第2話
「……は? え?」
迫真のその第一声に、私の頭はますます混乱するばかりだった。いや、こいつ誰? なんで初対面のはずなのに"サーガ"って呼び名知ってるの? というか、何でいきなり宣戦布告されてんの……?
何一つとして状況が理解できない私に、世奈がヒソヒソ声で尋ねる。
「ねぇ、あれウチの生徒じゃないっぽいけど……綾火の知り合い? 超アグレッシブだね……」
「んな訳ないでしょ! お初にお目にかかる子だってば!」
「そなの? でも、サーガって呼んでたじゃん? サーガって」
「あぁぁぁ頼むから連呼しないでぇぇぇ……」
頭を抱える私に構わず、目の前の男子はフンッと仁王立ちで構えながらこちらを睨んでいる。癖毛っぽい黒髪は短く切られているが、やけにボサッとしている。そして、顔の半分ぐらいを覆う白いマスクが、彼のギラリと光る鋭い目付きを強調させていた。見るからに怖い人だ。
どうしよう……やっぱり私に用がある感じだよね?
「あ、あのー……どちら様?」
当り障りのない感じでそう尋ねると、彼は得意気に鼻をならして、メチャデカい声で、
「俺は亀山高からやって来た、大地の化身……"グランディス"だ!」
「━━━━っ!?」
沈黙に包まれる教室。……まぁ、どっちかというと、呆然として言葉が出ない、っていう
……しかし、私はただ一人、彼のその言葉を聞いて戦慄を覚えた。ゾワッと背筋が凍るような感覚に、自然と冷や汗が垂れる。目の前の彼━━━グランディス君は間違いなく、私にとっての脅威だと悟った。
「え……グランディス? 何それ、ちょっとウケるんだけど! ねぇ、綾火! ……ん? 綾火? どしたの、固まって」
おーい、と世奈が私の前で手を上下させるが、私は動くことが出来なかった。他のクラスメイトも、私の様子がおかしい事に気づいたのか、こちらの方に視線を向けている。
「フン、恐れをなしたかサーガ。 ……だが、本当の地獄はここからだ。 俺は大地の精霊回廊とコネクトし、地球の力を手にした。 そして、サーガの力さえをも完全に俺のものにしたのだ!」
「え゛っ」
およそ、若い女子高生が出してはいけないような悲鳴を小さく発しながら、私は我に返った。世奈が心配そうに見つめる中、私は手をブンブンと振りながら彼にコンタクトを試みる。
「ま、待って、一旦落ち着こ! ほら、此処じゃアレだし、場所変えよ! 皆見てるし、ほら」
「構うものか! 俺の姉さんの
そう言って、手を振り上げるグランディス君。あっ……とクラスメイトが声をあげる中、私は為す術なく目を閉じた。そして━━━━
「━━━深淵の業火よ、我が魂の鼓動に答えよ! そして今こそ、我が身にその力を降ろすが良い!
……喰らえっ! 炎帝の
「ぎゃああああああああああ嫌あああああああああっ!!!!!」
グランディス君が右手を降り下ろし、私の目の前に
私が苦しんでいるのは、別に物理的にダメージを受けたからではない。……炎帝の
結論から言おう。
私は中学時代、重度の中二病患者だった。その時名乗っていた二つ名が、"サーガ"だ。
それはもう、腕に変な刻印とか描いて、その上から包帯とか巻いてたレベルの重症っぷり。しかも、それを隠すどころか、クラス中にひけらかしていた。同じ趣味趣向を持つ友達と『サーガ団』なんていうバカみたいなグループも作っていた。おかげで、私は中学時代の同級生からはこぞって"サーガ"という名前で呼ばれるようになってしまったのだ。
中三の半ばぐらいで、私は己の過ちに気づいた。その瞬間から、私のこれまでの業は全て"黒歴史"となった。だからこそ、私はわざわざ隣町である
「まだ終わらないぞ! 喰らえっ!
「嫌ああああああああもぉやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
ゴロゴロと、頭を抱えて床を転がる私を見下して、グランディス君は愉快そうに微笑んでいた。その一方で、世奈は……いや、クラスメイト皆は、ドン引きしながら冷たい目で私のことを見つめている。
「あ、綾火…………?」
「見ないで世奈……こんな私を見ないで……」
「あー、いや、見たくないのは私も同じなんだけどさ……」
正直、もう泣きたい気分だった。たった一瞬で私の高校生活を崩壊させたグランディス君は、依然として瞳に笑みを浮かべている。
……というか、本当に一体誰なのコイツは!? 亀山高の生徒って事は、少なくとも私の居た中学の卒業生では無い筈だし、第一本当に見覚えがない。なのに何故、この男は私が昔考えた中二必殺技をマスターしているの!? なんで私はこんな仕打ちを受けているの!?
「貴方は一体誰なの……? なんで……なんでこんな酷いことするの……?」
さながら、窮地に立たされたアニメのヒロインみたいに、弱々しく尋ねる私。その言葉に、彼は掲げていた両手をスッと下ろすと、
「まだ分からないのか? ……仕方ない。 なら、俺の
そう言って、彼はゆっくりと耳に手をやって、白いマスクを外した。その下には恐ろしい化け物の口が……なんて事はなく、キリッとした顔立ちのイケメンの顔がそこに現れただけだった。……というか、あれ? この顔、どっかで見たことある気が……
「━━━━俺の
……どうだ、ここまで言えばもう分かるだろう?」
キメ顔でそう名乗るグランディス君……もとい、九条 大地君。 ……ん? 今、九条って言った? 九条って確か、知り合いに居たような…………
「あーーーーーっ!!!?」
その瞬間、私は彼の正体に気づき、さっきの悲鳴にも負けないぐらいの大声をあげた。
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