第17話 灰燼兵団
【禍津世界樹の洞 第97層
97層へとやってきた。庭園と同じようにここも灰色の建物だ。しかし八咫の部屋と同様の紫色の燭台が灯っていて良いアクセントになっていた。
等間隔に並ぶ燭台。その間にもまた、1枚ずつ扉が設置されていた。通路を挟んで両サイドに並ぶ様子はどこかホテルのような雰囲気を醸し出していた。
「油断するなよ。ここにウサギは出ない」
「何が出るんだ?」
「
ゴクリ、と気付けば僕は唾液を飲み込んでいた。この扉が一斉に開いて、鎧を身に纏った兵士が飛び出してくるのが容易に想像できる。
「な、何に気を付ければいい?」
「まず、物音に注意しろ。こちらがたてる音は最小限にし、あちらがたてる音には耳を澄ますのだ。きっちりと聞き取り、聞き分ければ大体の位置はわかる」
「無茶言うなよ……」
「FPSゲームとして考えればいい」
そう言われればそうなのだが、これは現実だ。ゲーム配信ではなく、ダンジョン配信なのだ。そう簡単に割り切った思考にはなれなかった。
いざという時の為にスクナヒコナの柄を意識しながら通路を歩く。
「ここは宿舎だ。道さえ間違わなければすぐに次の階層へ行ける」
「そりゃあ良かった……さっさと抜けよう」
「だがその前に練兵場へ向かう」
「寄り道なんてしてる暇ないだろ……!」
練兵場なんてそんな場所、兵士がいるに決まっている。何でわざわざそんな危険な場所に向かわなきゃいけないのかまったく理解できない。
「そこにいくつか防具があるはずだ。練習用だが、貴様がつけているその薄っぺらい防具よりも優秀だろう」
「それは魅力だが……分厚い鎧なんて着ても僕は動けないぞ」
「薄っぺらいというのは比喩だよ。練習用の鎧は手早く着脱可能で、尚且つ丈夫であることが求められる。その条件をクリアする方法は素材と制作方法と術式だ」
八咫の長ったらしい説明を分かりやすく訳すと、練兵場の鎧は僕が今身に付けている革製のものと殆ど変わらないのだが素材と製法が違うらしい。
僕が身に付けているのは胸部と腹部を覆うベストタイプのものだ。その上にちゃっちい鉄の鎧をベルトで締めて装備している。
防具と呼べるのはそれくらいだ。鉄製のブレストアーマーだって、最初の頃に不安だからと買い足したものだ。結局今日まで使うことはなかったが、それが無けりゃ革のベスト1着でダンジョンに潜っていたかもしれない。
そしてこれから八咫が取りに行くと言っている鎧は革ベストとは違って、胸の上部と肩を守るショルダーアーマーというものらしい。
これじゃあ胸も腹も丸出しじゃねぇかと、もちろん僕も抗議した。だが八咫はそれでいいと言って聞かなかった。
「他の装備で補うから問題ない」
「練兵場にはそんなに装備が転がってるのか?」
「ここは宿舎だ。色んなところに、色んな物があるだろう」
なんとこの神様は兵士から装備を盗むつもりだった。
しかし思い返してみると練兵場の防具を入手するのだって盗むのと同じだ。特定の持ち主がいない練習用だとしても、所有権はアッシュパレスの管理者になる。兵士の荷物だって、兵士のものだ。
「良くないって。怒らせたらどうなるか……」
「問題ない。何故ならアッシュパレスの管理者は、私なのだからな」
「あぁ……なるほどね」
それを言われて納得してしまった僕もおかしいが、こいつがそれを堂々と言ってるのが一番おかしかった。
【禍津世界樹の洞 第97層
そーっと聞き耳をたてる。音はしない。
ゆーっくりと入口から中の様子を伺う。誰もいない。
灰色の木でできた木人形が等間隔にならんでいるのを見ると、あれに剣やら槍やらを叩きつけて練習するようだ。そのどれもが、今は寂しく棒立ちしている。
「ふぅ……とりあえず見た感じは誰もいないな」
「よし、さっさと行くぞ」
誰にも見つからないように練兵場の奥にある倉庫へとダッシュする。できるだけ音を立てず、手早く移動する様はまさにコソ泥である。
八咫が先行して飛び、向かう先へと駆けつけ、そっと扉を開く。
「暗いな……」
「これでいいか?」
八咫が魔法で紫色の火の玉を浮かせる。
「ありがとう、助かるぜ」
「さっさと用を済ませるんだ。ある程度調整はできるが自分に合った物を見つけろ」
「おうとも。結構色んなサイズがあるな……新しそうなのはどれだ?」
防具立てに立て掛けられた物を手に取り、体に合わせてみる。良い感じのものをいくつか拝借し、レッグポーチに仕舞う。
「お、これも欲しい」
見つけたのは防具と同じ素材の篭手だ。隣には手袋も置いてある。手袋の指先は穴が開いてあり、短いながらも指部分は金属のプレートが縫い付けられていて丈夫そうだ。手の甲にもあるし。
篭手は前腕を覆っているので、この手袋と合わせればシナジーがでかい。デザインも同じ系統だし、これは合わせて持っていくしかないだろう。
「へっへっへ、いただきだぜ」
「完全に窃盗だな」
「それを言うなら窃盗団だ。僕にだけ罪を押し付けるなよ」
万が一壊れてしまった時用に同じようなのをいくつか頂戴しておいた。
とりあえず篭手と手袋だけは身に付けておいたが、これが思った以上に付け心地が良い。やっぱりいい素材を使ってるからだろうか。
「よし……次はどうするんだ?」
「もう一度宿舎に戻るが、装備の系統を統一させる必要がある」
「というと?」
肩に留まった八咫がまた説明してくれる。
「灰燼兵団にも色々な部隊がある。斥候や射手、防御、白兵……そういった部隊にはそれぞれ合った装備が存在する」
「なるほど。で、僕はどの部隊になりきればいいんだ?」
八咫がもし人間のような姿をしていたら、ニヤリと笑ってそうな、そんな声色で答える。
「将三郎……お前は今日から灰燼兵団隠密部隊【
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