呪縛のサーガ ~中二病たちの事件簿~
彁面ライターUFO
第1話
「はぁ……」
昼休みに入り、クラスメイト達が続々と購買に向かう中、私━━━━
五月に入って少しだけ暖かくなり始めていたので、今はブレザーを脱いで、代わりにピンク色のカーディガンを羽織っている。これが私流のスタイルなのだが、それにしても今日は特に暖かい。カーディガンもいらないかな……と思ってしまうほどのポカポカ陽気が、コンクリート壁で覆われた
都市開発の過程で建設されたたくさんのビルが建ち並ぶこの
「……もしもーし、なーにボケッとしてんの? 昼休みだよー、パン売り切れちゃうよー?」
と、机に突っ伏す私の頭上で声がした。敢えて頭を起こすような事はせず、私はそのままの姿勢で返事をする。
「うるさいなー。 パンなら今朝のうちにコンビニで買ってきたからいーの」
「なぁんだ。 ……あ! これって新発売のオレンディーノティーじゃん! ちょいちょーだい!」
「ちょっ!? それまだ私飲んでないんだからダメ!」
とまぁこんな風に、教室の端っこで私と他愛ない会話に付き合ってくれているのは、クラスメイトの
「ってゆーか、お昼ぐらい皆でワイワイ食べよーよ!
ほれ、見てみ? 教室の入り口で女子に囲まれてる
「これっぽっちも思いませ~ん~。
……てか、私は嫌だって言ってんのに、向こうからグイグイ来られるから、どっちかって言うと近寄りたくないの!」
「うわ、出たよヒロイン発言……。 アンタさ、保津クンが女子の間でどんだけ人気だか知ってんの? 自分が保津クンのお眼鏡にかなう女子だからって調子こいてたら、いつか始末されるよー?」
「関係ないし。 てか、アイツの絡みはそういうアレじゃないから」
「あっそー。 ……あ、ところでさ、最近
お手本のようなガールズトークを繰り広げる私たちだったが、私の口から漏れるのはため息ばかりだった。ぼんやりと霞んだその視線の先には、別のクラスの女子に囲まれて、楽しそうに話す男子生徒の姿があった。
……実を言うと、彼と私とは中学の頃からの同級生であり、以前は、私も彼に恋をしていた。『以前は』というのは、今はもう微妙に冷めてしまっているという事だ。ある出来事があってから、私は彼への恋愛感情を失った。思い出したくもない、あの事件。あれ以来私は、彼の顔を見ることさえも嫌になってしまったのだ。それなのに━━━━
「━━━━おい、サーガ。 お前も、一緒にパン買いに行かねぇか?」
━━━━この男は、何故か私に積極的に声をかけてくるようになったのだ。
「……いい、私もうパン買ってあるから。 ってか、その呼び方本当に止めて!」
「ハハハッ、相変わらずだなお前も。 そんなに嫌か? 『サーガ』って」
本当にもう、なんでこの男は私にいちいち話しかけてくるのだろう。さっきまで保津君と話していた女子たちから、殺気だった視線が送られてくる。なんなら、世奈まで殺気だった視線を向けているような気がする。……あぁ、とんだとばっちりだ。私は頭を抱えながら、元凶であるチャラ男をシッシと追い払った。
「チッ……んだよ、人がせっかく誘ってやってんのに」
「いいから、さっさとパン買いに行って」
不服そうな顔をしながら、保津君は私の席を離れていった。その際、他の女子生徒ら全員から『死ねっ!!』というテレパシーを感じとった気がするが、気のせいという事にしておく。ポカポカ陽気の昼休みが一転、これじゃギスギス空気の昼休みだ。
「んもぉ~綾火ってば、なーんであんなつっけんどんな態度とっちゃうかなぁ~。 相手はあの保津クンだよ? アレか、古き良きツンデレか?」
「違うし」
「バッサリ切るなぁ。 ……てかさ、あだ名とか付けられてたじゃん。 サーガ、だっけ? 良いなー、流石にちょっと妬いちゃうかもー」
「止めて! あの名前は本当に聞きたくないの……!」
頭にハテナマークを浮かべる世奈の前で、私は思わず耳を塞いで机に伏せてしまった。
『サーガ』。
……私の、ちょっと珍しい『嵯峨』という苗字から付けられたあだ名。クラスメイトは皆そう思い込んでいる。しかし、その名にはさらに、隠されたる秘密があった。私と、他の一部の人間しか知らない秘密。ずっと、焼却処分してやりたいと思い続けている忌まわしき過去。……あの名前は、私にそれを思いださせる悪魔のトリガーなのだ。
「……え、何? 地雷踏んじゃった系? ちょっとあーやーかー!」
ゆっさゆっさと私の肩を揺らす世奈。彼女とは高校に入ってからの付き合いであるため、世奈は私の秘密を知らない。というか、今後一切教えるつもりはない。
……でも、それで良いのだ。私の秘密を知っている人間は、私と保津君ぐらい。中学時代の同級生がかなり危うい気がするが、そこはそれ。皆とはもう縁を切った、ということにしておく。だから、これで良いのだ。このまま、私の秘密は闇の中へと葬り去られれば、私は普通の高校生活をエンジョイする事ができ━━━
「━━━おい! 待たないか、お前!」
「きゃっ!? ちょっと何~?」
「あれ、
何やら廊下の方で、生徒たちがザワついていた。何だろう……? と、世奈と一緒に喧騒がする方へと顔を動かす。
と、次の瞬間、私の視界に見知らぬ小柄な男子が飛び込み、立ち塞がった。
「え……?」
理解が追い付かず、目をパチクリさせている私の目の前で、その男子は声高らかに言った。
「やっと見つけたぞ……! 覚悟しろサーガ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます