2.国際連合より、終末に終わりの始まりを
今から1万年くらい前の大昔、世界ではいろんなことが起きた。
西暦1800年頃に10億人程だった人口は、産業革命とか経済やら医療の発展を機に、その後のたった200年ちょっとで80億人にまで増加した。
今じゃまるで作り話みたいなでたらめな数字だ。
開発や農業、林業は自然を少しずつ破壊して、野生生物は恐ろしいスピードで消滅し、化石燃料中心のエネルギー体制は急速に気候変化を引き起こした。
世界規模の大きなパンデミックや高齢化、災害などによって一時的に人口の増加が停滞・減少することもあったようだけど、長い目で見ればそれも一時的な事象に過ぎなかった。
それから膨大な時を経て、今日人類がこの星と一緒に終幕を迎える寸前の日常を生きているのは、人知の及ばない何かのせいというわけでは決してない。
ご先祖様どもは、こうしてゆっくり1万年をかけてこの星を破壊して、自分たちが引き起こした環境汚染とそれに伴う作物不足という二次災害はいつの間にか取り返しのつかない世界的な問題となり、それらを殺戮という名の奪い合いで一時的に獲得するしかなくなったのだ。
長きに渡る世界大戦はついに人類を絶滅寸前まで追いやった。
それももう現代では想像を絶するようなことだけれど、その時代にはもはや倫理や秩序、道徳なんてものはなかったのだろう。
そして俺たちが住む終末は出来上がっていったのだ。
しかし、これを一概に責めることはできないと俺は思う。
だって、俺たちにももう後世のことを考えて必死に、死に物狂いで何かを遺す余裕なんてないし、自分たちが今を生き抜くことで精一杯なのだから。
人に出来ることなんていうのは、結局いつの世も限られている。
それでも俺たちは生きている限り生きることを諦めることは出来ないから、ただ一つ手元に遺された科学を駆使するんだ。
環境汚染から身を守って生活する為に、居住可能区域は基本的に地域や都市ごとに人工ドームに覆われている。
汚染された空気を吸ってもすぐに人体に影響があるわけではないけれど、長期的に見ればもちろん健康に良くない。
現存している植物も放置すれば絶滅するほど減少してしまったことも相まって、そもそも必要な酸素量すら足りていない。
NECRC(自然環境保護研究センター)では大気生成プラント運用研究室の巨大プラントで人工的に大気を造っている。
そして俺が所属する自然再生研究室では、現存する植物の生態研究や様々な植物の生息できる条件や環境を研究し、遠い昔のように緑溢れる世界を取り戻していつかプラントがなくても充分な大気が得られる日常を取り戻そうと奮闘している。
いつか、終末が視界に入らない時代が来ることを信じているから。
・・・――――――――――――――――――
「緊急速報です。
国際人類保護連合より、宇宙移住計画の執行宣言がありました。
繰り返します、以前計画が発表されてから度々不可能に近いと言及されてきた、宇宙移住計画がついに執行宣言されました。計画は安全性を最優先で考慮し、極めて少人数で実行され、段階的に宇宙ステーションの人口を増加させていく模様。
人選については健康な成人から公平に抽選で選出し本人に通達、拒否権はないものとし、およそ5か月後の来年1月から行うものとすると発表されています。
以下、国連による声明です。
『宇宙移住は人類滅亡から逃れる最後の手段であり、この機会を失えば我々人類の歴史はついに幕を閉じる。もはや一刻の猶予もない。我々には人類を守り、未来に希望を繋ぐ義務がある。終末に終わりの始まりを。』」
12023年7月、そのニュースは世界中で鳴り止むことはなかった。
それでもどこか空想のようなこの話はどうにも他人事で、研究と友人に振り回される日常の中にゆっくりと溶けていった。
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