罪と罰
「はい、また私の勝ちだね。ほんと滝沢君ったらゲーム下手だよね」
「……おかしいなあ」
俺はゲームも好きだし彼女がつけたゲームだってもちろんうちにもあって毎日プレイしていたものだから負けるはずがないと思っていたのだが。
「それも周回遅れだって。滝沢君って不器用なんだね」
「……」
いくら紫すみれがゲームが得意でもこんなに大差で負けるとは。
改造なんかはしていないだろうけど、まるで他のコンピューターのプレイヤーが全員彼女の味方かのように俺を妨害してくる、ように思えるのは気のせいだろうか。
それにアイテムも彼女にばかりいいものが出る、気がする。
いや、負けた言い訳に過ぎないのかもだけど。
とにかく、負けた。
「じゃあ罰ゲームだね。滝沢君、準備はいーい?」
「まあ、約束だから」
彼女から課せられる罰ゲームとやらに俺は身構える。
人に手錠をかけてくるほどの異常な執着心を持つ彼女だから、罰ゲームと称してとんでもない要求をしてくるに違いないとわかっていても断れない。
なぜといえば、ゲームをしている最中、ずっと隣で「約束破る人は死んじゃえ、約束破ったら殺す、約束守れない人はゴミだよね」と、独り言をつぶやいていたから。
目がキマッていた。
どこを見ているかわからないような、焦点の合わないドロっとした視線。
なのに力強く、狙った獲物は絶対見失わないと覚悟を決めたような目つき。
そんな狂気に俺はビビっていた。
そして運命の罰ゲームの発表、だが。
「私の肩、揉んでくれる?」
「へ?」
「もう、肩揉みだよ。ほら、読書って肩凝るからさ。もしかして断るの? 約束したのになー」
「す、するよ」
てっきり今夜は寝かせないとか、手足を縛らせろとか言われると思っていたので拍子抜けだったが、少しホッとしながら彼女の背後へ回る。
そしてゆっくりと、彼女の華奢な首筋に手を伸ばそうとすると急に心臓の鼓動が早くなって、手が止まった。
「どうしたの? 早く肩揉んで?」
「で、でも」
「もしかして触っていいのかなって思ってくれてる? ふふっ、紳士なんだ。大丈夫よ、肩なんだし」
「……」
俺を見上げる彼女の目が怖い。
触れることすら拒むなんて許さないといった鋭い目。
いや、この場合は約束を破ったら許さないという強い意志の表れか。
どちらにせよこのまま何もしないなんてことは無理だろう。
覚悟を決めて、そっと彼女の肩に手を置く。
すると、「あっ」と彼女が声を出した。
「ご、ごめん痛かった?」
「んーん、大丈夫。滝沢君の手が冷たくてびっくりしちゃった。続けて?」
「う、うん」
ゆっくり、親指に力を込める。
すると、柔らかい彼女の肩に俺の指がグッと沈んでいく。
初めて触る女の子の肌のすべすべした感触と、柔らかさに俺の鼓動はどんどんと早くなる。
このまま少し手を伸ばせば、なんて変なことまで頭をよぎる。
その時、また振り返りながら俺を見上げる彼女が、笑いながら言った。
「肩以外も、いいよ?」
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