心地よい日々

「おはよう颯君」


 窓から差し込む眩しい朝日と共に俺に届く優しい声。

 それに反応して目を覚ますと、眼前には紫すみれの満面の笑み。


「あ、おはよう」

「ふふっ、いっぱい寝てたね。疲れた?」

「まあ、結構いっぱいしたし」

「ねー、でも気持ちよかったよ。それに、満たされてる感じがしてとても嬉しい。今日は学校どうする?」

「……今日はさすがに行かないとまずいかな」

「ふうん。じゃあ朝ごはん食べたら準備しよっか」


 一日中、彼女とベッドにいた。

 そのせいで身体も怠く気力も失われて何をする気にもならない。

 しかし連日学校をサボるなんてまずいだろうと、無理矢理体を起こす。


 そして久しぶりに外へ出た。

 朝日が眩しく、目がきゅっと痛くなる。


 目を窄めながら一度我が家へ。

 すると玄関先にちょうど母さんがいた。


 俺は一度足を止めた。

 丸一日、連絡もせず家に帰らなかったどころか学校までサボって彼女とふしだらな一日を送っていたバカ息子の顔をみればさすがに普段緩い母さんでも怒り狂うに違いない。

 改めてとんでもないことをしてしまったと頭を抱えながら電信柱の陰に身を潜めようとすると、そのまますみれが家の前へいってしまった。


「あら、すみれちゃん。今から颯と登校?」

「ええ、着替えをとりにきまして。颯君もすっかり体調よくなったので」


 母さんとすみれが仲良さそうに話をしている。

 そしてすぐに見つかった俺に母さんは何も言わずに「さっさと学校行きなさいよ」とだけ。

 

 そして当たり前のように先に家に上がっていくすみれを追いかけるように帰宅して着替えて。


 また、すぐに家を出た。

 そのまま学校へ。

 一日休んだだけでも少し気まずい感じがしたけど、すみれがずっと「大丈夫大丈夫」と笑ってくれるのが心強かった。



 授業中。

 携帯が震えたのでポケットからこっそり取り出して画面を見ると、すみれから。


「休み時間に会いにいくね」


 そんなメッセージを見て、俺はニヤっとしてしまった。

 彼女がいるってこんなに楽しいんだと。

 しかもその彼女が俺のことを大好きだなんて、そんな幸せな話はない。


 もう、このまま彼女とずっと一緒というのも悪くないかも。


 そんなことを考えていると、やがて授業が終わった。

 そして紫すみれはすぐに俺のところにやってきた。



「颯君」


 彼に会いに来た。

 彼も嬉しそうに、そして照れくさそうに私の方を見る。


 彼のクラスメイトもみんなこっちを見る。

 もう、私たちの関係に気づいてる。

 それでいい。

 それがいいの。

 誰にも邪魔されたくないし。

 彼も私のことを受け入れてくれる覚悟ができたみたいだし。


 あー、でも。

 颯君の方を見てる女子たちがうざい。

 私のことを見てる男子たちがきもい。


 やっぱり学校って、窮屈だなあ。

 彼とずっと一緒にいた昨日の夜が忘れられないなあ。


 どうにか、ならないかな。

 ずっと一緒にいる方法。


 ……学校、一緒に辞めてって言ったら辞めてくれる?

 一緒にいたいからって言えば受け入れてくれる?

 ダメだってわかってても、それでも私の気持ちに寄り添ってくれる?

 くれるよね?

 私のヒーローだから。


 でも、もし言ってくれなかったら。

 ううん、絶対彼は私の味方。

 信じてる。


「颯君、大好き」


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