罰ゲーム

「お風呂入る?」


 紫すみれの家に再び帰るとすぐに彼女が俺にそう言った。

 

「い、いやさすがにそれは」

「でも、条例で夜の十時以降に高校生が外を出歩いてたらダメって決まってるんだから。朝まではここにいないとだし」

「……朝早くに帰ってシャワーでも浴びるよ」

「えー、汚いよ? ほら、最近暑いし汗流さないと」


 自然な流れでここに泊まることが勝手に確定していたが、それは心のどこかで覚悟していたのであっさり受け入れたけど。


 風呂まで借りるのはちょっとやりすぎだ。

 同級生の女子の部屋で、風呂場とはいえ素っ裸になるなんてどうかしてる。

 彼女ならともかく。

 紫すみれと俺はただの友人だ。

 最も彼女は明確に俺への好意を示しているが、俺にはまだ踏ん切りがついていない。


 誰もが憧れる学園のアイドル。 

 そんな子が、理由はどうあれ俺を好きでたまらないなんて男名利に尽きるはずなのに。

 

 彼女の裏の顔が見え隠れするせいで決心がつかない。

 平気な顔で人に手錠をかけるような子だ。

 エスカレートしたら何をされるかわかったもんじゃない。

 でも。


「ねっ、シャワー浴びてきて?」

「……うん」


 可愛い顔で迫られると俺のこんにゃくみたいな意思は揺らぐ。

 期待させても悪いけど、無碍にもできない。


 ていうか俺が期待してる。

 このあと、彼女と一晩を共に過ごすことを。


 服を脱ぐ時も、シャワーを浴びてる間も、ずっと胸の高鳴りがおさまらなかった。


 熱いお湯で顔を拭っても俺の下心は洗い流されてくれない。

 むしろ、裸の自分を鏡で見ているだけで変な気になっていく。

 このまま部屋に戻ったらどうなるんだろうとか。

 そんな変態じみたことまで考えてしまいながらも、なんとか理性を保って体を拭いて服に袖を通した。


 そして部屋に戻る。


「あっ、早かったね」

「う、うん」

「ねえ、隣おいでよ。ほら、一緒にゲームしない? 人が遊びにくることなんて初めてだからちょっとテンションあがっちゃって」

「……わかった」


 彼女の隣に座る。

 するとさっき俺が借りたシャンプーの香りが彼女からふわっと漂ってくる。

 しかし同じ香りのはずなのにやけに甘く感じる。

 女子特有のものなのか、それとも彼女から特殊なフェロモンでも出ているのか。

 その香りにまた胸が熱くなる。


「どうしたの?」

「いや……」

「緊張してる? 私もだよ? ねっ、ゲームはやめてもう寝る?」

「……」


 チラッとベッドを見た。

 床に布団なんて敷かれていないし、案外狭いこの部屋にそんなスペースも見当たらない。

 寝るとしたらやはり同衾、なのか。

 そんな想像をしながらも俺は「少しだけゲームしたいかな」と抗った。


 少しつまらなさそうに「じゃあ、対戦しよっか」と呟く紫すみれは、ゲームの電源を入れた。


 パッと明るくなった画面を見ながら彼女は「負けたら罰ゲームね」と。


 始まったのはレーシングゲームだ。

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