第11話
「…………あった、これだ」
警察署内にある資料室には、職員がまとめた資料や新聞の切り抜き、ビデオテープなどが
「二〇一六年、十一月十三日の午後十時、川原町の住宅街で火災が発生。 火は三十分後に消し止められたが、焼けた家屋から三人の遺体が見つかった。 家屋の倒壊などにより、遺体はひどく損傷していて、司法解剖は困難とされた。
しかし、出火元である
これらの情報は、サーガから聞いた話とほとんど一致している。サーガの話を疑っている訳ではないが、彼は彼自身の目で、サーガの身に起きた悲劇の事件を見ておきたいと思ったのだ。姉の……サーガの配下であったウィンディの、その弟として。彼は、
「何者かが、リビングのカーペットに灯油を撒き散らし、火を放った……すなわち、放火の可能性が高い。 警察は、これを烏丸広海による一家心中と判断。 家族間で何かトラブルが無かったかを捜査している……」
記事はそこで終わっていた。別の新聞の切り抜きなども見てみたが、心中の動機が明記されている記事は見当たらなかった。何故、烏丸家が一家心中をしなければならなかったのか……その理由は未だ不明という事らしい。
レイヴンが……烏丸湊が、家族を巻き添えにして自殺したのだろうか? そう考えもしたが、それを確かめる為の証拠はもう何も残っていなかった。小さく舌打ちをしながら、パラパラと別の資料に目を通していく大地。と、ほどなくして彼は気になる記述を見つけた。
「烏丸広海は、あの『宮胡市総合病院』の外科医だったのか!? 焼けたあの家も結構な豪邸だったし、ヤツの家はかなりの金持ちだったのかもな……」
烏丸広海のプロフィールには、彼が勤めていた病院についての情報や、そこでの実績などといった情報も細かく記載されていた。彼はかなりの名医だったらしく、今までに数々の手術をこなし、多くの人を救ってきたと書かれている。そこには添付資料として、彼の職場から見つかったカルテのコピーがいくつか載っており、彼が今までに執刀したのであろう急患たちの名がズラリと━━━━━
「…………え?」
ぼんやりとそのカルテを流し読みしていた大地は、その中にあった見覚えのある名前に、思わず目を疑った。慌ててその患者のカルテを開き、食い入るように見つめる。七年ほど前、とある小学生が交通事故で負傷し、その手術が行われた。つらつらと書かれているその患者の情報を眺めるうちに、大地はある
「これは……じゃあ、あの時の違和感は……!」
ハッとして、大地は最初に見ていた事故の資料を再び開いた。火災現場の写真や、遺留品一覧をくまなく調べる中で、彼は"あるもの"の残骸がそこに残されているのを発見した。
……それは、何の変哲もない、"包帯の焼け残り"だった。
「まさか…………」
信じがたい事実が、大地の脳に突きつけられる。止まっていた時計が動き出すかのように、ある一つの推理によって、次々と彼の頭の中を渦巻いていた矛盾が打ち砕かれていく。薄暗い部屋で一人、茫然と
***
「はぁ……」
あれ以来、大地君が私のもとに押し掛けてくる事はなくなった。少し寂しくなった気もするが、まぁ、それはそれ。事件が解決したのだから、結果オーライという事にしておく。私からすれば、賑やかなのより静かな方が、遥かに心地いいものだ。
そして、私の生活そのものにも、少しばかり変化が生じていた。それは……
「━━━━━おい、サーガ。 パン買いに行こーぜ」
「保津君! ……うん、いいよ」
あの一件以来、私と保津君の仲が急接近したのだ。
冷めかけていた気持ちが、あの日から再燃し始めた……んだと思う。保津君のちょっかいのペースは普段通りだったんだけど、それに対する私の反応の変わりようは、
「なんか……アイツらいい感じだよね……」
「なんかムカつく~……!」
「うぅ……いーなぁ綾火……アタシも親友のよしみで仲良くしたいのにぃ……」
クラスメイトからの
「……なぁ、サーガ。 ちょっと話があるんだけど」
と、渡り廊下で唐突に立ち止まり、保津君が渡しに声をかけてきた。
「? どうしたの?」
何やら真面目な顔つきの保津君を見て、思わず胸がトクンと音を立てる。周りには、先生や生徒の姿はない。乾いた風が通り抜ける中、彼は私の目を真っ直ぐに見て、言った。
「今日の放課後、俺と一緒に来てくれ。 ……大事な話がある」
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