そういうこと
「あ」
コンビニに到着すると、見覚えのある人にばったり出会った。
三船咲。
コンビニの制服を手に持って店から出るところだ。
バイト、ここでしてたんだ。
「あら、三船さんこんばんは。お勤めご苦労様です」
「……私のバイト先聞いた理由ってこういうことだったのね」
「え、聞いたっけ? バイトしてるのかどうかは伺ったけど、それは読書部で活動するのに支障ないか確認したかっただけよ」
「……白々しい。私もう上がりだから」
苛立ちを隠せない様子の三船さんは逃げるように暗闇に消えていった。
そんな彼女を俺は心配そうに見てしまっていたが、隣の紫すみれは得意そうに笑いながら「知ってる」とつぶやいてから俺の方を見た。
「偶然三船さんに挨拶もできるなんてびっくりだね」
「う、うん。でも、うちの高校はバイトダメなんだけど大丈夫なのかな?」
「隠れてしてる人なんていっぱいいるよ? ほら、それこそ滝沢君だって」
「あ、いや、まあそれは……」
「あはは、大丈夫バラしたりしないから。それにあの時一回だけなんでしょ?」
「それはそうだけど」
「誰でも悪いことしてみたい気持ちってあるもんね。背徳感っていうのかな? 私もあるもん、そんな時」
そんな話をしながら一緒に店内へ。
そして向かったのはスイーツコーナー。
「ねっ、夜に甘いもの食べるのも背徳感あるよね」
「でも紫さんは細いから」
「そうでもないよ? それに女の子はすぐ太っちゃうからさ」
「そ、そうなの?」
「でも今日は食べちゃう。気分いいし」
値段も見ずにカゴにデザートを放り込む彼女はそのままレジへ。
急いで財布を出そうとするも「ここは私が出すから」と。
さっさとレジを終えてから店を出た彼女を慌てて追いかける。
「あ、あの。お金は」
「もー、大丈夫だって」
「でも悪いよさすがに」
「私は自分で欲しいものは自分で買いたいの。それに、今日は滝沢君にお世話になるんだし」
「お世話?」
「あーうんこっちの話。それより早く帰ろ?」
「う、うん」
「手、繋いでくれる?」
「……うん」
自然と手を繋いだあと、たくさんデザートの入った袋を受け取ろうとすると、「優しいね」と彼女が微笑んだ。
また帰り道は静まりかえっていた。
俺の心臓の鼓動が紫すみれに聞こえないかと、それだけが心配になりながら静かに彼女と夜道へ溶けていった。
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