第4話 出会い

 小咲崇こさきたかしは父親の転勤で最近関西から東京に引っ越してきたばかりだった。父親、母親と崇の三人で引っ越してきた。家は最近まで親戚が住んでいた家が空いているということでそこに住むことになった。


 崇には兄のひろしがいるのだが、浩は関西の名門進学校に通っているということで、そこを辞めて転校するのもどうか……という話になり、関西の叔母の家に下宿する形で一人関西に残ることになった。


 崇は関西に住んでいたとき関西では有名な進学塾に通っていた。成績も結構良かったこともあって兄と同じ中学校の受験を考えていた。しかし急に東京に来ることになり、仲の良かった友達とも離れ何か面白くない毎日を送っていた。

 そんな面白くない毎日ながら、東京でも、また有名進学塾に通うことになった。


 崇の趣味はオンラインゲームだった。これならどこにいても友達とつながっていられる。関西にいたときからオンラインゲームに熱中していた。勉強のかたわらゲームもする。

 これに関しては両親もやめさせようという感じではなく、時間を決めて寛容にやらせてくれた。そういう方針が良かったのか勉強も集中力を持って続けられ、よい成績につながっていた。


 そのオンラインゲームの世界で知り合った友達サトルとカガミと一緒に今回のゲームに参加することにした。オンラインの友達はオンラインの中だけの友達だった。小学生の崇にとって遠くに住んでいる友達だったら会いに行くこともできない。

 なので必要以上に素性を聞くこともなかったし、顔も本名も知らない。


 それでも、前回のオンラインゲーム第一ステージで崇たちは一位を獲得した。学校や塾でもこのゲームのことは話題になっていた。

 そして今日、第二ステージの日時と概要が発表された。


◇◇◇◇◇◇


日時 6月10日(土)21時00分

ゲームの方式

ゲーム開始から十五分間参加者同士で戦う。

そして十五分後に残っている者でステージの最後の敵を倒しに行く。

倒した者に三〇ポイントが与えられる。


◇◇◇◇◇◇


 崇はゲームの日程と内容を確認した。

『土曜日の夜の九時か……』

その日は塾はない。


『他の友達はどうだろう……』


 早速、サトルとカガミに連絡を取ってみた。

タカシ「次のゲームはどう? 参加できそう?」

サトル「できるよ」

カガミ「できる」

タカシ「じゃあ頑張ろうね」

サトル「OK。今度は夜だね」

カガミ「夜間飛行ね。頑張ろう」


 また三人で参加できる。しかし今回は前回と違い、他の参加者も三人に注目しているだろう。

 他の参加者から名前を知られている。それだけでも狙われやすい気がする。登録した名前は大会の途中で変更できないことになっていた。


『夜間飛行か……』


◇◇◇◇◇◇


 次の日は、この塾に通い始めて、初めて受けた模試の結果が返ってくることになっていた。この結果でクラス替えがあるらしい。この塾で最優秀クラスの生徒たちは『神』とよばれ、他のクラスの生徒たちは休み時間でも、そのクラスに近づくこともはばかられるらしい。

 なんだか、ばかばかしい話だと崇は思った。


 塾の建物に入ると同じクラスの生徒たちが奇異の目で崇を見る『何だろう?』崇が教室のいつもの席に座って授業が始まるのを待っていると、周りの生徒たちがコソコソと話しているのが耳に入った、


「あの人が小咲君よ……」

「すごいね……」


『何だろう?』


そのとき少し仲良くなった小島という生徒が崇のところにやってきた。


「小咲君すごいなあ」

「なんのこと?」

「え、模試のランキング見てないの?」


『どこかに貼り出されているか……』


「ごめん見てないな」

「小咲君二位だよ」

「え!」

「びっくりしたよ。頭いいんだね」


『二位? 一位じゃないのか?』


仮にも関西ナンバーワンと言われる名門進学塾で先頭集団を走っていた崇だった『東京のやつらに負けるか!』と思っていた。


「二位なんだ……」

「自分でも驚いた?」

「いや、一位はどんな生徒?」

「え? 一位はいつも同じ子だよ。おれたち同じ塾でも、いまだに会ったこともないけど、寧々ねねさんって子だよ」


「女の子?」

「うん『神』だよ」

「そうなんだ。いつも、その子が一位なんだ」


そんな話をしていると先生が崇のところにやって来た。


「小咲君すごいな。今日から早速一番上のクラスに入ってもらうよ」


そう言われて上の階の教室に案内された。


◇◇◇◇◇◇


 そこは今まで崇がいたクラスとは打って変わって静かなクラスだった。


「小咲君、このクラスはクラスの席も成績で決まってるんだ。君はここの席ね」


最前列の中央の席を案内された。


 ふと隣を見ると、色の白い小柄で華奢な女子が座って文庫本を読んでいる。前髪をそろえ肩までの髪、その子は見た目も綺麗で物静かな女子だった。


 読んでいる文庫本の表紙が目に入った。

 サン・テグジュペリ『夜間飛行』。


 崇が席に座ると、その子は崇の方を見て微笑んだ。ドキッとした。


「よろしく」

その子の方から挨拶してきたことに少し驚いた。


「あ、ああ……え、と、小咲、小咲崇って言います」

『なんで緊張してるんだ……』心なしか顔が熱い気がした。


 その子はクスッと微笑みながら、

「私、鏡寧々かがみねねです。よろしく」

「ああ、かがみさん」

寧々ねねでいいですよ。学校の友達はみんなそう呼ぶんで……」


「じゃあ、寧々ねねさん」

「?」という表情で首をかしげる寧々ねね


寧々ねねちゃん」

うなず寧々ねね


「崇君ね。勉強、頑張りましょうね」


◇◇◇◇◇◇

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