第6話:ステータス/忠告



 水晶に手をかざすと、目の前にホログラムが現れる。


「これは……」


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レベル:35

体力:B/筋力:C/攻撃:B/防御:C/魔法:C/知力:A/運:D


スキル:練習モード(2)

称号:夢幻の攻略者


アイテムボックス(小):おにぎり、ポカリスエット、鑑定眼鏡、懐中電灯、簡易テント、魔石×300、…………オール・レゲイエの耳飾り

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 まるでゲームのような文字の羅列は胡散臭い。 しかしアイテムボックスの中身が正しく表示されているので信じることが出来た。


「それがステータスです。 称号に攻略者の文字があれば、あなたがダンジョンを攻略した証明となります。 そしてこちらは協力者を参考に作成した、ステータスの目安表です」


 田中に渡された資料にはモンスターを倒したことのない一般人や一般的な冒険者のステータスが記載されていた。


 一般人の場合はレベルが一で、体力などの項目はほとんどGだ。


 一方、冒険者は下は十級から上は一級までそれぞれ記載されていたが、そもそも俺は冒険者のことにあまり詳しくないので、想像がつかなかった。


 とりあえず俺は中間くらいの数値らしい。


「Sなら人外、Aなら達人、Bならプロ級、そんなイメージで大体あってますから」


 田中の言葉通りであれば、俺はダンジョンを攻略したにも関わらず、あまり強くないということが証明されてしまうんだが。


 レベルは相当上がっているので、ダンジョンを攻略したのは確かなんだろう。 怒涛の展開続きで、あまり気にならなかったが頭はやたら冴えてる気がするし、体も軽い。


 しかし冒険者たちが長い月日をかけてGから上げていくと考えれば、一日の成果としてはかなりものなのではないだろうか。


「ところでアイテムボックスの中に入れた覚えのない物が入ってるのと、スキルの横に表示されている(2)ってなんなんでしょう?」

「ああ、それは――」


 田中曰く、アイテムボックスを持ってモンスターを倒すと自動的にドロップアイテムが収納される仕組みになっているらしい。


 そしてスキルの数字については、ダンジョンを攻略したものはスキルの能力が拡張されることがあり、元は(1)と表示されるようだ。


「一度の攻略でそれだけの成長が確認できるのなら、夢幻のダンジョンのモンスターが特別弱かったということはありえないでしょう」


 ステータスの内容を伝えると、田中は悩むことなく即答した。

 おそらくたくさんのステータスを見たことがあるであろう彼が言うのなら、正しいのだろう。


「いや、じゃあ可笑しいじゃないですか? 俺みたいな一般人がダンジョンなんて攻略できるわけがないのに……」

「勘違いなのでは? あなたは自身が思っている以上に強かった、それだけの話です」


 薄々は分かっている、しかし過去の記憶が『勘違いしてはならない』と俺を強く否定する。


「さて本題に入りましょう」


 田中は口角だけ上がった不気味な笑みを浮かべるのだった。





「昨日は申し訳ありませんでした」

「……っ」


 翌日、俺はいつも通り店に出勤した。


 そして昼過ぎにやってきたオーナーに頭を下げるが、予想外に彼は何も言わずに舌打ちするだけだった。


「あれ? 俺、まじで首か?」


 怒られているうちが華とはよく言ったもので、無断欠勤で怒りを通り越したのかもしれない。


「ふふ、大丈夫だと思いますよ」


  バイト少女曰く、俺が休んでいた穴がどうしても埋まらずオーナーが代わりに出勤したそうだ。 そして最後は倒れ込むくらい疲れ果てていたため、その疲れが残っていて怒る気力もないのではないか、とのことだった。


「聖店長がどれだけ店を支えているのか、ようやく理解できたんじゃないですか? いい気味ですよ」


 バイト少女はそう言って楽し気に笑う。

 彼女はこの店で唯一俺とまともに会話してくれる、優しい少女だと思っていた。


(意外と黒いのね……)


「とはいえフォローする私も死にそうでしたけど、ね」

「すいませんでした!!!」


 どれだけ店が混んでも文句の言わない少女が、恨みのこもった目で見てくるので俺は平謝りするしかなかった。


(さてどうしたもんか……)


 俺はようやく日常に戻ってきた。


 しかし田中の本題によって俺は選択を迫られていた。


――店を辞めて冒険者になるか。


――それとも掛け持ちで続けていくのか。


 冒険者になれる実力があるなら、この店を続ける必要はない。


 ただ昨日の帰り際、田中に言われた言葉が頭から離れずにいた――



『私は兼業をオススメします。 冒険者ってのは想像より過酷であり、それはどんなに強者にとっても同じです。 逃げ道はあった方が良いですよ』



 それにオーナーや客、馬鹿にしてくるバイト連中もどうでも良いが、こんな自分を慕ってくれる人がいる。 俺が抜けた穴はきっとその優しい人が埋める羽目になるのだ。


(それは嫌だな)


 俺は悩んで、そして決めた。


「お世話になっております、聖です。 田中さん、答えが出ました」

『伺いましょう』




――――俺はこの時の選択が、自分の未来を大きく変えることになるとは思いもしなかった。








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