駅前

「わー、見て見てももにゃんだよ」

「ほんとだ、手振ってる」


 ももにゃんイベントにやってきた俺たちは興奮気味に人混みへ飛び込んでいく。


 俺が演じたももにゃんより少し小柄なももにゃんが壇上から手を振る。


 そして、司会の人が出てくると、すぐに商品の説明が始まる。


 包丁はステンレスと鉄となんとかとで材質が異なって切れ味が云々。


 俺はさっぱりわからないが、すみれは隣で何度も頷いていた。


「すみれは包丁詳しいんだね」

「だって、いざという時に切れなかったら困るもん」

「普段からよく料理するの?」

「最近かな、よく握るようになったのは。ほら、やっぱり颯君と付き合ったから」


 そんな嬉しいことを言ってくれると、自然と彼女の手を握る俺の手に力が入る。


 そしてももにゃんのショーは滞りなく進んでいき。


 途中で、ビンゴゲームがはじまった。

 番号が書かれた紙が配られ、一位から順番に景品を配られるとか。


 一番早くにビンゴになった人が一位。

 景品はもちろん包丁。

 今日の目玉である、どんなものでも切れると宣伝されていたものをもらえるそうだ。


「どっちかがもらえたらいいよね。颯君がもらえたら私にちょうだい」

「もちろん。あ、57番あったよ」


 淡々とゲームはすすむ。

 そしてリーチがかかった人は手を挙げてくださいと言われた時、俺の紙はあと一枚抜けばビンゴだった。


「はい、リーチ」


 手を挙げたのは俺一人。


 ちょっとドキドキしながら次の番号を聞くと、なんとちょうどビンゴになるところの77番が発表された。


「わ、ビンゴだ」

「やったー、颯君早くもらってきて!」


 二人で興奮しながらはしゃいでいると、周りのお客さんも拍手をくれた。


 そしてみんなに見守られながら俺は壇上へ。

 

「では、ももにゃんから景品をもらってください」


 緊張しながら景品をもらい、そのあとももにゃんと記念撮影。


 そして壇上から降りるとすみれが、


「帰ろ」


 手を繋いできた。

 俺は景品の包丁を彼女に渡してから手を繋いで。


 二人で会場を後にした。



 滝沢君と写真、とれちゃった。

 ふふっ、これ一生の宝物にするから。


 それに、あの包丁はほんとーによく切れるから。


 紫すみれと喧嘩になったら、あの包丁で死ねばいいの。

 ほんとーによく、切れるから。


 バイバイ滝沢君。

 大好きだったよ。


 死んじゃえ。



 あんな手段使ってまで颯君と写真撮るなんて、ほんと三船さんって下品な女。


 それにこの包丁で私が彼を刺すとでも?


 バカねえ、包丁の使い方間違えてるわよ。


 そんなんだからあなたは選ばれないのよ。


 包丁はね。


 最愛の人の害になるものを切り刻むためにあるのよ。


 死んじゃえ。

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