するり

 紫すみれの肩に手を乗せたまま俺は固まった。

 触っていいのは一体どこなのか。

 首か、それとも頭か。

 いや、やはりそういう意味なのか。

 しかし違った場合俺はただの変態に成り下がる。

 いやいやそうじゃない。

 ここで彼女の体に触ってしまえばいよいよ言い逃れなんてできなくなる。

 既成事実まっしぐらだ。

 触るなよ。

 一時の気の迷いで人生を棒に振るなよ……。


「もう、こうしていいんだよ?」

「え? あっ」


 手を掴まれて引っ張られると、そのまま俺の手は彼女の胸の辺りまで運ばれる。

 そして気がつけば俺は彼女の胸元の大きな山に手を乗せていた。

 

「ねっ、女の子って柔らかいんだよ?」

「あ、あの、あれ……」

「緊張してる? 私も。ほら、ドキドキしてるのわかる?」


 心臓の鼓動を確かめさせようと、彼女は俺の手を自分の胸元に押し付ける。

 そしてむにゅっと、柔らかい感触が掌いっぱいに広がると、俺は夢中で彼女を後ろから抱きしめていた。


「もう、どうしたの滝沢君?」

「……こうしてたい、かも」

「いいよ。でも、もう遅いからベッドに行こっか」

「……うん」


 確かに触れた彼女の胸の感触を確かめるように拳に力が入る俺は、促されるままベッドへ。


 そして寝そべると、紫すみれが部屋の明かりを暗くする。


「私、真っ暗だと寝れないの。常夜灯で大丈夫?」

「だ、大丈夫」

「じゃあ、寝よっか」


 彼女と同じ布団に入ると、さっきまで以上に甘い香りが漂う。

 そして彼女の体温が伝わってくる。

 さらには息遣いも。


 暗い部屋の中でも、むしろ存在感が増す紫すみれと布団の中で見つめ合う。


 このまま、彼女をたぐりよせてキスをして抱きしめてしまったら俺はどうなるのか。

 また監禁されてしまうのか。

 それとも一生監視されながら生きることになるのか。

 でも、今だけはそんなことは考えても無駄だった。


 スルスルと上着を脱いで、俺の方へ近づいてくる可愛い同級生に俺の理性も意識もどこかへ飛んでいった。


 気づいたら。


 俺はもう、彼女を抱いた後で。

 裸のまま俺に微笑む彼女を横目に、スッと意識が遠くなった。



 おやすみ、滝沢君。

 私たち、ようやく一緒になれたね。

 好き、大好き。

 あの日からずーっと。

 だからこうして体を重ねてお互いを確かめあえて嬉しい。

 疲れて寝てるとこも可愛い。


 でも、起きたらまた夢から覚めちゃうのかな。


 やだ。

 やだなあ。 

 ずっと夢の中にいてほしいなあ。

 いっそこのままずっと眠ってくれてたら……ううん、もうちょっとおしゃべりしたいもんね。


 おやすみ、滝沢君。


 明日から、他の子とは目も合わせたらダメだよ。

 そんなことになったら。


「ずっとこのお部屋にいてもらうから」

 

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