第31話 カオスオーク侵略前線基地
腕を伸ばし、後続するジェスタ達の動きを止める。
「あれだな」
目の前に先端を尖らせた丸太の柵が出来上がっていた。それもかなり広い範囲を覆っているようだ。そのどれもが焼け落ちた森には似合わない綺麗な木だった。
見たところ、ヴィザルエンティアラ周辺に残った紫黒大森林の木と同じ種類だ……こいつら、必要な分だけ切り倒し、残りを燃やしたな。
腸が煮えくり返る。どうにかそれを息を吐ききることで耐える。
「分散して他のカオスオークに見つからないように1匹ずつ始末しろ」
「ハッ」
「よし、行くぞ」
散開してそれぞれが全方位から策を乗り越え、侵入していく。見上げると空を小さな黒い点が円を描く様に動いていた。八咫はちゃんと見てくれている。僕も安心して作戦に移れる。
『見てないで早く行け』
「わーかってるよ……」
無駄にテレパシーを送ってくる八咫に口答えをしながら、僕も策を乗り越え、侵入する。
【禍津世界樹の洞 第93層 カオスオーク侵略前線基地】
柵内は造りの荒い小屋が幾つも乱立していた。小さい村かってくらいだ。しかも密度が適当だから通りらしい通りもなく、下手したらその辺の集落よりも密集しているから人口も多いかもしれない。だがドアも何もないただの掘っ立て小屋だ。オーク製と言われればなるほど、納得できた。
その癖、防壁はしっかりしているのが戦闘特化な種族であることが伺える。とりあえず一番近い小屋へ入る。
「グォォォォ……グォォォォ……」
「グカカ……」
2体のカオスオークが床の上で大いびきを掻いて眠っている。近くには食い散らかされた動物か何かの骨が散らかり、酷い有様だ。
オークの姿も異様だった。黒い体に赤い血管のような模様が浮き上がり、脈打っている。額から始まり、側頭部、後頭部と頭を一周するように短く鋭い角が生えていたのも他のオークには無さそうな特徴だ。
まるで雑な王冠のようだった。
僕はスクナヒコナを抜き、眠るカオスオークの首へストン、と下ろす。万物を切り裂くかのような切れ味の王剣は何の抵抗もなく首を寸断する。
突然神経を切断されてビクビクと跳ねまわりながら血を噴く死体から離れ、隣のカオスオークも同様に始末する。
「こりゃあ急がないと始末しきれないぞ……」
急いで飛び出し、隣の小屋で寝転がるカオスオークを始末し、次の小屋へ。
それを何度も繰り返しているうちにあることに気付いた。
「こいつら寝過ぎだろ……」
どうもおかしい。僕がこの階層に来てから襲撃もなかったし、こっちから出向いてやったらこの様だ。
何で寝てる……体力が減っているのか? それとも、何かの影響か?
理由は分からないがこれはチャンスだ。他のダークエルフ達も異変には気付いているだろうが、失敗しなければ簡単な作業だ。
だが、こういう時に限って……いや、こういう時だからこそ、問題というのは起きるものなのだろう。
『1人がミスをした。起きたカオスオークと戦闘している』
「場所は? ってこれ、聞こえてるのか?」
『聞こえている。場所はそこから南西の方角だ。急げよ、王様』
「ありがとう!」
小屋を飛び出した僕は八咫の指示された方向へ走った。靴の力もフルで使って走った。靴で強化された速度と脚力があれば小屋も飛び越せる。
まるで忍者だな……なんて頭の片隅で思いながら目を凝らして異変を探す。八咫の加護を受けた目はこの速度でもちゃんと状況を把握できた。新幹線の中で窓のすぐ外を見るような景色でも、ちゃんと何かを把握できた。
「……あそこか!」
砂煙が舞っている場所が見えた。小屋から飛び出したイラ族のエルフが地面に転がり、馬乗りになったカオスオークの攻撃を剣で防いでいた。剣が折れたら終わりだ。
走りながら、目測で射程を計り、急停止。足に力を込め、弾丸のように飛び出す。走るよりも速く地面と平行に飛び、体を捻って勢いのままにカオスオークの首を刎ね飛ばした。
足を振った動きで再び体を捻って姿勢を戻して地面を滑りながら着地した。襲われていたダークエルフは無事のようだ。カオスオークの死体の下から這い出て地面に座っていた。
「立てるか?」
「は、はい……なんとか」
「何があったんだ?」
手を貸し、引っ張って立たせるとダークエルフは自分が侵入した小屋へ振り返った。
「今まで寝てたはずのカオスオークが急に起き出して……1体は殺したのですが、もう1体に反撃されて」
「急に起き出したのか?」
「はい。何かに弾かれたかのように起き上がりました」
これは……もしかしたら危ないかもしれない。
『将三郎。どうやらカオスオーク共は疲弊した魔力を回復する為に寝ていたようだ。どんどん起き始めているぞ』
「まずい、基地内のオーク達が起き始めたらしい。すぐに撤退だ!」
「はいっ!」
撤退の合図の為に貰っていた小型の爆薬に魔力を込める。これは魔力石が核になっていて、過剰な魔力が込められると破裂する仕組みらしい。
それを空に向かって蹴り上げる。靴の力は魔力が元だから、蹴りの際に注入されるはずだし、これでいいと思うのだが……。
と、少し待つと空中で爆発が起きて紫色の煙幕が広がった。あれ程分かりやすい合図はないな。
「八咫、逃げ遅れた者がいないか確認してくれ」
『皆お前よりも上手く逃げている。早く脱出しないと魔法が来るぞ』
「早すぎるって……!」
エミ達、気合い入ってるな……!
急いでその場を離れる。一番近い柵を乗り越えて焼野原を走っていると空気がピリつくのを感じた。
振り返ると同時に、カオスオークの前線基地に巨大な雷が突き刺さった。遅れて轟音が響く。続いて衝撃波が僕を吹っ飛ばした。
「おわあーーーー!」
情けない叫び声を上げながら炭と灰の上を転がされる。4回転くらいで落ち着いた僕が最初にしたのは周囲に僕を見てる人がいるかどうかの確認だった。
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