第57話 働く理由
まずは休ませることが大事だと判断した僕はドワーフ達をひたすらに休ませることにした。獲得した3日間の猶予の間に八咫やアイザ、ジーモンと相談して今後のことを相談した。
「ジーモン、市長として、社長としてガルガルを率いていくことに異論はないな?」
「仰せのままに。私を助け出してくださった時から、私の命は王の物です」
「そんな硬い対応はいいよ。出会った時と同じでいいから」
「そう、か……あんたがそう言うなら。じゃあ、これからもよろしく頼む、我が王よ」
王と呼ばれることにもだいぶ慣れてきた。慣れてはきたが自覚はない。僕はあくまでも皆の為に動いているだけだった。目の前の人達のことや問題について、良くも悪くも外の人間である僕が上手く立ち回れるから立ち回っただけだ。
さて、これから僕達はこのガルガルという職場環境を立て直さなければならない。でないと気持ち良く次の層に向かうというのはできないし。
しかしそうするにはあまりに僕達はガルガルという場所を知らな過ぎた。3日間の休息の間に僕は暇を見てはジーモンにガルガルのことを教えてもらっていた。
「ここ、ガルガルは9つの層で作られた階層都市だ。層を下るにつれて78層、77層とダンジョンとしての層は上がっていく」
「下に登っていくのか……不思議だな」
下に進むにつれて民度も悪くなっていくという話だが、一番上の層であるここですらこんなブラック会社になっている有様だ。正直、どうなっているか想像もつかない。
そもそも、この階層都市がそういう形で機能しているのか。なぜドワーフ達はあのような過酷な労働を強いられていたのか……それはやはりというか、当たり前といえば当たり前の話、採掘が原因だった。
「このガルガルを抱える黒き大山、【
「埋まる? 崩落とか、そういう話か?」
「いや、違う。復元するんだよ。これを【時返し】という」
時が巻き戻る不思議な山。それが黒刻大山脈らしい。ガルガルが正常に機能していた頃は時返しが行われてから11ヶ月は通常の労働が行われる。時返しが発生する12ヶ月目。その月は事故の発生もありえるので一切の入山を禁じられる。そして月の最後の日、時返しの日は安全を願って盛大にお祝いをするのだそうだ。
そういった歴史ある山をめちゃくちゃにしていたのがドブルだ。今は、前回の時返しから数えて12ヶ月目。一番危険な時期だ。採掘も進み、坑道は深くなっているし、崩落や遭難が遭った際、時返しに巻き込まれる可能性もある。そうなった時、人体にどんな影響が出るか分からない。年齢が若返るのか、それとも復元された岩石に埋まって死ぬか。だから一切の入山を禁じているのだ。
「それにドブルの支配によって11ヶ月間、異常なまでに働かされていた。通常の採掘工程よりも深く掘り進んでいる。だから鉱物の収穫数も落ちている。つまり利益も落ちる。それに焦ったドブルが更に過酷な指示を出していたのだろうな」
その結果が、あの百鬼夜行だ。
「採掘者からの利益を全部巻き上げる為、私腹を肥やす為にドブルは俺を地下深くに閉じ込めた。表向きは俺の指示だと皆に言い聞かせ、自室に閉じ籠もって贅沢三昧だった……」
「そのドブルはもういない。今、休んでいる皆が正常な判断ができるようになったら僕から皆に伝えるよ」
「何も知らない皆からすれば俺は恨まれているだろうしな……助かる」
それからも色々とジーモンに聞いた後、日が傾いてきたのでジーモンを休ませて部屋を後にした。
「八咫の回復魔法である程度の元気は取り戻せているようではあるけど、流石に喋り疲れたかな」
「残り1日。やれることをやるしかないな」
明日の休息日が終われば慌ただしくなるだろう。その為にも知識を蓄え、計画をしっかりと実行しなければならない。
「しかし……ドワーフ達はそんなに採掘してどうするんだ?」
「どう、とは?」
「だってさ、採掘するってことは利益を得る為にしてるんだろ? その報酬は誰が出して、得た報酬は何に使うんだ? こんな閉鎖的な環境で」
「それはだな……」
宿への帰り道、八咫はドワーフ達が働く仕組みを教えてくれた。
このダンジョンに限らず、ダンジョンにはシステムというものが存在しているのはリスナー諸君もご存知だろう。そのシステムが悪い方向に働いた結果、
しかし、元々システムというのは理性あるモンスター達が生きていく上で必要なものだ。彼等には彼等の生き方があるが、それをサポートするのがシステムという機能だ。
「ドワーフ達が採掘し、加工することでアイテムが生まれる。それをシステムが回収することでダンジョンで発生する宝箱や、ドロップアイテムになるんだ」
「あれってドワーフが作っていたのか!?」
「ドワーフとは限らない。生産職のモンスターはドワーフだけではないからな」
「私達も弓や矢、衣服を作ったりしていました」
アイザもそういったシステムへのアイテム提供をしていたらしい。なるほど、狩りや生産で生計を立てていたのか……。
「それで、システムにアイテムを提供すると何を得るんだ?」
「各層で出回っている通貨や食料、自分の強化……つまり、力。そういった様々なものだな。アイテムポイントを貯めればもっと良い物と交換もできる」
「ポイント制なのかよ……いいな、普通に羨ましい」
そういったアイテムポイントを、ドブルは奪っていたということか……。本当に許せない奴だ。
「衣食住をしっかり機能させれば生活はちゃんとできるはずだ。採掘はどうせ時戻しが発生するからできない。これからしばらくはドワーフ達に交代制で食と住を満たしてもらおう」
まずは過酷な環境で壊れた体を元に戻さないといけない。その為に必要なのは十分な休息と栄養。心身ともに健康でないと働くなんて無理な話だ。
「おーーーい、しょうちゃーーん!」
空を巨大な鳥、ラストハルピュイアが旋回する。町の広場に降り立ったヴァネッサは人型に戻り、身に付けていたレッグポーチを僕へ返した。
「いっぱい取れたぞ!」
「ありがとう、めちゃくちゃ助かるよ」
「ふふん! いつでも私様に言え!」
ヴァネッサには黒刻大山脈に住むモンスターを狩ってもらっていた。80番台に棲む彼女の力なら70番台のモンスターなんて赤子の手を捻るようなものだ。そうして狩ったモンスターからドロップした肉や野菜を大量に僕が渡したレッグポーチに詰め込んでもらった。
「これだけあれば暫くはドワーフ達の食料にも困らないだろう」
「八咫の提案のお陰だよ。ありがとう」
「ヴァネッサの頭では話についていけないだろうから追い出しただけだ」
とか言っているけれど、適材適所という言葉もある。八咫の提案のお陰でヴァネッサを上手く動かすことができたのは事実だし、ここは素直に感謝だった。
「僕達にできるのはドワーフ達を元気にすることだ。あろはジーモンが上手くやってくれるはずだ。それまで皆で頑張ろう」
互いに頷き合う。いつの間にか宿の前についていたので、僕達はそれぞれの部屋へと戻っていった。
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