第1話 世界の見え方が変わった日

 れい京介きょうすけは駅の近くにあるイタリア料理の店に入った。先程目の前で起こったことは、あまりに突然の出来事で何か現実味が感じられなかった。


 たくさんの人がいる駅前広場、突然、目の前にドローンが現れたかと思うと一人の人間が狙撃された。撃たれた人はその場に倒れ、血を流して救急車で運ばれて行った。ピストルか何かのようなもので頭を撃たれたのだ。おそらく助からないだろう。


「大丈夫?」

京介が心配そうに麗の顔を覗き込む。


「うん。大丈夫だよ」


「そう。よかった」


「でも、ちょっと、食欲はないな」


「そうだよね。僕も食欲ないや。何か飲み物でも頼む?」


「そうね」


「トラウマにならない? 今日のこと」


「どうだろう。でも今のところ、あまりに突然すぎて、それほどではないかも」


 京介はいろいろ麗のことを心配してくれる。しかし、今はあまり先程の事件について触れて欲しくなかった。

 その日は飲み物を飲みながら少し話をした後、駅まで送ってもらい帰ることにした。


「ごめんね。やっぱりショックだったんだと思う。でも、たぶん明日になれば大丈夫だと思うから……だから、今日はごめんね」


「家まで送らなくても大丈夫?」


「うん、大丈夫……ねえ」


「ん?」


「あの人……撃たれた人」


「……」


「あの人が狙われていたのかな?」


「え?」

京介は麗の言いたいことがよくわからなかった。


「いや、どこから操縦してたのか知らないけど、ドローンで飛んできて銃撃するって、すごく高度な暗殺じゃない? そんなことができるほどすごいスナイパーがいるのかなって……」


「……」


「ごめん。私どうかしてるね。混乱してるのかも……じゃあね。今日はありがとう」


 京介が駅の改札まで送ってくれた。夜また連絡を取る約束をして別れた。麗は電車が来るまで駅のホームから見える街の風景を眺めていた。


『あのドローン、どこから飛んで来たんだろう? 気が付いたときには、私たちの頭の上にいた。今日は気が付いた。しかし、気が付く前に狙撃されていたかもしれない。そうだ、今、この瞬間も自分が狙われているかもしれない』


そう考えると恐ろしい。今日あんなことが起きなければ考えたこともないことだった。


◇◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る