嬢様?」


葉山が尋ねる。


「え?」


「あ、だって、その着てる服、ブランドだよね? 確かシャツ一枚が万単位のブランドだって聞いた事があるの、私のなんて2000円しないよ」


葉山がそう言うので、俺はびっくりする。


三上の格好は、スポーツカジュアルで、特に高そうなイメージがなかった。


寧ろ、葉山の格好のチュニック姿の方が、高そうに思えた。


「金持ちのお嬢様か、成る程な、甘やかされた嫌な女って感じだぜ」


帆村がそんな事を言うから、


「それって僻み? 一杯500円程度のラーメン屋にはハードル高いだけよ!」


と、三上の口調がキツい。


「500円ってなんだよ! お前に関係ねぇだろ!」


帆村まで女相手に大声を出し始める。


「ええ、関係ないわよ、私がどんな服を着ててもね!」


「ああ、関係ねぇな、テメェの生き方が間違っててもなぁ!」


「はぁ!? じゃあ、あなたはどんな正しい生き方な訳? 聞くけど、本当にラーメン屋なんてやりたいの? それがやりたい事なの? 親がケーキ屋なら、あなたはそれでもラーメン屋になろうとした? 何を親に遠慮してるの? 誰かに遠慮して、自分を失う事が間違ってない生き方な訳!?」


「うるせぇ!! 遠慮なんてしてねぇ!! テメェこそ、どんな育ちしてやがんだ!」


「もうやめようよ、育った環境の事でもめるのは」


日野が、三上と帆村の言い合いを止めた。


俺は壁に打たれている藁人形を見上げ、


「じゃあ、この川瀬 水花(かわせ みか)って奴が、いないんだな」


そう言った。


「悲鳴は誰だったの? 悲鳴を聞いて、俺はここへ来たんだけど」


「私よ、最初にここに来て、藁人形に驚いて悲鳴をあげたの」


三上がそう言って、俺を見る。俺はふーんと頷く。


共通点は見当たらない。


特に三上 華月は、この中では異色だ。


見た目なら、帆村 瑠火の方が異色だが——。


「みんな、それぞれ、この近くの部屋の中にいたの? やっぱり悲鳴でここへ?」


皆、頷く。


「ぼ、ぼくは、悲鳴で目が覚めたんだ、だから、み、みんなより一足遅かったよ」


その割りに俺より早くここへ来ていたな。


つまり大畑は悲鳴で目が覚め、少し考えた後に、ドアを開けたと言う事か?


三上は目覚めるのが誰よりも早かったのか、部屋を出て、ここに一人で来て、藁人形を見つけ、悲鳴を上げた——。


日野、帆村、葉山は、悲鳴を聞いて、部屋から飛び出した。


そういう事か・・・・・・。


俺は慎重になっていたから、一番、遅かった・・・・・・。


いや、一番、遅いのは、まだ来ていない川瀬と言う奴か。


悲鳴にも反応しないって、まさか、まだ寝ているのか?


「この川瀬 水花って人も、この近くの部屋にいるのかな、とりあえず、このローカにあるドアだけでも全部開けてみる?」


日野が、俺の考えでも察したかのように、そう言った。


「ここで待とうって言ったのは、お前だろ?」


帆村が面倒そうに言う。


「そうだけど、ここから真っ直ぐに伸びているローカをウロウロするんだし、川瀬 水花って人がここに現れても、僕達の存在に直ぐに気がつくでしょ?」


「あ、そ。じゃ、勝手にどうぞ」


帆村は本当に面倒そうに言う。


日野が俺を見て、どうする?と言いたげにメガネを中指であげた。


「・・・・・・じゃあ、ここに残りたい奴は残って——」


部屋を確認に行く奴は行こうかと言おうとした瞬間、


「単独行動や別行動はなしだよ! みんな一緒に動くんだ! 誰一人欠けちゃダメだ!」


と、突然、大畑が叫んだ。


皆、驚いて大畑を見る。


そりゃそうだ、さっきから、オドオドとどもってばかりいた大畑が、突然、大きな声を出して、ハッキリと自分の意見を発言。


俺だって驚く。


「あ・・・・・・そ、その、だって、もし、残った誰かに何かあったら、どうするのかなって・・・・・・か、川瀬さんって人を探しに行くとしても、行った誰かに何かあったら嫌だから・・・・・・行くなら・・・・・・みんなで・・・・・・残るのもみんなで——」


「おい、チビデブ、テメェ、何企んでやがる?」


帆村がそう言うのもわかる。


「た、企んでなんかいないよ! 只——」


只——、その後の言葉を吐き出せずに俯く大畑。


イラッとしたのは帆村。


大畑にツカツカ近寄り、大畑の胸倉を掴み上げる。


「やめろよ」


最初にここに来た瞬間に、大畑の胸倉を掴んだ俺が止めるのも、なんだか、おかしいが、とりあえず、大畑の胸倉を掴んでいる帆村の手を下ろさせた。


「何を企んでいるのか、そう思うのも無理ないけど、みんな一緒の行動をした方がいいって思うのもわかるよ」


「あぁ!? テメェも何か企んでんのか!?」


「そうじゃなくて、映画とか小説とか漫画やゲームで、知らない場所に誰かに連れて来られるって言うような、ありがちなストーリーなんだよ、今の俺達のシチュエーションは。だから、こういう場合、みんなで行動した方がいいと思うんだ。誰か欠けたら、その誰かが危険な目に合う可能性がある。勿論、それはフィクションの世界だけの話だけど——」


「くだんねぇ事言ってんじゃねぇよ、危険な目ってなんだよ」


「もう充分、危険な目に合ってるだろ? 気がついたらこんな場所にいて、俺達の名前が書かれた藁人形がある。それだけで充分ホラーだ。まず日常生活では起こらない出来事だろ? チビデ・・・・・・ウンッン!」


チビデブと言おうとして、それはマズイなと思い、咳払いをする。


「大畑は多分・・・・・・凄く慎重なんじゃないかな。本当は悲鳴を聞いて目が覚めたなんて嘘で、悲鳴を聞いて直ぐにはドアを開けれなかった。だから4人より少し遅れて、ここに着いた。何故、そんなに慎重になるか。やっぱりオタクなんじゃないかな、だから帆村にオタクと言われた時は図星だったせいもあって、否定してしまった。それに大畑がオタクと言われた原因となる台詞。『ひとつひとつ、目の前にある事を解決していくべき』そう言ったろ? それってゲームの基本だよね?」


「ちょっと待てコラ。そんなもん勝手な憶測だろ」


「だから多分って言ったろ、だけど帆村だって、そう感じたんだろ?」


「あぁ!?」


「言ってたじゃないか、大畑に。『お前の意見からしてゲームオタクだと感じたんだ』って。つまり、大畑は誰から見ても、直ぐにオタクだと感じれる要素があるって事」


「だからなんだ!?」


「だから大畑の意見はわかるって言いたいんだよ、みんなで行動した方がいいんじゃないかって。俺も・・・・・・大畑以上に慎重になってるから——」


俺がそう言った事で、帆村は納得したのか、それとも納得はしないが、これ以上の反論は面倒だと思ったのか、舌打ちはしたものの、何も言い返して来る事はなく、皆も黙ったまま、俺を見ている。


とりあえず大畑がオタクだと言うのは当たりだったのか、大畑からの反論はない。


「じゃあ、ここで待つのか、後一人を探しに行ってみるのか決めようか」


沈黙を破ったのは日野。


「探しに行くって言っても、このローカの並ぶ部屋だけよね?」


不安そうに聞いたのは葉山。


三上とは見た目が本当に対照的で、足元でさえ違う。


スニーカーを履いている三上と、ヒールっぽい靴を履いている葉山。


だが、三上の安そうなスニーカーもブランドものだったりするのだろうか——?


——あれ?


——三上のスニーカー、やけに汚いな。


——って俺もか。


自分の靴を見て、大差ないと溜息。


「どうせ探しに行くんだったら、もう、あちこち行こうぜ? そしたらその内、出口だって見つかるだろうし。行動に慎重になればいいじゃん、こんな所でいつまでも考えても何もわかんねぇだろ」


帆村がそう言うと、


「賛成。どうせなら探検しながら行きましょ。それにまだ日が明るい内に帰りたいし。暗くなってからの行動は怖いし、危ないし、助けは誰も来ないんだから、行動は明るい内よ」


女の子の癖に勇敢な意見を言う三上。


確かに助けは誰も来ない。


その通りだ、俺達は卒業旅行に来たんだ、親も承知だ、帰らなくても当分は心配されない。


それに暗くなってからの行動は危ないだろう、ここは帆村の意見の通り、出口も探した方がいいか——。


「とりあえず、じゃあ、行こうか」


日野がそう言って歩き出す。


日野の後ろを帆村が、そして大畑が。


俺は女二人を見ると、三上と葉山はお互い顔を見合わせ、一緒に歩いていく。


みんなの背を見ながら、俺が最後。


歩く度に、古いフローリングがギギギッと軋む。


ここは古い寮か、何かなのか、ローカの壁も古く脆そうで、火の用心などという一昔前のポスターも貼られている。


あちこちにシミがあるのも不気味で、窓全てに格子があるのも気味が悪い。


俺が倒れていた部屋を含め、どの部屋も似たり寄ったりで、この個室と、部屋数を見る限り、やはり寮だと考えた方がいいかもしれない。


結局、俺達の共通点らしきものは、今の所、何一つない。


だが、川瀬 水花と言う人物を含めたら、パズルは完成するのかもしれない。


その時、何の為にこんな所に連れて来られたのか、誰がこんな事を仕組んだのか、明らかになるのかもしれない。


この薄気味悪い場所もどこなのか、わかるかもしれない。


——全ては、『かもしれない』と言う確信のないもの。


「誰もいなかったね」


ローカの部屋を全て確認した日野がそう言って、皆を見る。


——誰もいなかった?


——なら、川瀬 水花と言う藁人形は誰なんだ?


——ソイツが俺達をここへ招いた張本人なのか?

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