第21話:滑り台からの宣誓/カミングアウト



「ちょと付き合ってよ」


 世界回帰教の演説を聞いた後、ヒナと俺はコンビニで酒やら買って公園に向かった。


「よいしょっと」


 公園に人気はない。


 ヒナはベンチに腰掛け、さっそく開けた缶を呷って豪快に喉を鳴らした。


「ぷはーっ!」

「美味そうに飲みやがる」

「CM狙ってますから!」

「あほ」


 俺は鼻で笑って、酒で舌を湿らせた。


「お前、大丈夫か?」

「んー、まあ全然大丈夫ってわけないよね。 珍しく結構落ち込んでた」

「最近空元気ぽいもんな」

「……バレてたか。 さすが付き合い長いだけありますなぁ」


 ヒナはため息を吐いて、困ったように笑う。


「さっきの、さ……」

「ああ、世界なんちゃら教の話?」

「うん、どう思った?」

「言ってることは変ではないよね。 ダンジョンもスキルだって異物だし、簡単に順応している私たちの方が可笑しいとは思うから」

「確かに」

「だけど――」


 ヒナは立ち上がって酒を一気飲みした。


「ぷはっ。 私は聞いていて気づかされたよ。 私はこの可笑しくなった世界が、ダンジョンがあってスキルがある世界が好きなんだって」

「……でもスキルがなしでどうするんだよ。 欲しいものに手が届かない方が苦しいんじゃないか? それなら叶うかどうかは別として、世界が回帰した方がまだマシだと思うけど」

「てんちょ……まさか信者なの?!」

「ちげーよ。 ただ普通に考えたらそうかなって」

「なら私は普通の人からすればだいぶイカれてるかもねっっ!」


 突然ヒナは走り出して、公園の滑り台を反対から登り始めた。


「おいおい、何してんだよ……酔ってんのか?」


 彼女は滑り台のてっぺんで、腕を空へと伸ばす。

 人差し指は輝く月を指している。


「私、晴間ヒナはスキルがなくとも冒険者にっなるぅぅぅぅぅぅぅうううう」

「えぇ……」


 ヒナはバカでかい声で、荒唐無稽な目標を叫んだ。


「ほーら、てんちょもおいで!」

「え、やだよ」

「はーやーくっ! はーやーくっ!」

「わ、分かったから静かにしろって」


 人気はないとはいえ、通行人はたまにいるし、近くに家もあるので通報されかねない。

 階段から上がろうとしたらなぜか却下されたので、仕方なく俺もヒナと同じようにどたどたとスライダー部分を駆けあがった。


「おお、意外と身軽だね」

「意外は余計だ! で? 何すんの?」


 何か考えがあっての呼び出しではなかったようで、ヒナは長考するが何か思いついたらしく嫌に楽しそうな笑みを浮かべた。


「想い人に愛を!」

「叫ばんわ! つうかそんなんいねーし!」

「え?」

「あ……」


 勢いで嘘を告白した俺に、ヒナは不満げな視線を向けた。


「どういうことかキリキリ吐いてもらいましょうか、店長さん?」

「はい……実は」


 ヒナの気持ちを知れたため、これ以上嘘を重ねる必要もなくなったので俺は素直にこの買い物の目的を彼女に説明するのだった。







「うそつき」

「悪かったって」


 嘘を吐いて彼女の休日を潰し、そして買い物やらデートの練習までさせた彼女の気持ちを踏みにじったのだ。 俺はどんな罵倒も受け入れるつもりでいた。


「ばーか、あーほ! この晴れマークのヒナ様がこの程度の逆境で闇落ちするわけないだろ!」

「はは、そうか! そうだな!」


 しかし彼女は怒ることはなかった。 どこまでもヒナらしく、俺の罪悪感を吹き飛ばすような明るい笑みを浮かべる。


「まあ一応、その気持ちだけは受け取っておくよ。 ちなみに私が世界を回帰させてって言ったらてんちょはどうするつもりだったの?」

「気合と根性で全てのダンジョンを攻略するつもりだった」

「ふふ、馬鹿じゃないの? 気合と根性ってほぼ一緒だし……ほんとバカだね、てんちょは……そんでもって私のこと好き過ぎない?」

「別にそんなんじゃねーっつうの」

「照れるな、照れるな」


 肘で脇をぐりぐりされ、俺は気恥ずかしさから逃れるように滑り台を滑り降りた。


「ちょちょちょっと! てんちょ早くどいて!」


 俺は着地地点にそのまま突っ立っていたので、続いて降りてきたヒナが衝突する。  遊具の滑り台とはいえ、人ひとりがぶつかれば痛いし、勢い次第では吹っ飛ばされるだろう――もしもそれが一般人であれば、だが。


「え……?」


 ダンジョンを攻略し、田中の依頼を受け、週末はダンジョンに潜っている俺にしてみれば、ヒナがぶつかってもゆるぎもしない。


「ここで一つ、俺の秘密を明かそう」


「俺は冒険者なんだ。 しかもそこそこ強い」


「そんでもって俺は戦闘時、スキルを使用していない」


 俺の言葉にヒナは何を感じたのか、何も答えない。


「強くなりたいか?」


 瞳に希望の光が宿る。


「うん、強くなりたい」


 そして言葉に迷いはなかった。







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読んでいただきありがとうございました。

これにて二章は区切りとさせていただきます。


面白い、つまらないどちらでも構いませんので素直な感想を小説トップページ下部☆より評価していだけますと大変嬉しいです。


なお批判・批評は大歓迎!

感想お待ちしております!

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