第28話:刑務所での生活




 拘所に入って、しばらく経ち俺は現在正式に罪人として刑務所で生活している。


 普通の受刑者は朝早くから規則正しい生活を行い、単純作業などの労働を日々こなしいくイメージだった。 しかし俺のような元冒険者は、脱走の危険性から特殊な刑務所で過ごす。


「9番、出ろ」

「はい」


 俺は刑務官に連れられて労働場所へと向かう。 俺たちのような力のある受刑者は単純作業とは違う労働――ダンジョン攻略をこなす日々を送っている。


 ここはダンジョンが現れてから新しく建てられた刑務所で、とある装置によってダンジョンの発生をコントロールしており、この建物はダンジョンが生まれやすい空間となっているらしい。


「本日の業務はBダンジョンの攻略だ。 武器は備品の使用を許可する。 ただし壊せば懲罰だ」

「はい、わかりました」


 やることはここに来る前と変わらない。

 しかしここにいると人間ではなく、奴隷扱いをされていると強く感じる。 当然手に入れたアイテムは渡さなければならないので、モチベーションも上がらない。


 備品の武器は種類は一通り揃っているが、どれも年季が入っていてすぐに壊れそうだ。 こんな扱いをしていたら元冒険者といえど、死傷率は高そうだ。


(日本の倫理はどこへ行ってしまったのか……)


 そう思ったがよくよく考えてみれば冒険者になれるような輩は、大抵スキルが武器のようなものであって、俺のようにスキルのアシストなしで戦闘することはきっと想定されえ居ない可能性に気がついた。


「ナックルと短剣を二本お借りします」


 本当はリーチが長い武器を使いたかったが、そう考えるのはみんな一緒で長物は目に見えて劣化が激しいのでやめておいた。


(さて行きますか)


 一瞬驚いたように目を見開いた刑務官の表情に気分を良くしつつ、俺はダンジョンへ足を踏み入れるであった。





「やっ、てんちょ来たよ」

「お前、また来たのかよ……」


 面会があると言われ行ってみれば、相変わらず元気なヒナだった。


 俺が刑務所に入ってからヒナは週三回くらいのペースで会いに来る。 何か用事がるわけでもなく、家族でもないのにマメというか律義というか――彼女の内心は分からないが、嬉しいことは確かだった。


「最近どうよ?」

「どうよってそんな毎回ざっくりだなー。 ええと昨日はね、色々戦闘技術の勉強したり、トレーニングしてみたりかな? てんちょが早く出てきてくれないと、退屈なんですけど!」

「まあ訓練が中断したことは悪いと思ってるよ」


 刑務所に入ったなんて聞いたら、少し距離を置くとか、態度が変わりそうなものだがヒナは変わらず接してくれる。 それは彼女にとって特別なことではないかもしれないけど、俺にとっては恩に感じるくらいはありがたいことだった。


 毎日ただダンジョンを攻略して、寝て、食っての繰り返す日々。

 アイテムを得ることも、ダンジョンコアを破壊することも許されないので、目的もない。 人生ではなく、空白を生きているような虚しさを常に感じていた。


 こんな生活をあと一年も続けると思うと、死への不安はないが、ただただ憂鬱でしかなかった。







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