第40話:シャバ/病室


 薄暗いトンネルを地図を片手に掘り進む。


 そしてその終点で、扉を設置して開く。


「出れた……?」


 生ぬるい風が吹き込む。


 黒い空には光の川が流れていた。


「どうなん? ちゃんと予定ポイントに出れたん?」


 ナナに急かされて俺は慌てて、ダンジョンから這い上がった。


「そういや今日は七夕やったなぁ」


 俺は大きく息を吐いて、人気のない暗闇を進む。


『〇〇の森公園』


「ひぇ~でっかい公園やな。 森っていうだけあるわ」

「こっちだ」


 途中見つけた看板で合流地点を確認する。


 ナナは普段と変わらない様子だが、俺は適当に相槌を打って先を急いだ。


「お待ちしておりました。 乗ってください」


 合流地点には黒い車と、帽子を目深に被ったお嬢様がすでに待機していた。


「私たちこれでお尋ね者や……そんで私は億万長者や!!!」

「分かっています。 お支払いは確実にいたします。 一旦、移動して落ち着ける場所で話をしましょう」


 車に乗り込むなり、浮かれたようにはしゃぐナナにお嬢様は淡々とした口調で言った。


――ぐぅ。


「私やないで?」


 誰かの腹が鳴ったことで、緊張の糸が切れたのかお嬢様は息を吐いて仕方なさそうにほほ笑んだ。


「何か食べたいものはありますか?」







 俺たちはお嬢様――日比野きな――の父が所有する家の一つに招かれていた。


 モデルルームのように生活感のない、お洒落なリビングのテーブルに並ぶのは紙袋だ。


「バーガーとポテトうっま! ジャンクが染みるわぁ」

「悪魔的に美味だ」


 刑務所の飯は基本的に健康的なメニューなので、こういうガツンとくるものを食べると脳がふわふわしてヤバイ。 俺たちはボキャ貧な感想を零しながら、夢中でむさぼり続けた。


「ではさっそく契約について確認させていただきます」 


 ナナは小切手を渡され、俺とハチの前には雇用契約書が置かれた。


 それぞれの契約は全く違うものだ。

 俺はスキル練習モードをお嬢様に使わせることに加えて、戦闘技術指導員として働くこととなる。 一方、ハチは運転手兼、お嬢様の訓練相手になるそうだ。


 とりあえず三人共、この先生活していくための目途は立ったので一安心である。


「契約ありがとうございます。 では聖さん、さっそく明日からお願いしたい――ところなんですが、その前にお話があります」

「俺だけに話……?」

「はい……申し訳ありませんが、お二人は席を外してください」


 不穏な雰囲気を感じたのか、二人は素直に席を立った。


「お話というのは晴間ヒナさんについてです」


 彼女の口から出ると思わなかった名前に俺は驚くと共に、気楽に構えていた脳裏に嫌な予感が過る。


「……ヒナがどうしたんだ?」

「落ち着いて聞いてください。 彼女は今、病院で療養しています」

「は? 療養? なんで?!」


 お嬢さまは沈痛な面持ちでため息を吐いた。


「言ったでしょう……この社会は歪み始めてる、と」


 そう言って彼女は住所の書かれた紙を差し出した。


「明日、車を出しますので」






 次の日、俺は朝早く家を出て病院へ向かった。


 個室のベッドから窓を眺める少女。


 彼女は不思議そうにこちらを見つめて言った。


「どなたですか……?」


 晴間ヒナはまるで知らない人間を見つめるように呟いたのだった。








〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回で第3章は区切りとさせていただきます。


評価・応援ありがとうございます!

誤字報告感謝です!助かってます!


小説トップページの☆より評価、レビューしていただけると大変嬉しいです!


批判・批評などでも構いませんので、感想お待ちしております!


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る