第3章:無能力少女と罪人

第22話:スキルの新機能



 俺はヒナを連れて家へと帰ってきた。


「へー、意外ときれいにしてるんだ」


 彼女は面白そうにじろじろと見まわして言った。


「ほとんど寝に帰ってるだけだし」

「まあてんちょは店に住んでるようなもんだしね!」

「ちょっと準備するから適当に寛いでて」

「はーい」


 人が来ることは想定していなかったので、俺は急いで放置していた食器を洗い、そして洗濯物を取り込もうとするとパンツを凝視して固まるヒナの姿があった。


「お前、実はむっつり?」

「ち、ちち違うから! そんなんじゃないから!」


 彼女は赤面して否定するが、その必死さが怪しい。

 バイト時代からヒナはかなりモテていた――同僚はもちろん、客に連絡先渡されたり――のでこういうのは慣れているかと思いきや、意外と初心らしい。


「処女?」

「うっさいなー! 言わないから! 何も言わないから! 洗濯物手伝うから!」

「おう、助かる」


 ヒナをからかいながら雑事を終えて、俺は布団を敷いて寝ころんだ。


「ヒナも隣来い」


 布団の空いたスペースを示すと、彼女は軽蔑の眼差しで俺を睨んだ。


「私の体が目的だったんだ……てんちょって実は肉食系?!」

「違うわ! スキルを使うときはいつもこうしてるの!」

「スキル……寝技?」

「もういい? この話無かったことにしていい?」

「わ、分かった! ごめんって!」


 俺がため息を吐くと、ヒナは慌てて布団に横になった。


「こ、これでいい?」

「うん、というかそんな恥ずかしがらなくて良くないか?」

「……男の人の部屋に入ったのも、布団で一緒に寝るのも初めてなんだもん」


 急にしおらしい態度を取られると、こちらもドギマギしてくるのでやめていただきたい。 実際に体験した方が話が早いと思って、スキルの詳細を説明しなかったことは失敗だったようだ。


「じゃあ手握るぞ。 スキルに必要だから」

「うん……変なことしないでね……?」

「しないって。 行くぞ――練習開始」


 俺がスキルを使用すると、瞬きの間に意識が切り替わる。 景色が変わる。


 真っ白な世界。

 目の前にはゴブリンが一体。


「ゴブ!」

「え? ゴブリン?! なにこれ、どうなってるの!?」


 俺は流れるような動作で、向かってきたゴブリンを蹴り飛ばして言った。


「俺のスキルは練習モードって名前なんだけど、その名の通り疑似的空間でリアルなモンスターと戦う練習が出来るスキルなんだ……練習! ゴブリン三体! 武器、クナイ!」


 話の途中で出現させたモンスターに、俺はクナイを鋭く投げた。


「すごい……」


一瞬で光となって消えたゴブリンたちを見つめて、ヒナは呟いた。


「と、まあこんな感じで戦闘スキルがなくても練習すればこれくらいはやれるようになるかもしれない。 大変かもしれないけど、やってみるか?」


 以前は自分一人しかこの空間に来れない、確信があった。

 しかし夢幻のダンジョン攻略により、スキルが拡張されたことにより他者も連れてこられるようになっていたのだ。


 ヒナは真剣な表情で頷いて、頭を深く下げた。


「よろしくお願いします……師匠!!」

「むずがゆいから師匠はやめてくれ……」


 こうして俺とヒナは師匠と弟子のような関係となったのだった。




 


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