第6話 エピソード1 麗の部屋

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6月10日(土)13時00分


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 この一週間は日曜日に駅前でドローンに襲撃された男のニュースで持ち切りだった。結局、男は病院に搬送されたが手の施しようもないまま命を落としたらしい。

 ニュースでは犯人の手口やら当時の駅前の状況について、やたらと専門家が解説したり、うんちくを語ってくれる。


 そして一方で、また被害者の人物像が段々わかってきた。殺害された男はその場に居合わせた一般人男性ということでもなかったらしい。少し前から話題だった強盗殺人事件の犯人だったようだ。一人暮らしだった被害者の自宅を調べたところ家から出て来た凶器から殺人犯と特定できたようだ。


 そうなるとただの無差別な殺人事件ではないことになる。誰かが目的をもって、狙いを定めて、たった一人の人物を仕留めたことになる。

 ドローン殺人の犯人は強盗殺人の犯人を狙って殺害したことになる。警察も捜査中だった未解決の強盗殺人事件の犯人をだ。


 いろいろな報道で何か『世直し』的な犯人のようにいう人もいたが、一方でいよいよ『何者だ』という話が出てくる。

 まだ、誰も犯人に辿り着いていなかった強盗殺人事件の犯人を特定してドローンの技術を駆使してその犯人を仕留めた。


 休日の駅前という雑踏のなか白昼堂々と殺人劇を行った。そして、まだそのドローンの犯人の方はまったく手掛かりがない。


 なんと不自然なことに、ドローンが、どこから飛んで来たのか、そして、どこへ飛んで行ったのか、あの大勢の人が行き交う駅前という場所で、その行方を誰も知らないのだ。


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6月10日(土)14時00分


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 麗は自分の部屋で一人で動画を見ていた。


 前回のオンラインゲームの様子を見てみる。動画は主催側が宣伝の意味も含めて作ってあるので、いろいろなチームの戦闘シーンが編集されているようだった。


 ゲームの序盤はたくさんの参加者が入り乱れて戦っている感じだ。ある程度落ち着いてきたとき、三人全員が生き残っているチームは少ない。もちろんゲームの性格から一人になったから不利ということでもないように見えた。


 個人個人の技術はまばらで生き残った者が圧倒的にレベルが高いという感じでもなかった。運もあるということだ。


 しかし、そうは言っても最後に残った二チームは三人とも生き残っていた。そして最後の二チームの対戦は両チームともチームワークを生かした戦いだったと言える。

最後に負けた方のチームも相手が悪かっただけで、他のチームが対戦相手なら完全な勝利を収めていたのではないかと思った。


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 麗は何か違和感を感じた『なんだろう?』もう一度二倍速で見てみた。ゲーム中盤の戦闘シーンでも、最後まで生き残り敗れたチームが健闘している映像がたくさんある。一体、何機撃ち落としたんだろう……


 それに対して最後に勝ち残ったチームはどこにいた? まったく映像がなく最後の二チームの対戦になったときいきなり現れた。


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 麗は天井を見上げながら『優勝チームの映像がないのは編集のせいかな……』と思った『でも、編集はゲームが終わってからするだろう、優勝者たちの軌跡を追いたくないかな……優勝者たちの戦闘シーンを残したくないかな……だとすると、やはり残ってないんだ。彼らの映像が、残ってないんだ……』


 基本的にそのチームの映像は他チームの戦闘機からの目線映像になる。


 つまり、ゲーム中、優勝者たちは誰からも見られてないのだ。最後の敵と対戦する瞬間まで誰の目にも映っていないのだ。


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