第18話 隠密部隊になります

 黒烏というのは別名である。本来の名前は金烏という。それは太陽に住む三本足の烏という伝説。それらは別々だそうだが、少なからず関係はあるらしい。


「……ってコメントがあったよ」

「私の影という意味も込めて作らせた部隊だ。黒烏は隠密部隊で、装備にはそれぞれ存在感を薄れさせる力がある。今の貴様にはぴったりだろう」

「確かに敵と出会うことすらやばいしな」


 聞けば黒烏部隊は闇に紛れるような、影と一体化するような姿をしているそうだ。はっきりとした姿が見えないというのはアドバンテージになるだろう。僕もどんな装備なのか興味がでてきた。


「しかし隠密か……」

「不満か?」

「いや、隠密ってーとほら、基本、音出せないじゃん?」

「まぁそうだな」

「それって配信的にどうなのっていう……」

「ふむ……」


 ストリーマーなんてのは喋ってなんぼだ。無言が続けばそれは配信事故って言われるくらいの世界なのだ。


「だが将三郎」

「なに?」

「貴様が喋ってリスナーが喜んだことがあるか?」

「……すぐには思い出せない」


 多分だけど人生で一番悔しかった瞬間だった。


「貴様にとっては弊害かもしれないが、この隠密部隊装備を選んだのには他にも理由がある」

「……というと?」

「隊の正式装備として仮面の着用が義務付けられているんだ。顔を覚えられないためにな」

「……もっと声出なくなるじゃん」


 万が一すれ違ったとしても、隊式の礼などを八咫に教えてもらえばなるほど、戦闘の機会は断然減るだろう。


 けどそれはストリーマーとしてあんまりじゃないか?


 確かに戦闘の機会を減らし、脱出するのは大事な目的だ。だがそれ以上に脱出した後に受け取る金銭的なものの為には配信映えというものも考えていかないといけないのだ。


「仮面をつけたら配信映えが狙えない。でもこの先生きて脱出する為には仮面はつけなければならない」

「道理だな」

「そうしなきゃいけない理由はわかる。だがこうしなければいけない原因はなんだと思う?」

「ふむ……」


 少し俯く様に八咫が考える。そして1分も……いや、30秒もしないうちにその原因を特定してみせた。


「貴様が弱いからじゃないか?」

「まさにその通り! 僕が弱いからこうしなきゃいけない。弱くなければ仮面なんて付けなくていいはずだ」

「それはそうだが、ならどうする? この深層で生き残る為の強さを一朝一夕で身に付けるのは簡単ではないぞ」


 それは今から考える。時間はたっぷりある。ぶっちゃけリスナーなんて放っておけばいい。見たい奴だけが見ればいい。強制はしていない。


「なんとか修行する。さっき少し素振りしてみたけど、何かこう、上手く言い表せないけれど、可能性みたいなのを感じたんだ」


 スクナヒコナを振った時に体の奥に何かを感じたような気がする。言葉にするのが難しいけれど、何だかちゃんとスクナヒコナが僕を見ているような、そんな気がしたのだ。


「強くなりたいのだな?」

「あぁ、なりたい。お前についていって脱出できればいいと思っていたけれど、ここのモンスターは練兵場なんかまで用意して強さを求めてるんだ。僕がこんなんじゃ駄目だ」

「貴様の思いの強さ、今後とも変わることはないな?」


 肩から降りた八咫が僕を見上げる。その黒い瞳をジッと見つめ返し、僕は力強く頷いた。


「ない!」

「よくぞ言った。ならば私が直接貴様を鍛えてやろう」


 八咫が答えた瞬間、紫炎が舞い上がる。無秩序に巻き上がる炎は徐々に紫炎の竜巻と形を変え、激しく燃え上がり、回転しながらだんだんと細くなっていく。

 けどそれはただ形が細くなっているのではなく、圧縮されているようだった。幅が狭くなる程に炎の回転は激しくなり、人間程の幅になり、一気に弾けて消えた。


 思わず炎から身を庇うように腕で顔を覆ってしまう。だが熱さは感じなかった。


 恐る恐る腕を下ろし、どうなったか確認する。


「ふっ、怖がり過ぎだ。そんなんじゃこれから身が持たないぞ」

「あ……え……?」


 炎が消え去った後には黒衣を身に纏い、顔の下半分をカラスのような黒い仮面で隠した人間が立っていた。


「八咫、なのか……?」

「あぁ、自己紹介が遅れたな」


 肩から垂れる長い黒髪を背に払い、腰に手を当てた八咫が黒い瞳を細めた。


灰霊宮殿アッシュパレスは最深層、深淵の玉座アビスクラウン管轄であり、灰燼兵団独立隠密部隊【黒烏】総指揮官、八咫烏だ。厳しく扱いてやるから覚悟しろよ、将三郎」

「な、なん……だと……」


 カラスが人になった……! もどして!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る