第38話:共犯/欠点
「ただいまー」
牢部屋の床からぬるっとナナが出てきても、もはや驚かなくなるくらい彼女は頻繁にやってくる。
「我が家か! まあ丁度良いタイミングではあるけど」
「なんや?」
「脱獄の話だけどさ」
彼女は不思議そうに首を傾げて「あー!」と声を上げた。
「そういえばそんな話もしたな~」
「えぇ……それくらいの感じだったのかよ」
「まあ雑談の一つというか。 冗談半分やで? 本気にしたん?」
「うん」
話を持ってきた張本人であるはずなのに、ナナは困惑した笑みを浮かべる。
「……ほんなら脱獄するとして、その後どうするつもりなん? 私たちお尋ね者やで? 仕事はどうするん? 海外に高飛びでもするんか?」
「実は俺の面会にお嬢様が来た」
「は? なんで? いつの間にそんな仲になってたん? キュウ助は意外と手が早いんやな……」
自分の体を抱き締めて怯える大根演技を、俺は鼻で笑った。
「適当に流すなや……で、なんやって?」
「外に出たくないかって話だった」
「なんやて?! 抜け駆けする気か!」
「ただ方法が思いついていないらしい」
「はあ?」
俺が少女から聞いた話をナナにすると、気まずげに頬を掻いた。
「それでキュウ助は知り合いが心配だから外に出たい、と」
「まあ端的に言えばそうなる」
「私にはそんな相手も、わざわざリスクを冒して脱獄するメリットがないやん。 いうて刑期もあと半年くらいやし」
そう言うであろうことは予想していた。 俺だってナナの立場なら同じことを思うだろう。
だからいくつか交渉材料は持ってきている。
「一億」
「ん? イチオク……?」
「そうだ、もし協力し脱獄が成功した暁には一億円支払うそうだ」
「は……? いやいやいくらなんでもそんな大金、急にあり得へやろ。 めちゃくちゃ胡散臭いわ~~~~~~~~で?」
ナナは手をこすりながら、愛想の良すぎる笑みを浮かべた。
「私は何をしたらええんでしょうか?」
〇
「脱獄のために必要なことはシンプル――
――ひたすら掘る、それだけや」
ナナ曰く、ダンジョンというものは物語のように脳内をトレースしたように創造できる、といった簡単なものではなくもっと扱いずらいらしい。
「ダンジョンを創ろう、階層を広げよと思ったら基本的に勝手に創られる。 内装はランダムみたいなんや」
それは森であったり、街であったり様々だがナナの意思とは関係なく空間は広がってしまう。 故に「俺の部屋につながる道を」と思っても結果は全く違う物になってしまうのだ。
「やけどこうやって地面にコアをかざしながら掘る動作をすると」
彼女がそう言って床を掻くと、まるで常温のバターを掬うように地面がえぐれた。
「おいおい、どうすんだよこれ。 見つかったら終わりだろ」
「そこは安心してや。 このえぐれた部分はダンジョンだと思うんやけど、コアがそこに無いと勝手に修復されるんや」
ナナが話しているうちに地面は逆再生のように元通りになっていく。 スキルやらモンスターやら充分ファンタジー慣れしたと思っていたが、俺は理解が追い付かず頭を抱えた。
「ダンジョンって不思議やよね~」
「……うん、そうだね不思議だね~」
呑気に笑うナナを見て、考えてもどうせ理解できないだろうと、俺は深く理解することを諦めて渇いた笑みを浮かべた。
「ただ問題が一つあってな」
「これ魔力か何かをすごく使うのかやたら疲れんねん。 正直外までダンジョンを伸ばすのは厳しいし、少なくとも時間はかかると思うわ」
「早くその彼女さん(?)に会いたいんやろ?」
「なら協力者がいると思うで」
ファンタジーと言ってもそう都合よくはいかないようだ。
ヒナとの関係は勘違いされているが、その方が情を引きやすいだろうから俺はあえて否定しなかった。
「あいつに声かけてみるか」
「ええと思うで。 さすがに仲間外れは可哀そうやし、ガタイはいいから役に立つやろ」
俺とナナは確認せずとも同じ人物を思い浮かべて、頷きあったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます