第29話:刑務所はラビリンス/ありがちな裏話




 現在ここに服役中の、もといダンジョンへ潜っている受刑者は俺を含めて九人いる。 彼ら、彼女らは能力またはダンジョンの難易度によって単独、または複数で探索を行う。


「本日は7、8、9の連番でダンジョンを攻略してもらう」


 俺はいつも単独だったため、パーティでの探索はここにきて初めてだ。


 そして今回は珍しいことに監督役の冒険者が二人も同行するらしい。


「……どんだけヤバイダンジョンなんだよ」

「お? 兄さんは付き添い初めてなん?」


 八重歯が特徴的な関西弁の女が、不思議そうに首を傾げた。


「ああ、最近入ったばかりでね」

「なるほど新人さんか。 なら死ななないようにだけ気を付けて頑張り。 まあ話し相手でもしてくれといたらええわな」


 彼女――服役番号7番――は気さくに先輩風を吹かせて人懐こい笑みを浮かべた。


「よろしく頼むわキュウすけ

「キュウ助?」

「ただのあだ名や。 私のことはナナ。 そのぶすっとしたおっさんはハチや」

「足だけは引っ張るなよ、お前

「私もかい! 腹立つわ~」


 そうこうしているうちに愛想笑いを浮かべう刑務官に連れられて、明らかにいいとこの娘さんといった風な少女が現れた。


「初めまして」


 彼女の後ろに屈強な男が二人、SPのように並んでいた。


「名を名乗る必要はありませね。 こちらで優秀な冒険者を連れてきていますから、すぐに終わります。 まあ規定上あなた方の動向を許可しますが、どうか余計な真似はせず、自分の身だけ守ることに集中してください。 ではさっそく行きましょう」


 彼女は冒険者を促してダンジョンへと入っていく。


「お前らもさっさと行け! くれぐれも失礼のないようにな!」

「へいへい」

「分かりました」

「……承知」


 俺はあまりの傲慢な態度に呆気にとられたが、刑務官に急かされて慌てて彼女たちの後を追ってダンジョンへ入るのであった。






「時々あるんやけど、付き添いっちゅうのはな~?」


 冒険者と名前も知らない少女がモンスターを無双しているせいため、付いていくだけで暇な俺たち三人の間には緩い空気が漂っていた。


 ナナ曰く、付き添いというのはお偉いさんがスキルを拡張するためにダンジョンコアまで付き添うというものらしい。


 外のダンジョンも、この刑務所においてもダンジョンを攻略するーーコアを破壊するーーことは禁じられている。


「やっぱ世の中大事なのは金と権力やんな?」


 金さえあればギルド側が便宜を図り、スキルの拡張を手助けしてくれる。


 スキルの拡張をしたところで、冒険者として活動しなさそうなお偉いさんに何の意味があるのかは全く分からないが、そういう仕事も時々あるらしい。


「おい、お前らうるさいぞ」

「勝手に仕切るなや。 ハチにとやかく言われる筋合いはありましぇ~ん」

「……そろそろ中層だ。 気を引き締めろ」

「へいへい。 言われなくともそれくらい分かっとるっちゅうに」


 パーティと言ってもこの様子じゃ連携を取ることは難しそうだ。


 二人の実力がどれほどかは不明だが、相当探索し慣れているようなので心配する必要もないだろう。 俺は俺の身を守ることだけ考えればいい。


「ほな行くで。 遅れたらあかんで」

「あいよ」


 そうして俺たちがようやくエンジンを入れ始めた時、前方から衝撃音と共に――



「GYAAAAAAAA」



――――怪物の雄たけびが聞えてきた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る