第13話
「━━━━━━そこまでだ、黒翼の悪魔」
「うぐっ……!?」
突如、保津君が小さく呻く声がする。恐る恐ると目を開けると、ちょうど保津君の体がグワリとバランスを崩し、倒れるところだった。後ろから頭を何かで思い切り突かれ、それで倒れたらしい。彼が倒れた先……そこには、サーガ団の旗の支柱を構えて立つ、見覚えのある男子の姿があった。
「だ、大地君……!?」
「違うな。 ……今の俺は、大地の化身グランディスだっ!」
声高らかにそう叫ぶ大地君。やっと身体の感覚が戻った私は、慌てて立ち上がり、そのままフラフラと彼の背中へと回り込んだ。
「お前の友人の
「どういう事……? 一体、何がどうなってるの……?」
状況が全く理解できずに混乱する私に、彼は重い口調で語りかける。
「結論から言う……アイツは保津 陽太ではない」
「…………え?」
彼は何を言っているの……? またおふざけが始まったのだろうか、と
「貴様……何でっ!」
「前にサーガから話を聞いた時、どうしても違和感が拭えなかった。 話の中の保津と、今の保津の印象があまりにも違ったからな。 それで、保津陽太のことを調べた。 ……そして分かったんだ」
大地くんが言っていることが、理解できない。私は言葉を失って、彼の後ろ姿と、変貌した保津君の忌々しそうな顔とを見つめることしかできずにいた。
「二年前、保津 陽太は突如としてサーガの居た中学校を転校した。 しかし、それは真実を隠すためのデコイ。 本物の保津陽太は、もう既にこの世にいない。 ……二年前のとある事件に巻き込まれ、偽物とすげ替えられたんだ」
「ま、待ってよ! そんなの有り得ない! それじゃあ、あの保津君は一体誰だっていうの……!?」
叫ぶ私。大地君は、ふぅ……と細く息を吐き出してから、静かな声で言った。
「二年前……保津陽太の転校と同時に、烏丸家での火災事件が発生した。 本物の保津は、そこで命を落としたんだ。
つまりヤツは、そこで保津を生け贄として生き残った人物。
━━━━闇医者による整形手術を受け、保津 陽太の姿となった悪魔……
「っ……!!?」
嘘だ……まさか、そんな事って……!?
有り得ない、そんなの有り得ない……と頑なに事実を拒み続ける私の脳裏に、大地君の言葉を裏付けるようなシーンが浮かび上がった。
入学して間もなく、何故か私にちょっかいを出すようになった事。
急に私を"サーガ"と呼ぶようになった事。
告白をしたあの時から、私の事が気になっていたと言った事。
『サーガは"僕"のものだ』と、そう言った事。
……頭に浮かぶ全てが、大地君の言葉に説得力を持たせていく。
でも……それでも、今目の前にいる保津君が、湊君だったなんて……そんなの、信じられるはずがなかった。
「事実、あの事件による焼死体は、司法解剖がちゃんと行われていない。 現場の状況や、烏丸湊の行方が分からなくなっていた事から、警察が勝手にそう判断しただけだ。
……烏丸 湊は、あの日から保津 陽太と入れ替わっていたんだ」
「黙れ……黙れェェェェッ!!!」
いつの間にか立ち上がっていた保津君が、目を血走らせながら大地君に殴りかかる。
「……二年前のあの日、お前は何らかの方法を使って保津陽太を家に呼び寄せた。 保津はかつて、病院で烏丸
そうか……と、私は頭の中で彼の話を整理する。確かに、地震ならともかく、火災だけであれほど家屋の倒壊が起きるのは不可解だ。その事が、かねてから少しばかり気になっていたのだが、それが意図的に倒されたんだとしたら、納得がいく。
……あの湊君がそんな
「そうして、親と共に保津を殺害したお前は、
「貴ッ様ァァァァァッ!!!!」
殺気だった保津君は、休むことなく大地君に殴りかかる。対して、大地君はいたって冷静に彼の攻撃を交わしながら、彼を、私に近づけないように立ち振る舞ってくれているらしかった。私は……ペタリと腰を抜かして座り込んだまま、一歩も動けずにいた。
「そうしてお前は、二年もの間、誰にも気づかれる事なく保津陽太として生き続けた。 もともと保津は、両親を幼い頃に亡くして一人暮らしをしていたようだから、それも手伝って上手く隠し通せたんだろう。
……ただ、二年経ってから、お前が烏丸湊であるという事に気づいた人物がいた」
「…………それって、まさか……」
「ああ。 ……俺の姉さんだ」
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