目前


「颯君、疲れたねー」

「うん。でも、すみれのご両親もいい人だったし、うちの親もすっかりすみれと仲良くなってくれたから。もう、いつ結婚しても大丈夫って感じかな」

「もー、照れるよ。でも嬉しい。私、幸せ」


 夏休みもお盆を過ぎた。

 先日は、盆休みだったうちの両親を交えて、颯君の家族と初めて顔合わせした。


 うちの両親は基本的には友好的ではあったけど、その理由は早く私に結婚させたいという気持ちでしかないだろう。


 反対に颯君のご両親は緊張していた。

 まるで結婚の挨拶のようだと引き攣った笑いを浮かべていたけど、それでも終始私のことを褒めてくれていた。


 もう、これで終わり。

 私は颯君と二人で遠くへ行くの。


 誰かへの依存はつまり、何かからの脱却。


 私の場合は家から。

 親に依存しないと生きていけない子供が、誰かとの子供を欲しがるなんておかしい話だけど。


 私は颯君に依存する。

 そして彼も私から離れられない。

 それでいい。

 それがいい。

 

 もう私たちは一人じゃない。

 すべてはあの日から。


 彼がももにゃんの姿で私の前に現れたあの日から。


 ……ううん、違うね。

 多分生まれたその日から。

 私たちは一緒になる運命だったの。


「颯君、夏休みが終わったらお引越ししたいな」

「いいよ。じゃあ、まずはお金貯めないとね。夏休み中バイト頑張るよ」

「うん。広い部屋がいいな。あと、静かな場所がいい」

「この辺りはどこも人が多いからなあ」

「遠くに行きたい。二人で」


 そんな嘘を私はつく。

 彼は迷わず頷いてくれるけど。


 二人で、遠くに。


 ふふっ、嘘だよそんなの。


 もう、二人じゃないんだから。

 

 

 

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助けたクラスメイトが病んでいたので、俺の正体を全力で隠しているのですがなんかバレているっぽい件 明石龍之介 @daikibarbara1988

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