第39話:アイドル……?/決行





 ひたすら穴を掘る。


「なー、なんか面白い話してやハチ」


 体は疲労するが重労働ではないためわりと退屈なので、ナナは仲間となった強面のハチに無茶ぶりをすることが多い。


「……分かった」


 顔は渋いがハチはそれを絶対に断ることはなかった。 最近、気づいたがハチとナナは主従というか、上下関係があるように見える。


「嫌なら拒否すればいいのに……」

「それはできない」

「なんで?」

「ファンだからな」


 無茶ぶりで滑って落ち込むハチは真剣な表情で言った。


「ファンって何の?」

「まさか知らないのか……? あの方――いやナナは有名な配信者だぞ」

「えぇ……あれが?」


 確かによく見れば顔は整っているが、俺にとって彼女は酒が似合いそうな気のいいお姉さんといった印象だ。


「ああ、彼女の歌には魔力が籠っているんだ」

「歌い手ってやつ?」

「分類的にはそうだが……彼女はそういう括りを超越している」

「お、おう。 そうか」


 強めに訂正されたが、共感できない俺は口元を引きつらせた。


「なんや?」

「いや、有名な配信者だったんだって聞いて……オーラないなと思って」

「失礼やなっ……と言いたいとこやけど、ちょっと歌の上手い配信者でしかないから、まあ実際一般人と変わらんね」


 ナナは気にした様子もなく、屈託のない笑みを浮かべた。


「なあ、キュウ助ってなんで捕まったん?」


 ダンジョンを掘り進めていると、ナナが話を振ってきた。


 今ままで三人共、なんとなく踏み込まなかった話題を出してきたことに驚いた。 しかし犯した罪が窃盗や傷害ではないので、個人的に話すことに忌避感はない。


「未公開のダンジョン攻略だよ」

「へえ……意外と野心家なんやね」


 未公開のダンジョンを攻略する目的なんて、ギルドにバレずにスキルを拡張し強さを求めた結果くらいしかないのだ。 夢幻のダンジョンに関しては全くそのつもりはなかったが、説明すると長くなるので訂正はしない。


「まあそんな時もあったよ……で? そっちは? 言いたくなかったら全然いいんだけど――」

「ミズヨウカンが配信に映ってしまってなぁ……テイムされててもモンスターはモンスターやから速攻通報されてしょっ引かれてもうたははは」


 お気楽に笑うナナらしすぎる理由で、俺は少し安心した。 これから彼女とは運命共同体となるのだ。 そんな相手が危険な輩だったら、行動を共にすることが怖すぎる。


「じゃあせっかくだから聞くけど、ハチは……?」

「俺はスキルでダンジョンと周辺の土地を損壊させてしまった」

「えっと……?」


 詳しく聞くとハチは以前冒険者であり、優秀さを買われ未公開のダンジョンの調査などを頻繁に行っていたようだ。

 そしてある日、調査中に超高攻撃力のスキルをスロットで引き、使ったところ周囲が吹き飛んだらしい。


 三人の罪は罪であることに変わりはないが、悪人の犯すタイプの犯罪ではなかった。 反省しなければならないことは頭で理解しているが、イマイチ悪びれることのない三人は似た者同士である。


「とりあえずハチはスキルを使う前にスキル名を報告してくれ、頼むから」

「……うむ、承知した」







 そんなこんなで一月ほどかけて、俺たちはダンジョンを掘り続けた。


 途中何度か、面会や探索でお嬢様と打ち合わせを重ねて、ついにその日がやってきた――



――深夜、最も見回りの間隔が長いタイミングを狙って俺たちはダンジョンへと降り立つ。


「(行こう)」


 もう後戻りはできない。

 さすがのナナも緊張した面持ちで頷き、俺たちは無駄口も叩かずダンジョンを進み始めた。


 




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