誘う
「颯君、私と一緒に帰らない?」
昼休みにすみれはそう言った。
今は二人で校舎裏に隠れて昼ごはんを食べているところ。
すみれ特製弁当だ。
「うん? 部活終わったら帰るけど」
「そうじゃなくて、今から」
「学校、サボるってこと?」
「うん、ダメ?」
「……」
学校をサボるなんてことは生まれて一度もした経験がない。
いくら可愛い子に誘われても、そんな不真面目で目立つような真似をする勇気は俺にはない。
「ごめん、それはちょっと」
「私といたくない?」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「私が体調悪くても一人で帰れっていうの?」
「体調よくないの?」
「うん。だから先生に言って、家まで送っていって欲しいの」
すみれは一夜を共にしたあの日以来、わがままに甘えるようになった。
前から見せていたメンヘラのそれがここにきて爆発している様子。
でも、俺もそんな彼女の好意をどこか嬉しく感じてしまっている。
気持ちが、持っていかれはじめている。
「……今日だけ、なら」
「ほんと? じゃあ先生に伝えてくるから一緒にきて」
このあとは少々大変だった。
すみれが体調不良だから早退するというところまでは普通だったが、俺が彼女を送るために一緒に早退するのはなんでなんだと、当たり前だが苦言を呈された。
そして俺たちの関係についてや、実はすみれも仮病なんじゃないかと騒ぎ出す先生まで現れて職員室は騒がしくなった。
しかし一人で帰してる間に何かあったらどうするんだと、ベテランの先生が一人味方してくれたところでなんとか話はまとまり。
俺たちは下校した。
正門を堂々と出ていき、そのまま彼女の家に向かおうとすると彼女はなぜか駅の方へ向かって歩き始める。
「あの、どこいくの?」
「駅前でね、ももにゃんのイベントしてるんだって。ちょっと回り道して見て帰りたいな」
「制服のままで補導されないかな?」
「大丈夫」
だって、颯君が守ってくれるから。
笑いながらそう言って俺の手を引くすみれは、とても楽しそうだ。
俺も、そんな風に頼られた経験は初めてで。
学校をサボったことなんて忘れて、一緒に駅へ向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます