当たり前


「なんか幸せだなあ」


 放課後、部室で一人になった時にしみじみと。


 すみれは職員室に用事があるからと言って席を外したが、退室する時にも俺のほっぺにキスなんかしてくれて。


 正直、彼女を受け入れてよかったと心からそう思っている。


 怖がってばかりでは辿り着けなかった境地。

 可愛い彼女がいる優越感は、それだけで世界が違って見える。


 三船さんはもう部室に来ないけど。

 まあ、目の前でイチャイチャされたら気まずいだろうし、これでよかったのかもな。


 あの時、すみれを偶然でも助けてよかった。

 俺は本当についている。


「はあ……早く戻ってこないかなあ、すみれ」


 骨抜きにされている自覚はある。

 でも、あんな可愛い彼女に溺愛されたら誰だってそうなるさ。


 俺が悪いわけじゃない。

 それに、母さんとも仲良くしてくれてるし。

 いいことづくめだ。


 でも、こうしてちょっと離れると、そんな幸せも当たり前じゃないとわかる。


 大切にしないとな。


 早く、戻ってこないかなあ。



「ええ、はい。そうですね、三船さんは退部しました。いえ、特に問題はないですよ。あはは、ちゃんとレポートは出しますから」


 名ばかり顧問の先生のところへ三船咲の退部届を提出しにきたところ。


 入ってすぐ退部とあって、何か問題がないか聞かれたが特に何もないといえばそれで済んだ。

 

 先生からの信用って、とても大事。

 三船さんは普段からやんちゃな生徒らと仲良くしてるみたいだし、私とあの子は違う。


 私は、滝沢君と生きるためだけに全てを使う。

 周りの人達も、これからの将来もなにもかも。


 こうして先生と話してる今だって。

 滝沢君との今後のためだと思うから我慢できるだけ。


 なんも関係ない話で呼ばれて拘束されでもしたら私。


 こんな先生の首なんてはねてしまいそう。


 滝沢君、早く戻るから。


 早く戻るからね。

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